23 / 50
ココネのおねがい
フキノ村長とガルダ
しおりを挟む
「そんな。リリさんは村のことを想ってただけでしたし」
「許してもらえるなら私も安心だよ。ありがとう」
フキノ村長さんの心珠が、濃い青紫色の細長い花が咲く。アジュガの花。
花言葉は――「心安まる」「強い友情」。
そこで私はフキノ村長さんの、スーツ姿には不似合いなモノに気がついた。
その手には大きな革手袋がはめられていたのだ。私はそれが何のために着けられているのかを知っているので、ワクワクしながらこう尋ねた。
「ガルダが来てるんですか?」
ガルダとは、村長さんの家族の一員でもあるオオワシのこと。
大きくてたくましくて、その姿は滅多に見ることはできないのだけど、この村で人気のヒーローだ。
「うん。運び屋さんとしては引退してしまったけど、祭のセレモニーで飛んでもらう予定でね、少し訓練してるところさ。呼んでみるね」
言って、村長さんは指笛を鳴らすとどこからともなく大きな影が視界を覆い尽くしてきた。
村長さんの革手袋に乗り、グアッグアッ、クアックアッ、と鳴いてご機嫌の様子。
胸元からボソリと、ココネがこんなことを呟いてくる。
「この子見たことある。たまに妖精の森の空を飛んでるわ」
そうなんだ。返事はせず、久しぶりに見るガルダに「こんにちは」と挨拶をする。
ガルダもそうだけど、村長さんの家ではたくさんの鳥類を世話している。リリさんはそういう家系なのだと自慢げに語っていた。
私の心珠が開花したというしらせも、伝書鳩によって伝えられている。鳩にオオワシのほか、鷹やフクロウなど、村や村の外でお仕事ができる鳥を村長さんの家で教育・訓練しているのだ。
ガルダはその中でも一番の働き者だった。何年か前に引退したと聞いていたため、その姿は普段は見られなくなっていたのだけど。
現役のころのガルダは力持ちで、辞書程度なら軽々と運ぶことができるため、村でも村の外でも大人気の配達屋さんだったのだ。
「ガルダ、舞空祭のセレモニーがんばってね」
そう伝えると、ガルダはクアッと一度だけ返事をしてくれた。すると。
ジロジロと私の心珠をのぞき込んでくる。首をかしげて何度もまばたきをして、何かを不思議に思ってるよう。まさか。
危機感を覚え、私は服の上からココネにそっと手を置く。もしかして、ガルダにはココネが見えている? 鳥は動体視力が良いと言うし、ほんの身じろぎでもガルダは反応してしてしまうんだろうか。
「コラコラ。ガルダまでチカさんの心珠を疑ってるんですの? いけませんわよ、レディをジロジロ見つめるなんて」
リリさんが横からガルダを制してくれて、気がそれたスキに私は一歩下がった。ごめんねガルダ。
それを見て村長さんが一度息をついた。ガルダを空へ飛ばす。次に、革手袋をはめた腕をグルグル回して大きく深呼吸をする。
「ガルダも私も歳を取ったね。短い時間のはずなのに、あの子を乗せていると腕が疲れてしまうよ」
「それでもお父様は充分鍛えてますでしょう。リビングにある筋トレ道具、さっさと片付けてほしいんですけど」
「ん~、アッハッハッハ。これはやぶ蛇だったかな。ガルダは重いんだよ?」
フキノ村長は朗らかに笑って誤魔化そうとする。ガルダは猛禽類でもかなり大きい。翼を広げれば、子供の私どころか大人の背丈を悠々と越えるほど。
ガルダの止まり木として革手袋をはめている村長さんだけど、軽々とそれをこなすのは体を鍛えてるからだと説明を受ける。
大きな翼が羽ばたいているだけで、ガルダはとても格好いい。それを目で追っていると、村長さんからこんな質問をされた。
「話は変わるのだけど、リリも聞いてくれるかな。最近、誰か妖精の森に入ったりしてないか見聞きしてないかい?」
ビックリして心臓が飛び出るかと思った。かわりにココネが服の中で弾んでいて、逆に私は動揺を外に出さずにすんだのだと思う。
リリさんが先にこう答える。
「妖精の森? あそこは元々立入り禁止になってて誰も近づいていないはずですわ。チカさんもそれは知ってますわよね」
