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祭の開幕
飛行船の役割
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話についていけなくて二人に尋ねる。
すると、ウィルが口をへの字に曲げてこう濁してきた。
「お前ホントにクローバー船長のスピーチ聞いてなかったんだな。あの人はこう呼びかけたんだ。『飛行船は世代交代の時期にきているから、若い世代を取り入れたい。試験的に村から乗船希望者を募る』ってな」
「調査計画が発足して九年目ですからね。毎年国から選ばれた方が順次乗組員として推薦乗船されていますけど、それじゃあ人手が足りなくなってきているんですわ。地上に降り立つたび、平均で数百人が引退を表明して船を降りる人がいますの。その補填が目的だと船長さんは仰っていました」
空での生活は過酷だと聞く。限られた食料の問題や飛行船の運用、はたまた天候などによる災害も少なくないらしい。
その辛さに落伍する者もいたり、それとは別の理由で……例えば、飛行船で家族を作る人たちもいて、落ち着いた生活をしようと下船したりとか。
「クラウドスカイ号の役割は存じていて?」
「うん。空での調査と、そこで見つけたモノの発表。それに、地域の活性化だって学校でならったけど」
「その通りですわ。飛行船はその巨大さゆえ栄えある都市には着陸できませんの。カハズ村のような地域に着陸することで、観光客が集まり、経済が発展する。しかも、飛行船の下船希望者を地域が受け入れることで、その発展に大きく貢献もできる。一年ごとにとどまる国を変えて、次の年には違う国に着陸する。そうすることで、世界をどんどん豊かにしていく。飛行船にはそういう目的もあるんですの」
パチパチパチ。どこかで拍手が鳴った。
振り向くと、そこには紺色の服にキャプテンハットを被った小太りのおじさんがいた。この人は。
「いやすまないね。盗み聞きするつもりはなかったんだが、勉強熱心な子たちが来てくれたなと感心してしまったよ」
クローバー船長だ。にこやかに私たちに近づき、お辞儀をしてくれる。
「ようこそクラウドスカイ号へ。君が村長さんの娘のリリくんかね? 話は聞いているよ。なんでも、私に指導船の案内を頼みたいのだとか」
「はい、お初にお目にかかります。このたびは不躾なお願いを聞き届けてくださり、本当に感謝いたしますわ」
リリさんはスカートのはじっこを持って、ぺこりと上品に頭を下げた。まるでお姫様みたいだ。
本当に船長さん自身がここを案内してくれるんだ。リリさんは船長さんと直接話したいと言った私の願いを覚えててくれたようで、村長さんを通じてその希望をだしてくれていたらしい。昨日家で花の水やりをしていたときに伝書鳩が飛んできて、その知らせを受け取ってココネと一緒に大喜びした。
「私がリリ。こちらがチカさんで、もう一人がウィルさんです」
促されて私とウィルも頭を下げる。私はスカートを持ってないので、リリさんのような挨拶ができなかったけど、クローバー船長は快く私たちを迎え入れてくれた。
「チカくんにウィルくんだね。……おや、君は開会式のときのネボスケくんかな?」
船長さんはウィルをみてそう尋ねる。すると、尋ねられた本人は目を見張ると、すごいスピードでシャキっと背筋を伸ばした。
「あ、あのときは本当に、す、すみませんでした」
「ハッハッハ、気にしなくて良いんだよ。ああいう挨拶は大人のためにあるようなものだからね、子供たちに退屈と思われても仕方がないさ」
船長さんは寛大に笑った。特に気にしてもいなさそう。
なんだかウィルには申し訳ない気持ちで一杯だった。あのとき叫んでくれなかったら、代わりに私が叫んでいただろうから。
「ここで立ち話も疲れるだろうから、歩きながら案内するよ。三人とも着いてきなさい」
「はい」
竜の紋章がある甲板を歩いていく。甲板と言っても、ここは船体の中腹。上を見上げると、とても大きな天井が広がっていた。上部に余裕のあるスペースが設けられていて、デッキが何重にも積み重なっている、といえばイメージしやすいかな。
