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ココネのおねがい
舞空祭準備
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○
今年、カハズ村ではとても大きなお祭りがある。
──舞空祭。
村には世界からたくさんの観光客がくると予想されていて、大人たちは舞空祭の準備にずっと追われつづけていた。
観光客だけでなく、ハルの国、ナツの国、アキの国、フユの国それぞれの王様や女王様、王子様やお姫様などの来賓もくるそうで、その賑わいはどれほどになるのか想像できないと担任の先生から聞いている。
一年に一度、世界四つの国の一つで催されるお祭り。
去年はフユの国で開催された。今年はハルの国。来年はナツの国で開催予定。
そんな風にバトンを繋ぐように、開催国は四年に一度のペースで自国に巡ってくるというように、国の王様や偉い人たちが取り決めを行ったらしい。
村では休憩施設や宿泊施設を新しく作ったり、お店も新商品を並べようとしたり、みんながみんなてんてこ舞いだ。私のお母さんやお父さんも、お手伝いにずっと駆り出されている。
「チカの服のスキマから覗くくらいしかしてなかったけど、本当に大きなお祭りなのね。えっと……ヒコウセン?っていうのがくるんだっけ?」
「そうだよ。空を飛ぶ船。私も教科書でしかみたことないんだけど、それって面積だけで見たらこの村よりも大きいんですって」
「ええっ!? 村より大きなものが空から飛んでくるの!? 想像できないわね」
「私も。リリさんに教えてもらったんだけど、大きすぎて日光を丸一日さえぎっちゃうんですって」
「げぇ、太陽が出てくれなきゃ洗濯物がかわかないじゃない~」
「フフ、そうね。洗濯物だけじゃなくて、お野菜を育ててる農家さんたちも困るみたい。だから、そういう日があることを事前に決めてみんな備えてくれてるわ」
そよぐ風になびく髪をかきあげて、私は空をみた。飛行船の影が差し込むのはもうすぐだと村中に知れ渡っている。その日が終わればお祭りの始まり。
「お祭りのまえにチカと出会えて良かったわ。じゃなきゃ、私そんなこと知らないまま森で暮らしてた」
「そうね……」
服の内側から顔をのぞかせる妖精へ笑顔を返してあげる。
いま私たちがいるのは、飛行船がおりたつ予定の会場である。村の人口よりも多い船員の人たちを迎え入れるための花畑……そこに水をあげにきているのだ。
単純に水やりと言っても、なんとお給金の出る立派なお仕事。
このお仕事は時折お願いされているので慣れたものだけど、おうちからもらえるお小遣い以外のお金は貴重で、何を買おうか悩むのを楽しんでたりもする。
花の種を買おうか、それとも新しいプランターを買おうか。
ココネが羽を治して私の家にやってきたのは、森で別れてから五日目のこと。狼にちぎられた羽は元通りに生えそろっていて、人目がなければ私のまわりを自由に飛び回っていたりする。
本来はハカセさんが言っていたとおり三日で羽は治ったのだけど、ココネが留守にしていた分、身の回りの世話ができていなかったせいで、食器洗いや洗濯など家事がもろもろたまりきっていたとのこと。その処理に時間がかかってしまったらしい。
ハカセさんはあんな調子だから家事をあまりしようとせず、ココネがいつも面倒をみている。だけど、さすがに今回は堪えたと疲れた表情でため息をもらしていた。
でも、こうやって気兼ねなく森から出られるのはとても嬉しいらしく、他人がいなければこうやって気さくに話しかけてくれていた。
「それにしても大きなお花畑よね。見たこともない花がいくつかあるし、種類ってどれくらいなの?」
「詳しい数はわからないけど、よその国から記念に寄贈されたのもあるしいの。二千種類は越えてるってきいたわ」
「二千!? そんなに……」
