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祭の開幕
クローバー船長に会いたくて
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舞空祭は始まりと同時に賑やかな音楽が奏でられていった。いろんなところで音楽家が楽器を軽快にゆらし、アコーディオンやトランペット、ハーモニカなどが村中をはやし立てていく。
大人も子供もみんな夢中になって、飲んだり騒いだり、または大道芸に興奮したりと、めまぐるしく人の波が溢れんばかりにうごめいていた。
特に人を集めているのは、船団の人たちが企画した催し物だ。空の上で新しく発見した新技術や漂流物のお披露目など、各国の偉い人たちがそれを唸りながら見ている。
それに負けじと人気があるのは、竜の騎乗体験。
こちらは私のような子供──特に男の子の憧れの的となっている。
竜は勇気の象徴だ。その背に乗せるのは、竜が認めた人間のみ……という逸話があるけれど、騎乗体験の場合はその限りではないみたいだ。相方の竜士が許せば、竜も背に乗せることを許可してくれるらしい。
大きさは尻尾まで含めると、私の家より大きい。そして、体はどんな大砲にも負けない頑丈さを誇っていると学校で習った。溶岩の中や深海、天空、はたまた毒霧漂う荒れ地でも問題なく生きることができ、弱点らしいものはなく、口の中や目さえ刃物を突き立てても傷一つ負わないのだそうだ。この世界で最強の生き物とまで言われている。
そんな竜に認められる方法はただ一つ。
竜に一対一の決闘を申し込むこと。
まず人間が竜に勝つことは不可能だ。巨人の薬を飲んだ怪力持ちが挑んでも、勝利できたという話は一度もない。
それでも挑むのは、人の勇気を試すため。
勇気を示すことができれば、竜は認めてくれる。心珠から「勇気」の花を咲かすことができれば良いのだ。タイムの花やエーデルワイスなどがそれに当てはまるけれど、竜を前にしてそれは至難の業と言われている。普通は恐怖が全面に出てしまうからだ。
なので、目の前にいる竜と竜士は、かつて互いに決闘しあったことになる。
かつての決闘はどんなものだったのか、竜士は子供たちにずっと質問攻めされていた。竜との戦いをおさめた自叙伝は、本屋さんではとても人気があるけれど、竜士から直接話を聞けるのはこういう機会しかない。
だから、いるとしたらここのはず。
「あ、いた。ウィル!」
私の声に気づいたウィルは、不機嫌そうにこちらへ振り向いた。竜に乗る順番待ちをしているみたいだからか、その反応は渋い。
「……なんだよ」
「ちょっと、話したいことがあって」
ちらりと周りに目を配る。ハカセさんのことで相談があるのだけど、ここだと誰かに聞かれかねない。
そんな意図をこめると、ウィルはおもむろに舌打ちをして順番待ちの列から抜けてくれた。
「もう給食のデザートだけじゃ済まないぞ」
「ご、ごめん。私だけじゃ判断できなくて」
繰り出されるグチを受け止めつつ、比較的人目の少ない路地の影に回り込む。ここならココネも出てきて大丈夫だろう。
「オレはもう関わらねえ。あいつをどうにかしたいんなら、お前らでなんとかしろよ」
開口一番、私はなにも言ってないのにウィルはそう突き放してきた。
さすがに面食らって返事が返せない。
私とココネだけだと不安だったのに。
「ひどい! あんたもハカセの友達でしょ! 心配だと思わないの!?」
服からココネが飛び出して鼻を蹴飛ばしにかかる。でも、ウィルはそれを簡単にかわして、肩をすくめながらこう言った。
「思わないね。オレはあいつと友達になった覚えはない。開会式のときはビックリして声をだしちまったけど、それだけだ。船長さんと知り合いってのは意外すぎたけどな。それ以上に思うことはないぜ」
「でも、あの人にハカセさんのことを話せば、病気のことがわかるかもしれないんだよ。もしかしたら助けてもらえたり」
「だ、か、ら。あいつがどうなろうと知ったことじゃないんだよ。第一、クローバー船長とどう話をつけるつもりなんだ。あの人はたくさんのお偉いさんと会う予定だろうから、オレたちみたいな子供じゃ飛行船の入り口で門前払いだぜ」
「それを、ウィルに考えてほしくて」
「ちょっとは自分の頭を使え!」
「いだだだだ! ご、ごめん。ごめんってば!」
ウィルの人差し指が私のおでこをぐりぐりとかき混ぜてきた。
「暴力反対! 暴力反対!」
言いながらココネはウィルの顔をポカポカと叩いているけれど、全く意に介さない。
「なにさケチ! 少しくらい協力してくれたって良いじゃない! フン、いざとなったら私だけでもあの飛行船に乗り込んで」
「それはやめとけ。大騒ぎになるぞ。妖精がまだ村に残ってるって知れたら、森に大人が大量に入り込む。あいつにとって、それは困るんじゃないか」
「う……」
ウィルの言うとおりだ。ココネが見つかれば、他に妖精がいやしないかと村の大人が森を探り始める。そうなれば、ハカセさんの家が見つかってしまうだろう。追放なんてことになれば、私はココネやハカセさんと二度と会えなくなる。それはイヤだ。
どうしよう。ウィルが助けてくれないなら、私とココネだけで考えなきゃいけない。
「まあ、会うだけならどうにかなるかもしれんが」
「え、ホントに? どうするの?」
「なんだよお前。船長の演説聞いてなかったのか?舞空祭のあいだは──」
「あ、やっと見つけましたわ。なになに、二人で内緒話?」
うしろから声をかけられてびくつく。振り向くと、リリさんが興味深げにこちらを覗き込んでいた。
「あ、いえ。ちょっとウィルに頼みごとを……」
ココネはどうしただろう。そう思っていると、私の服の中に潜り込んでいた。どうやら見つからずに済んだみたいで、内心ホッとする。
「もしかして、どの飛行船を見学するか相談してたのかしら。よかったら私も混ぜていただけません?」
「飛行船の、見学?」
初耳だった。ウィルが言っていたのはこのことだったのだ。
なんでも、祭のあいだは開催地の村人限定で、船の中を見学させてもらえるとのこと。あまりにも大きいため、乗れる船は四つのうち一つしか無理なのだそうだけど、明日から順次船員の人たちが案内してくれるらしい。
大人も子供もみんな夢中になって、飲んだり騒いだり、または大道芸に興奮したりと、めまぐるしく人の波が溢れんばかりにうごめいていた。
特に人を集めているのは、船団の人たちが企画した催し物だ。空の上で新しく発見した新技術や漂流物のお披露目など、各国の偉い人たちがそれを唸りながら見ている。
それに負けじと人気があるのは、竜の騎乗体験。
こちらは私のような子供──特に男の子の憧れの的となっている。
竜は勇気の象徴だ。その背に乗せるのは、竜が認めた人間のみ……という逸話があるけれど、騎乗体験の場合はその限りではないみたいだ。相方の竜士が許せば、竜も背に乗せることを許可してくれるらしい。
大きさは尻尾まで含めると、私の家より大きい。そして、体はどんな大砲にも負けない頑丈さを誇っていると学校で習った。溶岩の中や深海、天空、はたまた毒霧漂う荒れ地でも問題なく生きることができ、弱点らしいものはなく、口の中や目さえ刃物を突き立てても傷一つ負わないのだそうだ。この世界で最強の生き物とまで言われている。
そんな竜に認められる方法はただ一つ。
竜に一対一の決闘を申し込むこと。
まず人間が竜に勝つことは不可能だ。巨人の薬を飲んだ怪力持ちが挑んでも、勝利できたという話は一度もない。
それでも挑むのは、人の勇気を試すため。
勇気を示すことができれば、竜は認めてくれる。心珠から「勇気」の花を咲かすことができれば良いのだ。タイムの花やエーデルワイスなどがそれに当てはまるけれど、竜を前にしてそれは至難の業と言われている。普通は恐怖が全面に出てしまうからだ。
なので、目の前にいる竜と竜士は、かつて互いに決闘しあったことになる。
かつての決闘はどんなものだったのか、竜士は子供たちにずっと質問攻めされていた。竜との戦いをおさめた自叙伝は、本屋さんではとても人気があるけれど、竜士から直接話を聞けるのはこういう機会しかない。
