心の花の国

いりえ。

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ココネのおねがい

ティータイム

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 途方もない答えだった。ココネは悲しそうな表情でハカセさんを見上げている。
 長い時間をかけて。不安と戦って。その努力がみのるかどうかもわからないのに。

 他人を怖がらせないために森で暮らしている。でもそれは、自分の不安を我慢しているということ。
 今のハカセさんは辛そうに見えた。その不安を和らげるにはどうしたら良いのだろう。私一人ではなにも思い浮かばない。

 感情がなくなっているこの病気も治したほうが良いに決まっているのに。病気が悪化してしまったら、将来どうなるのだろう。
 感情が芽生えず、なにも喋らない生き物になってしまうかもしれない。
 植物だって、毎日観察していればその日によって機嫌や調子がわかるのに。

「ね、ねえっ! せっかくチカが遊びに来てくれたんだし、今からお茶しない? 私、紅茶いれるの得意なのよ!」

 沈黙がおりる私とハカセさんのあいだに、ココネがそう割って入ってきた。
 気を揉ませてしまったかな。おかげで気まずさが取り除かれて、空気が少し和らいだ気がした。

「そう、だね。ボクは。何か。……おやつを。用意する。キミは。……ココネを。手伝って」
「ハ、ハイ」

 ハカセさんが外に出て行くのを見て、私とココネは台所に移動した。
 小さい釜土があって、火種の火打ち石を借りる。

 家でも料理の手伝いをするとき、火付け役は私だ。火の取り扱いは間違えると、火傷はもとより火事になって家がなくなってしまう事故に繋がる。
 ハカセさんの台所も例に漏れず、付近に火消し用の水が入ったバケツが常備されていた。これを頼らないよう細心の注意を払う。

 ナベに湯を沸かしていると、ハカセさんが戻ってきた。何か野菜らしき食材を抱えていて、それを包丁で刻んでいく。
 何を作ってくれるんだろう。

「チカ。上の戸棚をあけてコップを二つとってくれる?」
「うん。二つで良いの? 私たち三人いるけど」
「二つはハカセとチカの分よ。私のは専用のコップがあるから」

 言って、ココネは自分の寝床からミニチュアのようなコップを持ってきた。指でつまめるくらいの小ささでとても可愛く感じる。

 次に、彼女は開いておいた戸棚に入り込みティーバッグを運んできた。
 無地で見たことのない形をしている。もしかしてこれって。

「私が独自にブレンドした茶葉……自家製なのよ」
「すごいね。そんなことできるんだ」

 素直に感心する。
 村では市販品があるけど、自分でブレンドするのは珍しいんじゃないかしら。
 そうか。ハカセさんは森から出ないから食材は全部自給自足してることになるのか。

「お湯が沸いたらポットに湯をいれて。火傷に気をつけてね」
「ココネって、もしかして指示してるだけだったりする?」
「仕方ないでしょう。ナベだってポットだって、私には重すぎて持てないんだから」

 紅茶をいれるのが得意と言っていたのだけど、それはどうやら人に動いてもらうことが前提のようで苦笑してしまった。

 ポットに湯を移し終えると、ココネは湯気に気をつけながらティーバッグをフタのふちに引っかけた。
 透明だった湯が鮮やかなビオラの色に染まっていく。

「本当は湯煎したり茶葉を蒸らしたりしたほうが良いのだけど、今回は簡易版ってことで。ハカセのおやつがすぐにできあがりそうだだし」

 隣を見ると、ハカセさんはサンドイッチを作っていた。
 耳を切り取った食パンに、マーガリンを塗ってスライスしたレタスやトマトなど野菜を挟んでいる。

 そこで私はウィルの言葉を思い出した。

 ――あいつの家に山積みになってた本とか日用品、あれはどこで仕入れたのか気になった。

 ハカセさんは最低でも二年近く森から外に出ていないという。
 あれらの食材もココネが用意した紅茶の茶葉も、どこで手に入れたのだろう。

「畑から。取ってきた。その茶葉も。……ボクが。加工した」
「家から少し離れたところに耕した畑があるの。日当たりが良いところでね、ハカセの魔法で成長を促したり発酵させたり保存したりしてるんだって」

 魔法ってとても便利!

 種と土、水や肥料などがあれば魔法ですぐに食材の採取や加工ができてしまうらしい。
 小麦をパンに、植物油をマーガリンに、茶の樹から茶葉に、などなど。

「本当に自給自足できてるんだあ」

 相変わらず本や家具などの仕入れ先はわからず仕舞いだけど、ここまで便利だとなんでも用意できてしまいそうな気がする。
 そして、ココネの指示通りに作った紅茶と、ハカセさんが作ってくれたサンドイッチというメニューのおやつが完成。

 いただきますと手を合わせて、まずは紅茶からいただく。

 実を言うと、紅茶は生まれて初めて口にする。お父さんとお母さんがたまに飲んでいるのを見かけるけど、私にはまだ早いからっていつも飲ませてくれないのだ。
 とても良い香りがするので、どんな味なのかワクワクしながらコップを傾けると。

「…………」
「苦すぎたかしら。チカ、すごい顔になってるけど」
「ううん。にが……くはないんだけど、なんというか、舌が少し自然と巻いてしまいそうというか」

 香りも、味そのものも上品なものなのは確かだけど。口の中がなんだかギュギュと締め付けられているような、変な感覚がした。

「渋すぎたかな? でも、これくらいでちょうど良いと思うわ。チカ、まだ紅茶を飲み慣れてなかったんだ。まだまだお子様ねえ」

 ココネの軽い笑みに小馬鹿にされたみたいで、ちょっとムッとする。

 彼女は小さなコップに口をつけて、上品そうにうっとりとした表情を見せてきた。紅茶を味わえる自分は大人で、どうだと言わんばかりだ。
 別に、全然平気だし。子供じゃないし。
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