24 / 50
ココネのおねがい
ウソの善し悪し
しおりを挟む
多分、ココネと出会う前のハカセさんのことだろう。
でも、旅人が迷い込んだから妖精の森へ立入るのを制限した、というのは初耳だった。
てっきり私は、妖精たちに出会うとイタズラをされてしまうからだと思っていたのだけど。
「お父様。旅人が迷い込んだという話、初めて聞くのですけど」
「うん、そうだね。でも、どのみち妖精の森は子供だけだと危険な場所に変わりないだろう? 旅人が迷い込んだなんて子供に教えて、余計に怖がらせる必要もないと判断しただけさ」
フキノ村長はウインクして笑みを浮かべた。
心珠に花が咲く。睡蓮の花。
花言葉は――「優しさ」「清純な心」。そしてアスターの花と同じく「信頼」の意味もある。
「というわけだから、引き続き妖精の森には近づかないようにね」
お仕事中お邪魔したね。
そう言い残して村長さんはその場を去って行った。
「ごめんなさいねチカさん。お父様が怖がらせるようなことを言ってしまって」
私が不安になっていることを顔色だけで見抜かれたのか、リリさんはそう声をかけてくれた。
実際は違うことで焦っているのだけど、それは口にせず慌てて首を横に振る。
「う、ううん。気にしないで。村長さんってやっぱり大変なんだね。村のこと考えてくれてて、セレモニーの準備もしなきゃいけなくて」
「大変なのはそうですけど、家だとけっこうダラダラしてますのよ。さっきも言いましたけど、お父様ったら私物を置きっぱなしにすることが多くて――」
と言いつつも、リリさんが村長さんであるお父さんを自慢に思い、そして尊敬している気持ちは伝わってきた。心珠の変化を見なくとも、声色でわかるほどに大好きなのがわかる。
自分がウソをついてることを誤魔化したくて、フキノ村長を気遣いたかったのだけど、リリさんはそれを雑談と捉えてくれたようだった。
話していくうちに冷えてきた緊張が徐々に薄らいでいく。
同時に、中断していた作業も一緒にこなしていった。
そうやって私たちは他愛のない話をした。リリさんは村にまつわる歴史を淡々と語り、私は花に詳しかったからその知識を自慢げにお披露目した。
あっという間に時間がすぎて、水やりも予定どおりに終わる。
とても楽しいひとときだった。
「一つお願いがあるのだけど、聞いてくれるかしら」
「なんでしょう?」
別れぎわ、リリさんはどこか寂しそうに笑って、私にこんなことを言う。
「敬語はやめてくれません? 私、チカさんとはもっと仲良くなりたいんですの」
「……あ……はい。いえ……うん」
返事がおぼつかない。村長さんの娘だからとずっと遠慮があったせいか、くだけた口調はすぐには無理だった。
「フフッ、徐々に慣れてからでいいですわ。それじゃあ、ごきげんよう。また学校で」
上品に笑ったあと、リリさんはスカートのすそをつまみあげてお辞儀をしてくれた。
私も頭をさげてその背中を見送る。少しだけ胸がドキドキしていた。リリさんはどこか遠い存在だと思っていたけど、話してみると親しみやすく、優しい人なのだと知る。
「友達が増えたね、チカ」
ひょこっと顔をだしたココネが笑顔で声をかけてくれた。私も顔がゆるんでしまう。
「うん。ウィルのおかげ、かな」
「え~、どうしてあいつが出てくるの~」
「だって、リリさんの気をこっちに向けてくれたのよ。じゃなきゃ、私のところまでこなかったと思うから」
「そうかもしれないけどさ~」
ココネはウィルが嫌いだ。どうにも犬猿の仲らしい。胸からこぼれるグチを聞きつつ、私も帰る支度をする。
それにしてもと思う。
心珠が開花してなくて本当によかった。なぜなら、私はウソをついていたから。
謝っている相手に対し、気にしていないなんて言ったから。本当は辛かった。
でも、本心を隠したおかげでリリさんとは仲良くなれた。新しい一面をみて、もっと親しくなりたいと思えたのだ。
ウィルの言葉を思い出す。
──心珠が本当に必要なものだと思うか?
