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第8章
63.女はやはり怖いです…
しおりを挟むそして、一瞬だけユーナに対して凄い怖い顔で睨んできた。まるで般若のような恐ろしい顔で、下唇を噛み締めてジッと睨んでいるのだ。
〝どうしてそんなに動揺しないの?!〞
〝泣いて叫んで、慌てふためきなさいよ!!〞
と、聞こえない声が聞こえてきそうな憎しみのこもった強い瞳で睨まれれば、負けないと強く誓った心が意図も簡単に砕け散りそうだった。
ダメだ。しっかりしろ、俺!相手は高々十七歳の少女だ。オジサンの俺が負けるなんて情けないだろッ!
瞳を閉じて頭を軽く左右に振って自分に鼓舞をし瞳を開けば、もうニコニコと華のような笑顔をしたリリスに戻っていた。
さっきまでの恐ろしい顔をしていた人物と同一人物とは思えない変わり様だった。
女はやはり顔を使い分けるのが上手い。いくら異世界でも、可愛いらしい令嬢だったとしても母さんや姉貴と同じなんだ。
そう思うとやはり女性は怖い生き物だ。
綺麗な薔薇には刺があるように、可愛らしい女性には刺どころか毒もある。厄介だ。ほんとに。
はぁ。とユーナが内心溜め息を吐いていたとは知らないリリスは、鈴が鳴るような可愛らしい声で話し掛けてきた。
「意外ですわ、ユーナ様は婚約者であるレオン様が他の女性とご一緒にされるのはお嫌ではないのですか?もしかして、レオン様の気を引きたくてライオス殿下にお近づきになったのですか?」
悪意は無さそうな声音だったが、広げた扇子の後ろで隠れてはいるはずの口元が笑っているように見えた。
「リリス様、婚約者が他の女性と一緒にいることを嫌に思わない令嬢はおりませんわ。私も心を痛めて泣いた日もございますわ…。決して、そのようなことは…」
最後は消えそうなほどに小さな声で囁いて、いかにも辛いのだという表情を作って顔を背ける。
ちょっと、あからさまだっただろうかと思ったが、ライオスが慰めるように肩を抱いてきたのでそれほど下手でもなかったのかもしれない。
そう安心したのもつかの間で、目の前から苛立たしげな声が降ってきた。
「なら、どうしてそんなに平気そうな顔でいられたのですか?私には分かりません。今もレオン様のことで辛いと言いながら別の男性の腕の中にいる。本当はただの男好きなのではありません?ライオス殿下、ユーナ様はライオス殿下に取り入りたくてそのように悲劇のヒロインのように振る舞っているに違いないですわ!」
あぁ、恐ろしいこと。まさか侯爵家の令嬢がそんな!などと、あること無いことを取り巻きと話を広げていくリリスに開いた口が塞がらない。
この世界のリリスはハーレムルートではなく、レオン殿下ルートを選んでいるようだから一途ではあると思う。
けれど、彼女の異性との噂は多い。いろんな男に色目を使っていて、いつ見ても周りには男性たちを侍らせているらしい。
その男性たちの中には婚約者のいる者もいて、時おり令嬢たちの険しい声が聞こえてくるのだ。
婚約者に詰め寄り問いただす声であったり、元凶であるリリスに抗議する強い令嬢もいた。
たくさんの令嬢たちがリリスによって涙を流しているなか、リリスは鋼の心を持っているのか素知らぬ顔で毎日違う男性たちを侍らせている。
いくら一途でも、そんなリリスに男好きだ、ライオスを手にいれたいからか弱いフリをしているんだろうと言われても顔を歪めるしかない。
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