コクリと頷くも返事ができなかった。
だけど、リリさんにばかり話をさせるのも怪しまれると思い、私は逆にこう質問してみた。
「誰か、妖精の森に入った人がいるんですか? それを見た人がいるとか?」
「いや、そういうわけじゃないさ。最近大人たちは祭の準備に忙しくて見回りが充分に出来ていなくてね。規則を破った子供がいないか気になっただけだよ。まあ、目撃情報がないわけじゃないけど」
「というと?」
リリさんがその先を促す。私はおなかのあたりがヒヤヒヤとしてきていた。肝が冷えているってこんな感じなのかな。
「五、六年前くらいかな。妖精の森に人影があったっていう村人からの知らせがあってね。迷子届も捜索依頼もなかったものだから村人ではなく、おそらく旅人が迷い込んで入ってしまったのだと思うんだよ。妖精は今でも戻ってきてないけど、何も知らない人が足を踏み入れるのは危険だろう? だから、その頃から立入り制限を強化したのさ」
村長さんの心珠に花が咲く。青色のアスターの花。
花言葉は――「信頼」もしくは「少し心配」。
その旅人がどうなったのかは、残念ながらわからないらしいけど……。その人にめちゃくちゃ心当たりがあった。
「ハカセのことだ」
再びココネが呟く。
「許してもらえるなら私も安心だよ。ありがとう」
フキノ村長さんの心珠が、濃い青紫色の細長い花が咲く。アジュガの花。
花言葉は――「心安まる」「強い友情」。
そこで私はフキノ村長さんの、スーツ姿には不似合いなモノに気がついた。
その手には大きな革手袋がはめられていたのだ。私はそれが何のために着けられているのかを知っているので、ワクワクしながらこう尋ねた。
「ガルダが来てるんですか?」
ガルダとは、村長さんの家族の一員でもあるオオワシのこと。
大きくてたくましくて、その姿は滅多に見ることはできないのだけど、この村で人気のヒーローだ。
「うん。運び屋さんとしては引退してしまったけど、祭のセレモニーで飛んでもらう予定でね、少し訓練してるところさ。呼んでみるね」
言って、村長さんは指笛を鳴らすとどこからともなく大きな影が視界を覆い尽くしてきた。
村長さんの革手袋に乗り、グアッグアッ、クアックアッ、と鳴いてご機嫌の様子。
胸元からボソリと、ココネがこんなことを呟いてくる。
「この子見たことある。たまに妖精の森の空を飛んでるわ」
そうなんだ。返事はせず、久しぶりに見るガルダに「こんにちは」と挨拶をする。
ガルダもそうだけど、村長さんの家ではたくさんの鳥類を世話している。リリさんはそういう家系なのだと自慢げに語っていた。
私の心珠が開花したというしらせも、伝書鳩によって伝えられている。鳩にオオワシのほか、鷹やフクロウなど、村や村の外でお仕事ができる鳥を村長さんの家で教育・訓練しているのだ。
ガルダはその中でも一番の働き者だった。何年か前に引退したと聞いていたため、その姿は普段は見られなくなっていたのだけど。
現役のころのガルダは力持ちで、辞書程度なら軽々と運ぶことができるため、村でも村の外でも大人気の配達屋さんだったのだ。
「ガルダ、舞空祭のセレモニーがんばってね」
そう伝えると、ガルダはクアッと一度だけ返事をしてくれた。すると。
ジロジロと私の心珠をのぞき込んでくる。首をかしげて何度もまばたきをして、何かを不思議に思ってるよう。まさか。
危機感を覚え、私は服の上からココネにそっと手を置く。もしかして、ガルダにはココネが見えている? 鳥は動体視力が良いと言うし、ほんの身じろぎでもガルダは反応してしてしまうんだろうか。
「コラコラ。ガルダまでチカさんの心珠を疑ってるんですの? いけませんわよ、レディをジロジロ見つめるなんて」
リリさんが横からガルダを制してくれて、気がそれたスキに私は一歩下がった。ごめんねガルダ。
それを見て村長さんが一度息をついた。ガルダを空へ飛ばす。次に、革手袋をはめた腕をグルグル回して大きく深呼吸をする。