──心珠があるせいで、他人から遠ざかる。
そうかもしれない。少なくとも、いま心珠が開花していれば、リリさんとは仲良くなれなかっただろうから。
良いことも悪いことも全部他人に伝わってしまう器官──心珠。
なんだか複雑な気分だった。
「そういえばココネ、リリさんが来る前に何か言いかけてたよね」
帰り道を歩きながら尋ねてみる。
すると、ココネは思い出したように手を合わせた。
「あ、そうだ。チカに頼みたいことがあって……」
でも、旅人が迷い込んだから妖精の森へ立入るのを制限した、というのは初耳だった。
てっきり私は、妖精たちに出会うとイタズラをされてしまうからだと思っていたのだけど。
「お父様。旅人が迷い込んだという話、初めて聞くのですけど」
「うん、そうだね。でも、どのみち妖精の森は子供だけだと危険な場所に変わりないだろう? 旅人が迷い込んだなんて子供に教えて、余計に怖がらせる必要もないと判断しただけさ」
フキノ村長はウインクして笑みを浮かべた。
心珠に花が咲く。睡蓮の花。
花言葉は――「優しさ」「清純な心」。そしてアスターの花と同じく「信頼」の意味もある。
「というわけだから、引き続き妖精の森には近づかないようにね」
お仕事中お邪魔したね。
そう言い残して村長さんはその場を去って行った。
「ごめんなさいねチカさん。お父様が怖がらせるようなことを言ってしまって」
私が不安になっていることを顔色だけで見抜かれたのか、リリさんはそう声をかけてくれた。
実際は違うことで焦っているのだけど、それは口にせず慌てて首を横に振る。
「う、ううん。気にしないで。村長さんってやっぱり大変なんだね。村のこと考えてくれてて、セレモニーの準備もしなきゃいけなくて」
「大変なのはそうですけど、家だとけっこうダラダラしてますのよ。さっきも言いましたけど、お父様ったら私物を置きっぱなしにすることが多くて――」
と言いつつも、リリさんが村長さんであるお父さんを自慢に思い、そして尊敬している気持ちは伝わってきた。心珠の変化を見なくとも、声色でわかるほどに大好きなのがわかる。
自分がウソをついてることを誤魔化したくて、フキノ村長を気遣いたかったのだけど、リリさんはそれを雑談と捉えてくれたようだった。
話していくうちに冷えてきた緊張が徐々に薄らいでいく。
同時に、中断していた作業も一緒にこなしていった。
そうやって私たちは他愛のない話をした。リリさんは村にまつわる歴史を淡々と語り、私は花に詳しかったからその知識を自慢げにお披露目した。
あっという間に時間がすぎて、水やりも予定どおりに終わる。
とても楽しいひとときだった。
「一つお願いがあるのだけど、聞いてくれるかしら」
「なんでしょう?」
別れぎわ、リリさんはどこか寂しそうに笑って、私にこんなことを言う。
「敬語はやめてくれません? 私、チカさんとはもっと仲良くなりたいんですの」
「……あ……はい。いえ……うん」
返事がおぼつかない。村長さんの娘だからとずっと遠慮があったせいか、くだけた口調はすぐには無理だった。
「フフッ、徐々に慣れてからでいいですわ。それじゃあ、ごきげんよう。また学校で」
上品に笑ったあと、リリさんはスカートのすそをつまみあげてお辞儀をしてくれた。
私も頭をさげてその背中を見送る。少しだけ胸がドキドキしていた。リリさんはどこか遠い存在だと思っていたけど、話してみると親しみやすく、優しい人なのだと知る。
「友達が増えたね、チカ」
ひょこっと顔をだしたココネが笑顔で声をかけてくれた。私も顔がゆるんでしまう。
「うん。ウィルのおかげ、かな」
「え~、どうしてあいつが出てくるの~」
「だって、リリさんの気をこっちに向けてくれたのよ。じゃなきゃ、私のところまでこなかったと思うから」
「そうかもしれないけどさ~」
ココネはウィルが嫌いだ。どうにも犬猿の仲らしい。胸からこぼれるグチを聞きつつ、私も帰る支度をする。
それにしてもと思う。
心珠が開花してなくて本当によかった。なぜなら、私はウソをついていたから。
謝っている相手に対し、気にしていないなんて言ったから。本当は辛かった。
でも、本心を隠したおかげでリリさんとは仲良くなれた。新しい一面をみて、もっと親しくなりたいと思えたのだ。
ウィルの言葉を思い出す。
──心珠が本当に必要なものだと思うか?
──心珠があるせいで、他人から遠ざかる。
そうかもしれない。少なくとも、いま心珠が開花していれば、リリさんとは仲良くなれなかっただろうから。
良いことも悪いことも全部他人に伝わってしまう器官──心珠。
なんだか複雑な気分だった。
「そういえばココネ、リリさんが来る前に何か言いかけてたよね」
帰り道を歩きながら尋ねてみる。
すると、ココネは思い出したように手を合わせた。
「あ、そうだ。チカに頼みたいことがあって……」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完】ベッドの隣は、昨日と違う人
月村 未来(つきむら みらい)
恋愛
朝目覚めたら、
隣に恋人じゃない男がいる──
そして、甘く囁いてきた夜とは、違う男になる。
こんな朝、何回目なんだろう。
瞬間でも優しくされると、
「大切にされてる」と勘違いしてしまう。
都合のいい関係だとわかっていても、
期待されると断れない。
これは、流されてしまう自分と、
ちゃんと立ち止まろうとする自分のあいだで揺れる、ひとりの女の子、みいな(25)の恋の話。
📖全年齢版恋愛小説です。
しおり、いいね、お気に入り登録もよろしくお願いします。
📖2026.2.25完結
本作の0章にあたるエピソードをNOTEにて公開しています。
気になった方はぜひそちらもどうぞ!
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは
紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。
真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。
婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。
白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる