心の花の国

いりえ。

文字の大きさ
32 / 50
祭の開幕

クローバー船長に会いたくて

しおりを挟む
 舞空祭は始まりと同時に賑やかな音楽が奏でられていった。いろんなところで音楽家が楽器を軽快にゆらし、アコーディオンやトランペット、ハーモニカなどが村中をはやし立てていく。
 大人も子供もみんな夢中になって、飲んだり騒いだり、または大道芸に興奮したりと、めまぐるしく人の波が溢れんばかりにうごめいていた。

 特に人を集めているのは、船団の人たちが企画した催し物だ。空の上で新しく発見した新技術や漂流物のお披露目など、各国の偉い人たちがそれを唸りながら見ている。

 それに負けじと人気があるのは、竜の騎乗体験。
 こちらは私のような子供──特に男の子の憧れの的となっている。

 竜は勇気の象徴だ。その背に乗せるのは、竜が認めた人間のみ……という逸話があるけれど、騎乗体験の場合はその限りではないみたいだ。相方の竜士が許せば、竜も背に乗せることを許可してくれるらしい。

 大きさは尻尾まで含めると、私の家より大きい。そして、体はどんな大砲にも負けない頑丈さを誇っていると学校で習った。溶岩の中や深海、天空、はたまた毒霧漂う荒れ地でも問題なく生きることができ、弱点らしいものはなく、口の中や目さえ刃物を突き立てても傷一つ負わないのだそうだ。この世界で最強の生き物とまで言われている。

 そんな竜に認められる方法はただ一つ。
 竜に一対一の決闘を申し込むこと。

 まず人間が竜に勝つことは不可能だ。巨人の薬を飲んだ怪力持ちが挑んでも、勝利できたという話は一度もない。
 それでも挑むのは、人の勇気を試すため。

 勇気を示すことができれば、竜は認めてくれる。心珠から「勇気」の花を咲かすことができれば良いのだ。タイムの花やエーデルワイスなどがそれに当てはまるけれど、竜を前にしてそれは至難の業と言われている。普通は恐怖が全面に出てしまうからだ。

 なので、目の前にいる竜と竜士は、かつて互いに決闘しあったことになる。
 かつての決闘はどんなものだったのか、竜士は子供たちにずっと質問攻めされていた。竜との戦いをおさめた自叙伝は、本屋さんではとても人気があるけれど、竜士から直接話を聞けるのはこういう機会しかない。

 だから、いるとしたらここのはず。

「あ、いた。ウィル!」

 私の声に気づいたウィルは、不機嫌そうにこちらへ振り向いた。竜に乗る順番待ちをしているみたいだからか、その反応は渋い。

「……なんだよ」
「ちょっと、話したいことがあって」

 ちらりと周りに目を配る。ハカセさんのことで相談があるのだけど、ここだと誰かに聞かれかねない。
 そんな意図をこめると、ウィルはおもむろに舌打ちをして順番待ちの列から抜けてくれた。

「もう給食のデザートだけじゃ済まないぞ」
「ご、ごめん。私だけじゃ判断できなくて」

 繰り出されるグチを受け止めつつ、比較的人目の少ない路地の影に回り込む。ここならココネも出てきて大丈夫だろう。

「オレはもう関わらねえ。あいつをどうにかしたいんなら、お前らでなんとかしろよ」

 開口一番、私はなにも言ってないのにウィルはそう突き放してきた。
 さすがに面食らって返事が返せない。
 私とココネだけだと不安だったのに。

「ひどい! あんたもハカセの友達でしょ! 心配だと思わないの!?」

 服からココネが飛び出して鼻を蹴飛ばしにかかる。でも、ウィルはそれを簡単にかわして、肩をすくめながらこう言った。

「思わないね。オレはあいつと友達になった覚えはない。開会式のときはビックリして声をだしちまったけど、それだけだ。船長さんと知り合いってのは意外すぎたけどな。それ以上に思うことはないぜ」
「でも、あの人にハカセさんのことを話せば、病気のことがわかるかもしれないんだよ。もしかしたら助けてもらえたり」

「だ、か、ら。あいつがどうなろうと知ったことじゃないんだよ。第一、クローバー船長とどう話をつけるつもりなんだ。あの人はたくさんのお偉いさんと会う予定だろうから、オレたちみたいな子供じゃ飛行船の入り口で門前払いだぜ」
「それを、ウィルに考えてほしくて」

「ちょっとは自分の頭を使え!」
「いだだだだ! ご、ごめん。ごめんってば!」

 ウィルの人差し指が私のおでこをぐりぐりとかき混ぜてきた。

「暴力反対! 暴力反対!」

 言いながらココネはウィルの顔をポカポカと叩いているけれど、全く意に介さない。

「なにさケチ! 少しくらい協力してくれたって良いじゃない! フン、いざとなったら私だけでもあの飛行船に乗り込んで」
「それはやめとけ。大騒ぎになるぞ。妖精がまだ村に残ってるって知れたら、森に大人が大量に入り込む。あいつにとって、それは困るんじゃないか」
「う……」

 ウィルの言うとおりだ。ココネが見つかれば、他に妖精がいやしないかと村の大人が森を探り始める。そうなれば、ハカセさんの家が見つかってしまうだろう。追放なんてことになれば、私はココネやハカセさんと二度と会えなくなる。それはイヤだ。

 どうしよう。ウィルが助けてくれないなら、私とココネだけで考えなきゃいけない。

「まあ、会うだけならどうにかなるかもしれんが」
「え、ホントに? どうするの?」

「なんだよお前。船長の演説聞いてなかったのか?舞空祭のあいだは──」
「あ、やっと見つけましたわ。なになに、二人で内緒話?」

 うしろから声をかけられてびくつく。振り向くと、リリさんが興味深げにこちらを覗き込んでいた。

「あ、いえ。ちょっとウィルに頼みごとを……」

 ココネはどうしただろう。そう思っていると、私の服の中に潜り込んでいた。どうやら見つからずに済んだみたいで、内心ホッとする。

「もしかして、どの飛行船を見学するか相談してたのかしら。よかったら私も混ぜていただけません?」
「飛行船の、見学?」

 初耳だった。ウィルが言っていたのはこのことだったのだ。

 なんでも、祭のあいだは開催地の村人限定で、船の中を見学させてもらえるとのこと。あまりにも大きいため、乗れる船は四つのうち一つしか無理なのだそうだけど、明日から順次船員の人たちが案内してくれるらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完】ベッドの隣は、昨日と違う人

月村 未来(つきむら みらい)
恋愛
朝目覚めたら、 隣に恋人じゃない男がいる── そして、甘く囁いてきた夜とは、違う男になる。 こんな朝、何回目なんだろう。 瞬間でも優しくされると、 「大切にされてる」と勘違いしてしまう。 都合のいい関係だとわかっていても、 期待されると断れない。 これは、流されてしまう自分と、 ちゃんと立ち止まろうとする自分のあいだで揺れる、ひとりの女の子、みいな(25)の恋の話。 📖全年齢版恋愛小説です。 しおり、いいね、お気に入り登録もよろしくお願いします。 📖2026.2.25完結 本作の0章にあたるエピソードをNOTEにて公開しています。 気になった方はぜひそちらもどうぞ!

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは

紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。 真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。 婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。 白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...