心の花の国

いりえ。

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祭の開幕

クラウドスカイ号へ

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 開会式が終わった後、学校の先生が生徒たちを集めてそう説明してくれたのだ。

 どうして私がそのことを知らなかったというと、単に先生の話を聞いていなかったから。
 ココネにずっとクローバー船長のことを尋ねられて、ボソボソと社会の教科書で習った内容を教えてあげていた。
 要は、先生が話してる最中、ずっとお喋りをしてしまっていたのだ。

 船の中に入れるのなら、クローバー船長と会える可能性がある。船長さんは船の指揮をとっている人だ。なら、ココネのために私が希望すべき船は。

「ウィルさんはどこの船をご希望なの?」
「オレは食料船だ。食料、といっても竜の世話を間近で見れる場所だからな。竜士の人にも武勇伝をたくさん聞きたい」

「男の子ですわねえ。もっとも、一番人気はそこらしいですけど」
「悪いかよ」

「いえいえ、竜に憧れる気持ちはわかりますわ。ただ、村のほとんどがそこを希望するのはいささか偏りがあって、船員の方たちが不満に思わないかと」
「変なところ気にするんだな委員長。定員は設けられてないんだから、好きなところ選べば良いだろ」
「むう、そうなのかしら」

 リリさんは体面的なものを主張しているのだろう。食料船に人気が集まれば、他の船の船員からそこに嫉妬が寄せられるのではと、そう思っている。

「チカさんは?」

 尋ねられて一瞬とまどう。ウィルのほうに視線を流すけど、我関せずで少し心細かった。でも、可能性に賭けたい気持ちを強く持って、私はこう答える。

「指導船を、見たいわ」
「あら、意外ですわね。チカさんのことだから、てっきり食料船で植物の見学をしたいと言うと思ってましたのに」

 普段の私なら、きっとそう答えていたと思う。でも、今はココネのために動いてあげたかった。

「うん。ちょっと……船長さんとお話できるなら、たくさん聞いてみたくて」
「わかりますわその気持ち。世界でどんなものを見てきたのか。それと、船員の人たちをどう指導しているのか、そのノウハウをぜひご教授してもらいたいですもの」

 リリさんはうっとりとして山のようにそびえる飛行船を見つめた。私とは目的が違うけれど、村長の一人娘としてぜひともクローバー船長と話をしたいのだそうだ。

「これで二対一。ウィルさんには申し訳ないですけど、私たち三人は指導船を希望ということで先生に伝えておきますわ」
「おいおいちょっと待て。どういうことだよ二対一って」

「多数決ですわ。私とチカさんが指導船を希望したのですから」
「そういうことじゃねえよ。なんでオレがお前らと一緒に行くことになってんだ」

「あら、見学は三人一組ですわよ。先生の話が終わったあと私が提案したんです。班でまとまっていれば船員さんにも迷惑をかけづらいだろうからって、採用してくれたんですのよ。そのことを伝える前に、ウィルさんとチカさんはすぐにどこかへ行ってしまったんですけど」
「なに勝手なことしてくれてんだよ~」

 ウィルはうなだれて歯を食いしばっていた。
 メンバーをどうするか。私は指導船に行けさえすれば誰とでも良い……ううん、ウィルもいてくれると心強いのだけど。

「バカバカしい。オレは食料船に行きたがってる班に入れてもらってくるぜ。お前らは好きにしろよ」
「残念ですけど、さっきクラスのみんなに確認したら残ってるのは私たちだけでしたわ。もうどの班も空きはございませんわよ。班を作れないなら、飛行船にすら乗れなくてよ」
「…………」

 ウィルは顔を真っ赤にしていた。あれは相当に怒っている顔だ。心珠が咲いていなくてもわかる。
 ギロリと睨まれた。
 あれ。これって私のせいなのかな。服の内側でココネが「いい気味」とクスクス笑っていたけど、私は全然笑えなかった。

 リリさんが去ったあと、ウィルには何度も謝っておいた。それで許してくれるかというとそうでもなくて、結局、給食のデザートだけでなく、ウィルの家の水汲みまでしてあげることになった。
 明日から早起きしなくちゃいけない。



 飛行船見学は舞空祭の開会二日目から順次始まった。
 お祭り自体はおおよそ二週間ある。祭の終わる三日前までには、希望者全てが船に乗り込むことができる予定となっている。


 どうして三日前なのか。それは、飛行船が出発の準備をするためだ。ガス袋を膨らませたり、その動力を温めたりするのに数日かかるから。なので、その日から船員のみんなは大忙しとなり、飛行船には関係者以外立ち入れなくなる。

 そう教えてくれたのはウィルだった。
 飛行船へ向かう道すがら、興奮冷めやらぬという感じで熱く語る。

 舞空祭は半分の一週間が過ぎて八日目。賑わいは未だにおとろえていない。 

「驚きましたわ。ウィルさんって、飛行船のことは博識でしたのね」
「博識でもなんでもないぜ。事前に調べておいただけの話さ。じゃないと、船員の方たちに失礼だろ」

 そうはいっても、鼻を高くしているのは私でもわかった。
 ウィルはいまとても機嫌が良い。なぜなら私たちは空の中……竜に乗って飛行船へ移動しているのだから。
 見学に行く人は、みんな竜に送ってもらえる。そう聞いたときのウィルのはしゃぎようといったら、本当に嬉しそうだった。

 なんだかホッとした。私の都合に巻き込んでばかりだったから。

「それにしても、こうフワフワとされちゃあ酔いそうですわね。チカさんは大丈夫?」
「うん、平気だよ」

 竜は教えられていた通りとても硬かった。まるで岩がそのまま動いているみたいだ。
 背中には柔らかい鞍がかけられていて、硬いウロコの感触を和らげてくれている。その鞍と繋がっているのは命綱。私たちの腰に巻き付けられているものだ。万が一落ちても、竜が拾いあげてくれるとのこと。

 吹き抜けていく風がとても心地が良い。男の子が憧れる気持ちも、なんとなくわかる。
 ココネはどうだろうかと服の中を覗くと、意外や意外。顔を青くしていてとても気分が悪そうだ。小声で「まだつかないの」と尋ねられたので「もうすぐだよ」と返事しておく。

 自分では空を飛べるのに、竜の背中となると酔ってしまうなんて。
 酔いに効く花ってあったかなと考える。帰ったら調べておこうと思った。

「さすがに竜は早いですわね。ほら、もう見えてきましたわ」

 リリさんが指さす方向をみる。そびえる船の一角。そこには竜の紋章が描かれた甲板があった。竜が発着艦する場所だ。あの目印は四つの船にもいくつかあるらしい。私たちが着陸するのは、指導船のほう。
 ずん、と着陸して竜の背中から降りる。

 竜はすぐに空へ飛び立っていってしまった。次の見学者をここに連れてくるためだ。
 ウィルはそれに全力で手をふって「ありがとう」と叫んでいた。

 竜はそれに応えるようにして、高らかに咆哮。竜士もこちらに手をふってくれた。
 空にいるあいだ、ウィルはずっと竜士の人と話を聞いていた。竜にどうやって認められたのか、とか、怖くなかったのか、とか。

「もしかして、ウィルさんって飛行船の乗船希望をだしましたの?」
「うん? 出したいのはやまやまなんだけどな。母さんと父さんが許してくれなかった。でも、今回がダメでもいつかは」
「え、乗船希望ってなに? ウィルは飛行船に乗りたいの?」
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