俺が侯爵令嬢として愛を知るまで

彼名

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第9章

72.小さなしこり①

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昨日はヒロインのリリスといざこざがあり、去り際の〝私はヒロインなのに!〞発言に頭を悩ませていたユーナだったが、約束をしていたシェスとの稽古の日程が決まったことと、マーサの温もりに胸がほっこりして笑顔で学園に行くことができた。

午前の講義も終わって愛らしい恋人メノウとお昼を一緒にするため、出会った東屋に向かったユーナは目を丸くした。

先に東屋に着いていたメノウが、ユーナを見るなりベンチからスッと立ち上がりドシドシと足音が聞こえてきそうな勢いで、ただならぬ雰囲気を漂わせて近寄ってきたのだ。そのあまりの怖さに思わず一歩後ろに後退ってしまうほど。

「メ、メノウおはようッ。どうしたんだぃ、その、何かあったのかい?」

後ろに下がった分だけメノウも距離を詰めて、おもむろにユーナの手を両手で包みこんできた。その小さくて柔らかいメノウの手に、こんな時なのに心臓が跳ねてしまう。

「ユーナ、昨日何があったのですか?」

「何って…何もないよ?」

いきなりの質問にしどろもどろになりながら答えると、メノウは期待していた答えを得られなかったのか、違う、そうじゃない!と目で訴えながら首を左右に振った。

「何かあったのでしょう?噂の男爵令嬢と会ったのでしょう?レオン殿下の心を奪ったと言うリリス様に。どうして何もなかったとおっしゃるんです」

ハッとしてメノウを見ると、あれだけあった勢いは無くて、ただただユーナが心配で堪らないという顔だった。

そんなメノウを見て思わず体をグッと引き寄せていた。心配で心配でたまらないと震える肩を、優しく壊れないように抱きしめる。

「メノウ、落ち着け。確かにリリス様には会った。だけど俺はもうレオンのことはどうでも良いんだ。何とも思ってないとは言わないが、恋愛感情なんてない。憎らしいとは思うけどね。だから、メノウが心配するほど俺は傷ついてない。下手に伝えてメノウを不安にさせたくなかったんだ」

「本当にレオン殿下のことを好いていないのですか…?私を安心させるためなら、嘘は付かないで下さいませ」

いくら言葉で伝えても腕の中にいるメノウは不安を拭いきれないのか、俺から目を逸らさない。困ったなと思う反面、自分のことで頭がいっぱいになってくれていると思うと、ほの暗い喜びが胸に湧き上がってくる。

もっとメノウの存在を確かめたくて、ふわりと柔らかい髪を指ですくう。太陽に透けて淡く見える桃色の髪は、ローズクォーツのように美しかった。

確か日本でローズクォーツの意味は、愛と優しさの象徴だったかな。メノウにピッタリな美しい石だと思う。

「どこまでも優しいねメノウ。俺がレオンのことを好きだったら身を引くつもりなの?でも、俺が好きなのはメノウだよ。レオンじゃない。そうでなければ、君と付き合わない」

その言葉を聞いたメノウは堪えていた何かが壊れたかのように泣き出した。無数の涙が頬を濡らしていくメノウにどう慰めるべきか分からず、前世で姪にしてあげた時のように頭を撫でてあげた。

最初は強張っていたが、段々と泣き声も落ち着いて身をゆだねるようにして体を預けてくれるメノウが可愛くて、もっと可愛い姿を見たくて意地悪をしてみたくなった。
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