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第8章
62.負ける訳にはいかない
しおりを挟む「そう。あのリリス様でしたか。レオン殿下がそれはもう…大切にされているそうですね」
ヒロインであるリリスに対してどう接するのが正解なのか、答えが出せないユーナは上の空のままに言葉にする。
そんなことだとは知らず、ユーナの声に覇気がないのはレオン殿下の気持ちが自分に無いことに落ちこんでいると受け取ったリリスはとても嬉しそうな声で話し出した。
「そうなの。私達とても愛し合っていますのよ?昨日もレオン様と街でデートをしましたの。レオン様って、とてもお優しいんですのよ!転けそうになった私を、優しく抱き止めて下さいましたの。あんなにも格好良い殿下を独り占めできる私は幸せ者ですわね」
キャッ、と頬を赤く染めて可愛らしく照れるリリスの姿は、護ってあげたいという男性の庇護欲を駆り立てていた。
案の定、通りすがる男達の目線はリリスに釘付けだ。
元男であるユーナには、その男達の気持ちが少し分かる気がした。
小さくて愛らしいリリスが頬をほんのり紅くさせて笑えば、華が咲き誇ったかのようにキラキラして眩しい。
いつまでもその笑顔が自分にだけ向けられていたい。その笑顔を護ってあげたい。そう思わせるような何かがリリスにはあった。
これがヒロイン補正であろうか。もしかしたら、魅了の魔法を持っているのかもしれない。
そして、その魅了の力を使って攻略対象キャラ達を射止めているのかもしれない。レオン殿下もきっと魅了に掛かっている。
記憶を思い出すまでのユーナは、一途に婚約者であるレオン殿下を愛していた。少なからずとも、レオン殿下も好意を持っていてくれた。
リリスに出会うまでは。
魔法一つで人の心が変わってしまう。なんとも寂しくて、切なくて儚いものか。
昔のユーナがとても可哀想で、リリスに対する憤りが沸々と募る。長い時をかけてやっと愛する人から向けられた好意を、魔法で無かったことにされたのだ。
そりゃあ、階段から飛び降りたくなるだろう。俺でもきっと人生に絶望してしまう。
いくら可愛らしくて魅力的であろうと、俺はリリス・クラウザーを好きになれない。
もう一人の自分であったユーナの為にも、これからの俺の楽しい人生の為にも、俺はヒロインに負ける訳にはいかない。
庇うように立っていたライオスの陰から一歩踏み出す。
カツンッ。意匠と飾りが美しい特注の漆黒の革靴が静かな廊下に音を鳴らす。
「そうなんですの。レオン様と仲がよろしいようで良かったですわね」
余裕に満ちた笑みでリリスに微笑みかける。敵に弱みなんて見せない。見せれば負けてしまう!
先程とは違って強い瞳をしたユーナに、リリスは自然と後退っていた。
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