「ガルダも私も歳を取ったね。短い時間のはずなのに、あの子を乗せていると腕が疲れてしまうよ」
「それでもお父様は充分鍛えてますでしょう。リビングにある筋トレ道具、さっさと片付けてほしいんですけど」
「ん~、アッハッハッハ。これはやぶ蛇だったかな。ガルダは重いんだよ?」
フキノ村長は朗らかに笑って誤魔化そうとする。ガルダは猛禽類でもかなり大きい。翼を広げれば、子供の私どころか大人の背丈を悠々と越えるほど。
ガルダの止まり木として革手袋をはめている村長さんだけど、軽々とそれをこなすのは体を鍛えてるからだと説明を受ける。
大きな翼が羽ばたいているだけで、ガルダはとても格好いい。それを目で追っていると、村長さんからこんな質問をされた。
「話は変わるのだけど、リリも聞いてくれるかな。最近、誰か妖精の森に入ったりしてないか見聞きしてないかい?」
ビックリして心臓が飛び出るかと思った。かわりにココネが服の中で弾んでいて、逆に私は動揺を外に出さずにすんだのだと思う。
リリさんが先にこう答える。
「妖精の森? あそこは元々立入り禁止になってて誰も近づいていないはずですわ。チカさんもそれは知ってますわよね」
コクリと頷くも返事ができなかった。
だけど、リリさんにばかり話をさせるのも怪しまれると思い、私は逆にこう質問してみた。
「誰か、妖精の森に入った人がいるんですか? それを見た人がいるとか?」
「いや、そういうわけじゃないさ。最近大人たちは祭の準備に忙しくて見回りが充分に出来ていなくてね。規則を破った子供がいないか気になっただけだよ。まあ、目撃情報がないわけじゃないけど」
「というと?」
リリさんがその先を促す。私はおなかのあたりがヒヤヒヤとしてきていた。肝が冷えているってこんな感じなのかな。
「五、六年前くらいかな。妖精の森に人影があったっていう村人からの知らせがあってね。迷子届も捜索依頼もなかったものだから村人ではなく、おそらく旅人が迷い込んで入ってしまったのだと思うんだよ。妖精は今でも戻ってきてないけど、何も知らない人が足を踏み入れるのは危険だろう? だから、その頃から立入り制限を強化したのさ」
村長さんの心珠に花が咲く。青色のアスターの花。
花言葉は――「信頼」もしくは「少し心配」。
その旅人がどうなったのかは、残念ながらわからないらしいけど……。その人にめちゃくちゃ心当たりがあった。
「ハカセのことだ」
再びココネが呟く。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完】ベッドの隣は、昨日と違う人
月村 未来(つきむら みらい)
恋愛
朝目覚めたら、
隣に恋人じゃない男がいる──
そして、甘く囁いてきた夜とは、違う男になる。
こんな朝、何回目なんだろう。
瞬間でも優しくされると、
「大切にされてる」と勘違いしてしまう。
都合のいい関係だとわかっていても、
期待されると断れない。
これは、流されてしまう自分と、
ちゃんと立ち止まろうとする自分のあいだで揺れる、ひとりの女の子、みいな(25)の恋の話。
📖全年齢版恋愛小説です。
しおり、いいね、お気に入り登録もよろしくお願いします。
📖2026.2.25完結
本作の0章にあたるエピソードをNOTEにて公開しています。
気になった方はぜひそちらもどうぞ!
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは
紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。
真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。
婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。
白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる