心の花の国

いりえ。

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ココネのおねがい

ウソの善し悪し

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 多分、ココネと出会う前のハカセさんのことだろう。
 でも、旅人が迷い込んだから妖精の森へ立入るのを制限した、というのは初耳だった。

 てっきり私は、妖精たちに出会うとイタズラをされてしまうからだと思っていたのだけど。

「お父様。旅人が迷い込んだという話、初めて聞くのですけど」
「うん、そうだね。でも、どのみち妖精の森は子供だけだと危険な場所に変わりないだろう? 旅人が迷い込んだなんて子供に教えて、余計に怖がらせる必要もないと判断しただけさ」

 フキノ村長はウインクして笑みを浮かべた。
 心珠に花が咲く。睡蓮の花。

 花言葉は――「優しさ」「清純な心」。そしてアスターの花と同じく「信頼」の意味もある。

「というわけだから、引き続き妖精の森には近づかないようにね」

 お仕事中お邪魔したね。
 そう言い残して村長さんはその場を去って行った。

「ごめんなさいねチカさん。お父様が怖がらせるようなことを言ってしまって」

 私が不安になっていることを顔色だけで見抜かれたのか、リリさんはそう声をかけてくれた。
 実際は違うことで焦っているのだけど、それは口にせず慌てて首を横に振る。

「う、ううん。気にしないで。村長さんってやっぱり大変なんだね。村のこと考えてくれてて、セレモニーの準備もしなきゃいけなくて」
「大変なのはそうですけど、家だとけっこうダラダラしてますのよ。さっきも言いましたけど、お父様ったら私物を置きっぱなしにすることが多くて――」

 と言いつつも、リリさんが村長さんであるお父さんを自慢に思い、そして尊敬している気持ちは伝わってきた。心珠の変化を見なくとも、声色でわかるほどに大好きなのがわかる。
 自分がウソをついてることを誤魔化したくて、フキノ村長を気遣いたかったのだけど、リリさんはそれを雑談と捉えてくれたようだった。

 話していくうちに冷えてきた緊張が徐々に薄らいでいく。
 同時に、中断していた作業も一緒にこなしていった。


 そうやって私たちは他愛のない話をした。リリさんは村にまつわる歴史を淡々と語り、私は花に詳しかったからその知識を自慢げにお披露目した。

 あっという間に時間がすぎて、水やりも予定どおりに終わる。
 とても楽しいひとときだった。

「一つお願いがあるのだけど、聞いてくれるかしら」
「なんでしょう?」

 別れぎわ、リリさんはどこか寂しそうに笑って、私にこんなことを言う。

「敬語はやめてくれません? 私、チカさんとはもっと仲良くなりたいんですの」
「……あ……はい。いえ……うん」

 返事がおぼつかない。村長さんの娘だからとずっと遠慮があったせいか、くだけた口調はすぐには無理だった。

「フフッ、徐々に慣れてからでいいですわ。それじゃあ、ごきげんよう。また学校で」

 上品に笑ったあと、リリさんはスカートのすそをつまみあげてお辞儀をしてくれた。
 私も頭をさげてその背中を見送る。少しだけ胸がドキドキしていた。リリさんはどこか遠い存在だと思っていたけど、話してみると親しみやすく、優しい人なのだと知る。

「友達が増えたね、チカ」

 ひょこっと顔をだしたココネが笑顔で声をかけてくれた。私も顔がゆるんでしまう。

「うん。ウィルのおかげ、かな」
「え~、どうしてあいつが出てくるの~」

「だって、リリさんの気をこっちに向けてくれたのよ。じゃなきゃ、私のところまでこなかったと思うから」
「そうかもしれないけどさ~」

 ココネはウィルが嫌いだ。どうにも犬猿の仲らしい。胸からこぼれるグチを聞きつつ、私も帰る支度をする。
 それにしてもと思う。

 心珠が開花してなくて本当によかった。なぜなら、私はウソをついていたから。
 謝っている相手に対し、気にしていないなんて言ったから。本当は辛かった。

 でも、本心を隠したおかげでリリさんとは仲良くなれた。新しい一面をみて、もっと親しくなりたいと思えたのだ。
 ウィルの言葉を思い出す。

 ──心珠が本当に必要なものだと思うか?
 ──心珠があるせいで、他人から遠ざかる。

 そうかもしれない。少なくとも、いま心珠が開花していれば、リリさんとは仲良くなれなかっただろうから。
 良いことも悪いことも全部他人に伝わってしまう器官──心珠。

 なんだか複雑な気分だった。

「そういえばココネ、リリさんが来る前に何か言いかけてたよね」

 帰り道を歩きながら尋ねてみる。
 すると、ココネは思い出したように手を合わせた。

「あ、そうだ。チカに頼みたいことがあって……」
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