ゴクリとノドをならすココネ。
口元をぬぐって、ひどく物欲しそうな眼差しでお花畑を見つめていた。
「花の蜜は吸っても良いけど、そのときは私に一声かけてね。みんなに見つかっちゃまずいでしょ」
「わ、わかってるって」
う~ん、本当にわかってるのかしら。今にも飛び出しそうなくらい目を輝かせているのだけど。
「あれ? ねえチカ」
「なに?」
「ちょっと疑問に思ったんだけど、ここのお花畑ってハルの国以外の花も植えられてるのよね。それって大丈夫なの? 環境が違ったら、花に悪い気がするんだけど」
「そうね。でも安心していいわ。魔法で保護されてるから、水さえあげていれば祭が終わるまでは咲いてくれるんだって」
「へえ。魔法って便利なのね」
「でも、そういう花は普通手に入らないわ。言ったでしょ、記念に寄贈されたって。都会のお花屋さんでも滅多に売られてないし、あったとしてもとても高価なの」
言ってて少し胸の内側がチクリとした。実のところ、私は魔法で加工された花はあまり好きじゃない。環境にそぐわないものを無理矢理咲かせるのは可哀想だと思うからだ。
「ふ~ん。じゃあ、一本だけもらうっていうのも気が引けるわね」
「え? 花がほしいの?」
「うん、実はさ」
「チカさん、お仕事は進んでるかしら?」
「っ!?」
声をかけられ慌ててココネを服のなかに押し込む。むぎゅ、と苦しそうな声が聞こえたけど、心のなかでゴメンと謝っておいた。
「ど、どうしたんですかリリさん」
「大したことじゃありませんわ。水やりが終わったので他を手伝おうと思って」
「あ、ありがとう、ございます。じゃあお願いしますね」
「クスクス、そんなに畏まらなくてもいいですわ。他の生徒と同じように気さくに話してくれて構いませんから」
「は、はい」
と返事はするものの、すぐには無理かなと内心苦い気持ちになった。
委員長のリリさんは村長さんの一人娘だ。同い年なのに、服装や立ち振る舞い、話し方などがとても上品だし大人っぽい。
だから近寄りがたい感じがして。
今年、カハズ村ではとても大きなお祭りがある。
──舞空祭。
村には世界からたくさんの観光客がくると予想されていて、大人たちは舞空祭の準備にずっと追われつづけていた。
観光客だけでなく、ハルの国、ナツの国、アキの国、フユの国それぞれの王様や女王様、王子様やお姫様などの来賓もくるそうで、その賑わいはどれほどになるのか想像できないと担任の先生から聞いている。
一年に一度、世界四つの国の一つで催されるお祭り。
去年はフユの国で開催された。今年はハルの国。来年はナツの国で開催予定。
そんな風にバトンを繋ぐように、開催国は四年に一度のペースで自国に巡ってくるというように、国の王様や偉い人たちが取り決めを行ったらしい。
村では休憩施設や宿泊施設を新しく作ったり、お店も新商品を並べようとしたり、みんながみんなてんてこ舞いだ。私のお母さんやお父さんも、お手伝いにずっと駆り出されている。
「チカの服のスキマから覗くくらいしかしてなかったけど、本当に大きなお祭りなのね。えっと……ヒコウセン?っていうのがくるんだっけ?」
「そうだよ。空を飛ぶ船。私も教科書でしかみたことないんだけど、それって面積だけで見たらこの村よりも大きいんですって」
「ええっ!? 村より大きなものが空から飛んでくるの!? 想像できないわね」
「私も。リリさんに教えてもらったんだけど、大きすぎて日光を丸一日さえぎっちゃうんですって」
「げぇ、太陽が出てくれなきゃ洗濯物がかわかないじゃない~」
「フフ、そうね。洗濯物だけじゃなくて、お野菜を育ててる農家さんたちも困るみたい。だから、そういう日があることを事前に決めてみんな備えてくれてるわ」
そよぐ風になびく髪をかきあげて、私は空をみた。飛行船の影が差し込むのはもうすぐだと村中に知れ渡っている。その日が終わればお祭りの始まり。
