心の花の国

いりえ。

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幕間

涙と金平糖

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 私が村の学校に入学する少し前の頃。
 村長さんが村役場に、旅する影絵一座を招待したことがあった。

 スクリーンに映し出される影絵芝居は、幼い私たちのみならず、大人たちもその迫力に目を奪われていたのを覚えている。

 彼らが滞在する期間、様々な演目が催された。

 竜と旅する雨雲の話。
 人魚とともに少女が歌劇のスタアになる話。
 星と星の間に橋をかける巨人の話。

 などなど。

 そして、私がひときわ印象に残っている物語が一つある。
 それは神話をもとにした御伽話だった。概要はこんな感じ。

 大昔、神様はたくさんの子供を産んだ。
 人間、竜、エルフ、巨人、ドワーフ、人魚、精霊、太陽、月――

 世界にいる全ての生命や自然は神様の子供という伝承から作られた、心珠にまつわる物語。

 主人公は人間なのだけど、その人間はとても卑しい性格をしていた。
 自分より優れた能力を持つ兄弟――人間以外の種族を毛嫌いしていたのだ。

 得意なことがあっても、それら全ては兄弟にかなうものではなかったから。

 竜のように空を飛べず、エルフのように聡明でもなく、巨人のように屈強でもなければ、ドワーフのように手先が器用でもない。
 人魚のように歌っても静謐さがなく、精霊や太陽や月のように自然を操れもしない。

 人間は神様から褒められる技能が何一つなかった。

 このままでは神様から愛を受けられないと悟った人間は、自分を磨くことを諦め周囲にウソの醜聞をまき散らした。
 竜の食いしん坊さ、エルフの虚弱さ、巨人の物覚えの悪さ、ドワーフの小汚さなど。

 他者を貶めることで、自らが清廉であることの証明と画策したのだけど。
 そんな策謀はあっけなく神様にバレてしまい、罰として二度とウソをつけないよう、その胸に真実の種――心珠を埋め込まれてしまったのだという。

 私はそのお芝居を見て、心珠はなんて恐ろしい経緯でついてしまったのだろう、と恐怖した。
 物語はそこで終わりではなかったのだけど、私はあまりの怖さに目を閉じ、耳を手で塞いでお芝居を見るのをやめてしまった。

 バクバクとなる心臓と、にじみ出る涙の熱さは今でも鮮明で鮮烈に記憶に残っている。
 芝居が終わって部屋が明るくなり、やっと一息つけるようになったあと、グズグズになった私に一座の団員さんが慌てて駆け寄ってくれた。

 両隣にはお父さんもお母さんもいてくれたので、心細くはなかったのだけど、怖い話を聞かせてゴメンねと、お詫びとして金平糖を一包みいただいてしまった。

 なんというか、食い意地だけはあったのだろう。
 そのときに食べた金平糖のあまじょっぱさが忘れられない。泣いてないときに食べたかったな、なんて頭の片隅に思ってたほど。

 ポリポリと口の中の星が弾むのを味わいながら、お父さんとお母さんが帰り道に物語の概要を最後まで話してくれた。

 真実の種を植え付けられた人間は、方々に謝罪を行った。
 それを受け入れた他兄弟たちは人間を許した。

 兄弟は人間の努力と苦悩を知っていたために、神様のように咎めることはなかったのである。
 兄弟たちは人間をこう評した。

 私たちは一つのことが得意だが、人間は様々な可能性を持ち得ている。
 私たちだって、人間を羨ましがっているんだよ。

 そのやりとりを見た神様は、自分の子供たちが独り立ちをしたと判断し、世界を私たちに譲ってどこかへ去っていってしまった。
 人間以外の兄弟たちは、困ったことがあったらいつでも頼って欲しいと手を差し伸べ、人間はその手を取って物語は幕を閉じるというお話だった。

 神様の子供たち全てが神様の愛を必要としなくなったから、神様は去っていったのでは、なんて両親は語っていたけど、そういう考察は私には難しくてあまり覚えていない。

 ただ、優しい終わり方をしたというのを聞いて内心ホッとした。
 家に着く頃には、口の中は星の甘さに満たされていた。
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