そういう設計にすることで竜の発着艦がスムーズにいくとのこと。
一つの船は何階にも分かれている。下にも同じような階層が続いているらしい。
船の可住地は何も甲板だけじゃない。
アリの巣のように船内にはたくさん部屋や通路があって、多くの船員はそこを行き来している。
「リリくん、お父上は元気かな? 今度また下船希望者の受け入れについて、直接お礼を言っておきたいんだが、会える時間はありそうかね?」
船長さんがリリさんに話しながら幾何学的な模様のある扉の前に立つ。その横にある何かを操作すると、スキマから部屋のようなものが下からあがってくるのが見えた。エレベーターというものらしい。この動く部屋に乗って階層を上下に行き来するのだそうだ。
「いえ、父は仕事に追われていますわ。祭を楽しむヒマもないくらい。でも、クローバー船長の頼みでしたらすぐにでも駆けつけると思いますけど」
「フフ、無理はしなくて良いと伝えてくれたまえ。あとで手紙も送ろう」
「恐縮です。お気遣い痛み入りますわ」
リリさんの言葉遣いはいつにも増して丁寧だった。なんだか会話に入れる気がしない。胸の中ではココネがソワソワと、いつハカセさんの話をしてくれるのかと私を見上げていた。
エレベーターへ促されて四人で入る。
船長さんがパネルのようなものを操作すると、ガコンと部屋が少し揺れて、すぐに視界が上から下へさがっていった。上層にあがっているのだ。
外の景色も見える。竜の背に乗ったときより高くて広く、祭で賑わう村全体が見渡せるほど。人の動きもそうだけど、一番目立つのは開会式の会場にも使った花畑。
大きくて広いとはわかってたけど、あそこが断然綺麗に映えていて、思わず「うわあ」と声をあげてしまった。
「あの花畑には驚かされたよ。私たち船員も息をのんだものさ」
「気に入ってもらえて嬉しいですわ。あそこを観光スポットに、という企画も進んでいるらしくて、花の手配やその見積もりをとっているところですの」
「ほう、それは良いことを聞いた。引退後の楽しみが増えたよ」
「ま、引退のご予定があるんですの?」
「いやいや、将来的な話さ。私はまだまだ空で生活がしたいからね」
リリさんとクローバー船長の話ははずむ。どうにもハカセさんのことは切り出しづらかった。
すると、ウィルが口をへの字に曲げてこう濁してきた。
「お前ホントにクローバー船長のスピーチ聞いてなかったんだな。あの人はこう呼びかけたんだ。『飛行船は世代交代の時期にきているから、若い世代を取り入れたい。試験的に村から乗船希望者を募る』ってな」
「調査計画が発足して九年目ですからね。毎年国から選ばれた方が順次乗組員として推薦乗船されていますけど、それじゃあ人手が足りなくなってきているんですわ。地上に降り立つたび、平均で数百人が引退を表明して船を降りる人がいますの。その補填が目的だと船長さんは仰っていました」
空での生活は過酷だと聞く。限られた食料の問題や飛行船の運用、はたまた天候などによる災害も少なくないらしい。
その辛さに落伍する者もいたり、それとは別の理由で……例えば、飛行船で家族を作る人たちもいて、落ち着いた生活をしようと下船したりとか。
「クラウドスカイ号の役割は存じていて?」
「うん。空での調査と、そこで見つけたモノの発表。それに、地域の活性化だって学校でならったけど」
「その通りですわ。飛行船はその巨大さゆえ栄えある都市には着陸できませんの。カハズ村のような地域に着陸することで、観光客が集まり、経済が発展する。しかも、飛行船の下船希望者を地域が受け入れることで、その発展に大きく貢献もできる。一年ごとにとどまる国を変えて、次の年には違う国に着陸する。そうすることで、世界をどんどん豊かにしていく。飛行船にはそういう目的もあるんですの」
パチパチパチ。どこかで拍手が鳴った。
振り向くと、そこには紺色の服にキャプテンハットを被った小太りのおじさんがいた。この人は。
「いやすまないね。盗み聞きするつもりはなかったんだが、勉強熱心な子たちが来てくれたなと感心してしまったよ」
クローバー船長だ。にこやかに私たちに近づき、お辞儀をしてくれる。