だから、いるとしたらここのはず。
「あ、いた。ウィル!」
私の声に気づいたウィルは、不機嫌そうにこちらへ振り向いた。竜に乗る順番待ちをしているみたいだからか、その反応は渋い。
「……なんだよ」
「ちょっと、話したいことがあって」
ちらりと周りに目を配る。ハカセさんのことで相談があるのだけど、ここだと誰かに聞かれかねない。
そんな意図をこめると、ウィルはおもむろに舌打ちをして順番待ちの列から抜けてくれた。
「もう給食のデザートだけじゃ済まないぞ」
「ご、ごめん。私だけじゃ判断できなくて」
繰り出されるグチを受け止めつつ、比較的人目の少ない路地の影に回り込む。ここならココネも出てきて大丈夫だろう。
「オレはもう関わらねえ。あいつをどうにかしたいんなら、お前らでなんとかしろよ」
開口一番、私はなにも言ってないのにウィルはそう突き放してきた。
さすがに面食らって返事が返せない。
私とココネだけだと不安だったのに。
「ひどい! あんたもハカセの友達でしょ! 心配だと思わないの!?」
服からココネが飛び出して鼻を蹴飛ばしにかかる。でも、ウィルはそれを簡単にかわして、肩をすくめながらこう言った。
「思わないね。オレはあいつと友達になった覚えはない。開会式のときはビックリして声をだしちまったけど、それだけだ。船長さんと知り合いってのは意外すぎたけどな。それ以上に思うことはないぜ」
「でも、あの人にハカセさんのことを話せば、病気のことがわかるかもしれないんだよ。もしかしたら助けてもらえたり」
「だ、か、ら。あいつがどうなろうと知ったことじゃないんだよ。第一、クローバー船長とどう話をつけるつもりなんだ。あの人はたくさんのお偉いさんと会う予定だろうから、オレたちみたいな子供じゃ飛行船の入り口で門前払いだぜ」
「それを、ウィルに考えてほしくて」
「ちょっとは自分の頭を使え!」
「いだだだだ! ご、ごめん。ごめんってば!」
ウィルの人差し指が私のおでこをぐりぐりとかき混ぜてきた。
「暴力反対! 暴力反対!」
言いながらココネはウィルの顔をポカポカと叩いているけれど、全く意に介さない。
「なにさケチ! 少しくらい協力してくれたって良いじゃない! フン、いざとなったら私だけでもあの飛行船に乗り込んで」
「それはやめとけ。大騒ぎになるぞ。妖精がまだ村に残ってるって知れたら、森に大人が大量に入り込む。あいつにとって、それは困るんじゃないか」
「う……」
ウィルの言うとおりだ。ココネが見つかれば、他に妖精がいやしないかと村の大人が森を探り始める。そうなれば、ハカセさんの家が見つかってしまうだろう。追放なんてことになれば、私はココネやハカセさんと二度と会えなくなる。それはイヤだ。
どうしよう。ウィルが助けてくれないなら、私とココネだけで考えなきゃいけない。
「まあ、会うだけならどうにかなるかもしれんが」
「え、ホントに? どうするの?」
「なんだよお前。船長の演説聞いてなかったのか?舞空祭のあいだは──」
「あ、やっと見つけましたわ。なになに、二人で内緒話?」
うしろから声をかけられてびくつく。振り向くと、リリさんが興味深げにこちらを覗き込んでいた。
「あ、いえ。ちょっとウィルに頼みごとを……」
ココネはどうしただろう。そう思っていると、私の服の中に潜り込んでいた。どうやら見つからずに済んだみたいで、内心ホッとする。
「もしかして、どの飛行船を見学するか相談してたのかしら。よかったら私も混ぜていただけません?」
「飛行船の、見学?」
初耳だった。ウィルが言っていたのはこのことだったのだ。
なんでも、祭のあいだは開催地の村人限定で、船の中を見学させてもらえるとのこと。あまりにも大きいため、乗れる船は四つのうち一つしか無理なのだそうだけど、明日から順次船員の人たちが案内してくれるらしい。
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