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第6章

49.歩み寄る一歩

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魔法の歴史、特殊魔法大事典、血統魔法の秘術など難しい本ばかりで、読書をすると直ぐに眠くなってしまう俺にはとても読めない代物だ。

直ぐに突っかかってきて喧嘩口調のカイルのことは嫌いだが、こんな風に好きなモノに対する熱心な姿勢はとても好きだったりする。

もっと普通に話をできるようになれば、良き友達として色んな話をしてみたりしたいのだけど。

考えながら拾っているうちに結構な数の本を集めることができた。非力なユーナの腕力では持ちきれない重さになった本の山を、床にドスッと下ろした。

よくここまでの量を一人で運べるものだ。本はまだカイルの後ろにも数冊は落ちている。こうなったら全て拾っておこうと、移動して残りの分も拾い出すと、カイルも膝をついて一つ、また一つと本を拾い始めた。

「…カイル様は本当に魔法がお好きなのですね。どの本も魔法についての物ばかりですわ。凄いですわね」

また酷い言葉を投げ掛けられるかもしれない。そう思ったが今の彼からはピリピリとした雰囲気を感じなかったので素直に問い掛けてみた。

返ってこない返事に様子を伺うと、横で淡々と本を拾うカイルは、先程のように怖い顔をしてはいなかった。何かを考えているようで、瞳には迷いがあるように見えた。

口を僅かに開いては閉じてを繰り返し、ついに最後の一冊をカイルが拾い上げた。本の山は三つになり、本当に台車を使わずに運んだのかと思ってしまった。

「…カイル様は怪力ですの?」

思わず心の声が漏れてしまい、慌てて口を押さえたが気づいた時には遅かった。その瞬間、ギョロリと切れ長の瞳でユーナは睨まれたのだ。

また怒らしてしまった?!と内心ビクビクしている俺を煽るようにカイルが大きな溜め息をついた。

「…貴女は馬鹿ですか」

「なッ…!馬鹿とは何よ!?」

いきなり馬鹿呼ばわりをしてきたカイルに思わず負けじと睨み返す。

片手でまた眼鏡の位置をグイッと戻すカイル。この動作は彼の癖なのかもしれない。

「この量の本を流石の俺でも運べる訳がないだろ。これは風魔法を使って本を浮かばせていたんだ。城でも魔法を使うことが許された宮廷魔術師アポストルの階級2等以上の者は限られてはいるが、研究室以外でも使用を許されているからな」

初めて嫌味の含まれない普通の言葉に、鳩が豆鉄砲を食らったかのようにポカンとしてしまった。

「…なんだ?その驚いた顔は。俺が懇切丁寧に説明してやったと言うのに、失礼な奴だなお前は」

そう言ってカイルは立ち上がり本に手をかざして何かを唱えると、全ての本が宙に浮かび上がった。
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