「ようこそクラウドスカイ号へ。君が村長さんの娘のリリくんかね? 話は聞いているよ。なんでも、私に指導船の案内を頼みたいのだとか」
「はい、お初にお目にかかります。このたびは不躾なお願いを聞き届けてくださり、本当に感謝いたしますわ」
リリさんはスカートのはじっこを持って、ぺこりと上品に頭を下げた。まるでお姫様みたいだ。
本当に船長さん自身がここを案内してくれるんだ。リリさんは船長さんと直接話したいと言った私の願いを覚えててくれたようで、村長さんを通じてその希望をだしてくれていたらしい。昨日家で花の水やりをしていたときに伝書鳩が飛んできて、その知らせを受け取ってココネと一緒に大喜びした。
「私がリリ。こちらがチカさんで、もう一人がウィルさんです」
促されて私とウィルも頭を下げる。私はスカートを持ってないので、リリさんのような挨拶ができなかったけど、クローバー船長は快く私たちを迎え入れてくれた。
「チカくんにウィルくんだね。……おや、君は開会式のときのネボスケくんかな?」
船長さんはウィルをみてそう尋ねる。すると、尋ねられた本人は目を見張ると、すごいスピードでシャキっと背筋を伸ばした。
「あ、あのときは本当に、す、すみませんでした」
「ハッハッハ、気にしなくて良いんだよ。ああいう挨拶は大人のためにあるようなものだからね、子供たちに退屈と思われても仕方がないさ」
船長さんは寛大に笑った。特に気にしてもいなさそう。
なんだかウィルには申し訳ない気持ちで一杯だった。あのとき叫んでくれなかったら、代わりに私が叫んでいただろうから。
「ここで立ち話も疲れるだろうから、歩きながら案内するよ。三人とも着いてきなさい」
「はい」
竜の紋章がある甲板を歩いていく。甲板と言っても、ここは船体の中腹。上を見上げると、とても大きな天井が広がっていた。上部に余裕のあるスペースが設けられていて、デッキが何重にも積み重なっている、といえばイメージしやすいかな。
そういう設計にすることで竜の発着艦がスムーズにいくとのこと。
一つの船は何階にも分かれている。下にも同じような階層が続いているらしい。
船の可住地は何も甲板だけじゃない。
アリの巣のように船内にはたくさん部屋や通路があって、多くの船員はそこを行き来している。
「リリくん、お父上は元気かな? 今度また下船希望者の受け入れについて、直接お礼を言っておきたいんだが、会える時間はありそうかね?」
船長さんがリリさんに話しながら幾何学的な模様のある扉の前に立つ。その横にある何かを操作すると、スキマから部屋のようなものが下からあがってくるのが見えた。エレベーターというものらしい。この動く部屋に乗って階層を上下に行き来するのだそうだ。
「いえ、父は仕事に追われていますわ。祭を楽しむヒマもないくらい。でも、クローバー船長の頼みでしたらすぐにでも駆けつけると思いますけど」
「フフ、無理はしなくて良いと伝えてくれたまえ。あとで手紙も送ろう」
「恐縮です。お気遣い痛み入りますわ」
リリさんの言葉遣いはいつにも増して丁寧だった。なんだか会話に入れる気がしない。胸の中ではココネがソワソワと、いつハカセさんの話をしてくれるのかと私を見上げていた。
エレベーターへ促されて四人で入る。
船長さんがパネルのようなものを操作すると、ガコンと部屋が少し揺れて、すぐに視界が上から下へさがっていった。上層にあがっているのだ。
外の景色も見える。竜の背に乗ったときより高くて広く、祭で賑わう村全体が見渡せるほど。人の動きもそうだけど、一番目立つのは開会式の会場にも使った花畑。
大きくて広いとはわかってたけど、あそこが断然綺麗に映えていて、思わず「うわあ」と声をあげてしまった。
「あの花畑には驚かされたよ。私たち船員も息をのんだものさ」
「気に入ってもらえて嬉しいですわ。あそこを観光スポットに、という企画も進んでいるらしくて、花の手配やその見積もりをとっているところですの」
「ほう、それは良いことを聞いた。引退後の楽しみが増えたよ」
「ま、引退のご予定があるんですの?」
「いやいや、将来的な話さ。私はまだまだ空で生活がしたいからね」
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