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第7章
54.さあ、始めようか
しおりを挟む口をパクパクとして呆気に取られたメノウを静かに待った。するとメノウは、コインを入れたら動くオモチャのように、小刻みに手を動かして何かを必死に伝えようとしていた。
落ち着きのない彼女の背中に手を回して、そっと背中を撫でて落ち着かせてあげる。
そうすることで、漸くメノウは深く息を吸って深呼吸を繰り返すことで瞳に色が戻ってきた。
「…ダメではないですわ。ユーナも私も女同士!何も心配することは無いですもの。ええ、問題ありませんわ。そうよ、あるわけありませんもの。さあ、邪魔をする者もいないですし、早速作業に入りましょうユーナ!」
握り拳を作ってウンウンと力強く頷いて、真ん中にある大きなテーブルに型紙や布を広げていくメノウ。
途中からはユーナにと言うよりも、自分に言い聞かせるようにブツブツと呟いていた気もするが、そんな行動をするメノウも面白くて可愛い。
女同士だから大丈夫だと言うメノウは忘れてしまっているのだろうか。俺が心は男であることを。それとも、恋愛対象が女性であることに気づいていないのかもしれない。
もし、恋愛対象が同性である女性と知ったら、こんなにも彼女は落ち着いていないだろう。そう思うと何だか可笑しくて、メノウに気付かれないように小さく笑った。
まだ呪文のように呟いているメノウをからかいたくなるが、あまり苛めてしまうと拗ねられてしまうので、グッと我慢をすることにした。
手に持ったままのベリー色のドレスを汚さないようにそっと元の場所に戻すと、足下に置いていた鞄を抱えてメノウの元に向かう。
「あぁ、そうだね。作業をしようか。メノウの腕が思ったよりも上手いことに驚いたよ。プロも顔負けの出来栄えだよ。あのベリーのドレス、とても美しい物だったよ。刺繍も細やかで丁寧な代物だし、華が咲いたように広がるスカートの重なりも美しいよ。レース生地のふんわりとした柔らかさと透け具合が絶妙な美しさを表現してくれているんだね。メノウは既にお店が開ける腕前だよ!」
伝え損ねていたドレスの感想をにこやかに語りながらソファーに腰を沈める。
「本当の本当にそう思って下さいますか…?」
そう訊ねるメノウの瞳は不安に揺れていて、握りしめていた手が白くなっていた。
そんな彼女に信じて貰えるように、出来るだけ優しい声音で彼女の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「ああ、本当に美しいドレスだよ。だから、自信を持っていいんだよメノウ。君の魅力の一つだ」
揺れていた瞳の焦点にゆっくりと強い炎が宿る。メラメラと燃えるその炎は、ちょっとしたことでは消えそうにないしっかりとした炎に見えた。
きっとメノウはこれからグンと成長をする。周りが放って置くことのできない立派な令嬢になる。
俺も彼女に負けないように食らいついていかなければ。
さあ、俺達の挑戦を始めようか。
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