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第7章
53.素敵なドレス
しおりを挟むユーナは近くにあったベリー色のドレスを手に取った。
丁寧な縫い目に、細やかな刺繍。花の一つでも手間が掛かりそうな美しいデザインの刺繍は、肩から胸元までギッシリと施されていて、これだけで何週間も時間を費やしてしまうような高度なものであった。
ヒラリと広げたスカートの部分は、華が咲いたようにフンワリとしていた。柔らかく広がる淡く透けるレース生地の奥に重なる濃いシフォン生地が美しく、着る者を更に美しく魅せるであろう一着であった。
素晴らしい。その一言が正に相応しいドレス。食い入るようにドレスを見つめ続けて声を発することを忘れてしまうほどに。
その様子を横で見ていたメノウは、ユーナがどのような感想を抱いたのか不安でソワソワとしてしまう。
両手をグーに握りしめて、胸の高さに持ち上げて今か今かと待ち構えるのだが、自分の世界に入ってしまったユーナは気づかない。
「もおッ、ユーナ!何か言って下さい!不安で私、胸が破裂しそうだわ」
ついに待ちきれずにポカポカとユーナの肩を叩いてメノウが訴えると、漸くユーナがメノウを見てくれた。
「メノウ、ごめんなさい気づかなくて!だから叩かないでったら!イタタ…。あら?今ユーナって呼んでくれた?」
呼び捨てで名前を呼んでくれたのが嬉しくて、メノウの顔を覗き込みながら問いかけると、ポカポカとさほど痛くない優しい攻撃の手が止まった。顔を真っ赤に染めて俯いたメノウが恥ずかしがりながら呟いた。
「あれは…つい勢いで。だって何も言ってくれないことが不安だったんですもの!私を忘れてるユーナも酷いです!」
「ユーナって呼んでくれて嬉しいんだ。責めてないよ俺が悪いんだから。メノウそんなに怒らないで?」
頬を膨らませてプリプリと怒って拗ねるメノウの頭を優しく撫でる。
女の子の扱いはよく分からないから、とりあえず小さい子にするように頭を撫でてあやしてみたのだが。
メノウの元々赤かった顔が、耳まで赤く染まって漫画なら頭から湯気が出ていそうなほどに茹で上がっていた。
あれれ?
「…メノウ。顔が真っ赤だよ?まだ怒ってるのかい?許してくれないか、今度からは気を付けるから。ね?」
慌ててメノウのご機嫌を伺うが、下に俯いたままプルプルと肩が震えていて表情が分からない。
気軽に女性の頭に触れるべきではなかったのだろうかと、悩み始めたユーナの悩みを吹き飛ばすようにメノウがガバッと顔を勢いよく上げた。
「もぉーッ!いつもズルいです。急に男言葉になって、ユーナは令嬢が堕ちてしまいそうな低い甘い声で囁くのですもの…。許してしまいますわ!」
またポカポカと叩こうと振り上げられたメノウの手を今度はしっかりと握って止める。
「そんなにも甘い声なのかい?俺には分からないな。それに、前に二人っきりの時は男言葉でも良いとメノウが言ってくれたんじゃないか」
「…確かに言いましたけど、まだ侍女たちが居ますわ!」
そう言ってメノウが入ってきた入口を振り返ると、ロマノール家の侍女もマーサも誰一人として部屋の中にはいなかった。
驚いた顔でユーナを見てきたメノウにニッコリと微笑む。
「俺付きの侍女に、こちらに着いたらメノウと二人っきりにして欲しいと頼んでいたんだ。だから、ロマノール家の侍女達も連れて行ってくれたんだと思うよ?二人の方が作業も捗るかと思ったんだ。ダメだったかい?」
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