心の花の国

いりえ。

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祭の開幕

開会式2

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 次にハルの国の王様が、国の代表として壇上に上がった。
 村長さんよりは背が低く、とても恰幅の良い体型をしていて、その声もどこかのんびりとしていた。白くたくわえられた髭は綿菓子のようにふわふわとしていて、優しいおじいさんといった見た目だ。

「国王様ってどんな人なの?」
「私もよくは知りませんわ。でも、お父様はいたく尊敬されているみたい。祭の打ち合わせで顔を合わせていたみたいでしたけど」

 リリさんもあまり興味なさげだった。大人たちは真剣に話を聞いているみたいだけど、言ってることは村長さんと大して変わりはないし。
 と思ったら違った。最後に国王様はサプライズを用意してくれた。指先をまるで音楽を指揮するようにふると、何かがキラキラと光って私たちの頭上を舞っていく。

 ハルの国の象徴、桜。その花びらが魔法で生み出され、空を優雅に踊る。
 国王様って魔法使いだったんだ。知らなかった。

 すると突然、目にも止まらない影が客席を駆け巡っていった。
 桜散る空をオオワシ――ガルダが弧を描いて急上昇していく。

 ピィ、と村長さんの指笛に合わせてガルダが上空で様々な形の影を、私たち地上にいる観客に披露していった。
 旋回、宙返り、急降下、錐もみ、急制動からの直角飛行。ガルダが空を舞台に翼を千変万化と桜を纏わせる。

「ガルダかっこいいね!」

 胸元に隠れていたココネが小さく手をパチパチと叩いている。私も目を奪われっぱなしだった。
 村長さんが言ってた訓練とはこのことだったんだ。

 演舞はもう少し続く。
 そんななか、国王様がガルダの様子を感心しながら壇上を降りていった。
 リリさんのお父さんより大きな拍手に送られて、思わず私も強く手を叩いてしまった。

「むう……魔法で桜を出すだなんて。さすがにお父様もこんなことはできませんわね」

 リリさんは渋々という感じで手を叩いていた。
 スピーチのバトンを繋ぐように、最後はクラウドスカイ号を代表する人──クローバー船長がステージにのぼる。

 巨大な四隻の船全ての指揮をとり、魔法使いや竜乗り、怪力持ちや職人などを含めた全船員に最も慕われている人。

 船長さんも魔法を使えるようだった。指を突き出すと、ガルダの飛ぶ先に鳥を模した使い魔を出現させる。
 この演目にはこんな意味合いがあるそうだ。

 魔法で作られた使い魔が、空に漂う未知。それを追うガルダが、未知を追いかける船団を意味しているらしい。

 ガルダが使い魔と接触すると、魔法だったそれは霧消する。しかし、次に次にと船長さんは使い魔を出し続けた。
 留まることのない未知。空への探究心。ガルダはそれらを打ち落とすかのようにどんどん触れていく。

 全ての使い魔が消え去ると、船長さんはより一層強い魔法を解き放つ。
 ガルダが打ち落としていた使い魔は、花の種が変化したものだった。空中で触れる度に口へ含んでいたそれは、ガルダのくちばしのなかで魔法によって成長し小さな花束に変化――祝福の英智となった。

 演目を終えたオオワシが主人の元へ戻っていく。
 ガルダから桜がふりかけられた花束を村長さんが受け取って、カハズ村へ降り立つ船団という演舞は幕を閉じる。

 会場中たくさんの拍手が巻き起こった。私も言葉がでなくて、こういうのを感動っていうんだろうなって思いながら手を叩いていた。隣のリリさんもよっぽど感動したのか、うれし泣きしていた。

 オオワシのガルダはもう引退したとは言え、リリさんの家族の一員だ。家族が活躍するのがとても幸せなのだと思う。私も何だか誇らしかった。
 クローバー船長のスピーチが始まる。

「こんにちはみなさん。およそ一年ぶりの地上で心が躍っております。着陸の準備に奔走してくれたカハズ村の方々には感謝の念がつきません。まずはこの場を借りてお礼を」

 クローバー船長はキャプテンハットを外して、深々と頭を下げた。
 小太りだけど、船長服がビシッと決まっていてとても格好いい。ここに集まってくれた人たち、また、祭の準備をしてくれた村のみんなに何度も何度もお礼を言う。

 その胸には純白のダリアが咲いていた。
 花言葉は──「感謝」。

 それを受けた大人たちからも、一様に心珠からダリアを咲かせていた。
 お互いの感謝を交換したあと、クローバー船長のスピーチは再開される。

「さて、船団が空を飛び立って今年で九年目を迎えましたが、ここにたどり着くまでには様々な困難がありました。飛行船の目的はみなさんもご存知のとおり、新技術と未知なる土地への開拓となっていまして、その進歩は年々加速度的に増しており──」

 船長さんは少し船の歴史を語った。世界中の技術と人材を集め、空の調査は順調に進んでいる云々かんぬん。そして、その人材はいつも不足していたりする云々かんぬん。

「…………」

 黙って船長さんの声に耳を傾ける。
 難しい話をしていてよくわからないのだけれど、なんだか引っかかることがあった。
 ガルダの演舞とはまた違う種類の、船長さんから目が離せないという違和感。

 何が引っかかるのだろう。この感じ、ノドから答えが出てきそうなのに、小骨がつっかえて言葉にできないような。
 船長さんを私は見たことがある? ううん、船長さんは教科書や新聞にも載っていたりするから、見たことあるのは当然なんだけど。

 と、そこで頭のなかで閃きが走った。
 あの人は──

「あーーっ!」

 突然、会場に大きな声が響きわたった。クローバー船長は演説をピタリとやめ、私も声がしたほうを振り向く。

 ウィルだ。一人だけ立ち上がり、その注目を一斉に集めている。

「あ、あ~、えっと……寝ぼけてました」
「そうかい? 長くなってしまってすまないね。大人の退屈な話はうんざりだろう。みなさんもここ連日はお疲れでしょうし、実はワシもここに立つのが一番面倒でして」

 ふあ、と船長さんが欠伸をすると、会場はどっと笑いに包まれた。大人たちは口々に、自分も眠たい寝たいと冗談交じりに語り合う。

 一方、ウィルは顔を真っ赤にして「ごめんなさい」と殊勝に謝り、その場に座った。

 だけど一瞬、私のほうに視線を向けてきた。
 私も、ウィルにだけわかるようこくんと頷く。

 クローバー船長。あの人は、私もウィルも見たことがあるのだ。
 妖精の森で。

「ハカセの写真に、うつってた人……」

 私にしか聞こえないココネの呟きが、船長さんの演説にかき消されていった。
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