「お祭りのまえにチカと出会えて良かったわ。じゃなきゃ、私そんなこと知らないまま森で暮らしてた」
「そうね……」
服の内側から顔をのぞかせる妖精へ笑顔を返してあげる。
いま私たちがいるのは、飛行船がおりたつ予定の会場である。村の人口よりも多い船員の人たちを迎え入れるための花畑……そこに水をあげにきているのだ。
単純に水やりと言っても、なんとお給金の出る立派なお仕事。
このお仕事は時折お願いされているので慣れたものだけど、おうちからもらえるお小遣い以外のお金は貴重で、何を買おうか悩むのを楽しんでたりもする。
花の種を買おうか、それとも新しいプランターを買おうか。
ココネが羽を治して私の家にやってきたのは、森で別れてから五日目のこと。狼にちぎられた羽は元通りに生えそろっていて、人目がなければ私のまわりを自由に飛び回っていたりする。
本来はハカセさんが言っていたとおり三日で羽は治ったのだけど、ココネが留守にしていた分、身の回りの世話ができていなかったせいで、食器洗いや洗濯など家事がもろもろたまりきっていたとのこと。その処理に時間がかかってしまったらしい。
ハカセさんはあんな調子だから家事をあまりしようとせず、ココネがいつも面倒をみている。だけど、さすがに今回は堪えたと疲れた表情でため息をもらしていた。
でも、こうやって気兼ねなく森から出られるのはとても嬉しいらしく、他人がいなければこうやって気さくに話しかけてくれていた。
「それにしても大きなお花畑よね。見たこともない花がいくつかあるし、種類ってどれくらいなの?」
「詳しい数はわからないけど、よその国から記念に寄贈されたのもあるしいの。二千種類は越えてるってきいたわ」
「二千!? そんなに……」
ゴクリとノドをならすココネ。
口元をぬぐって、ひどく物欲しそうな眼差しでお花畑を見つめていた。
「花の蜜は吸っても良いけど、そのときは私に一声かけてね。みんなに見つかっちゃまずいでしょ」
「わ、わかってるって」
う~ん、本当にわかってるのかしら。今にも飛び出しそうなくらい目を輝かせているのだけど。
「あれ? ねえチカ」
「なに?」
「ちょっと疑問に思ったんだけど、ここのお花畑ってハルの国以外の花も植えられてるのよね。それって大丈夫なの? 環境が違ったら、花に悪い気がするんだけど」
「そうね。でも安心していいわ。魔法で保護されてるから、水さえあげていれば祭が終わるまでは咲いてくれるんだって」
「へえ。魔法って便利なのね」
「でも、そういう花は普通手に入らないわ。言ったでしょ、記念に寄贈されたって。都会のお花屋さんでも滅多に売られてないし、あったとしてもとても高価なの」
言ってて少し胸の内側がチクリとした。実のところ、私は魔法で加工された花はあまり好きじゃない。環境にそぐわないものを無理矢理咲かせるのは可哀想だと思うからだ。
「ふ~ん。じゃあ、一本だけもらうっていうのも気が引けるわね」
「え? 花がほしいの?」
「うん、実はさ」
「チカさん、お仕事は進んでるかしら?」
「っ!?」
声をかけられ慌ててココネを服のなかに押し込む。むぎゅ、と苦しそうな声が聞こえたけど、心のなかでゴメンと謝っておいた。
「ど、どうしたんですかリリさん」
「大したことじゃありませんわ。水やりが終わったので他を手伝おうと思って」
「あ、ありがとう、ございます。じゃあお願いしますね」
「クスクス、そんなに畏まらなくてもいいですわ。他の生徒と同じように気さくに話してくれて構いませんから」
「は、はい」
と返事はするものの、すぐには無理かなと内心苦い気持ちになった。
委員長のリリさんは村長さんの一人娘だ。同い年なのに、服装や立ち振る舞い、話し方などがとても上品だし大人っぽい。
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