心の花の国

いりえ。

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祭の開幕

なん、でも、ない

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 船長さんは私とウィルに目配せしながらこう話を広げた。

「花畑といえば……この村の子供たちは心珠の開花が比較的早いようだね。土地柄がよく出ている。きっと、カハズ村は良いところなんだね」
「お褒めいただき恐縮です。植物を育てるように、心珠が咲いてくれれば土壌である村の質も露わになる――父もよく言っていますね。開花していない子にも、不安を抱えないよう寄り添ってあげることが大事なのだと」

 リリさんはそう静かに答える。
 けど、話を聞いていたウィルがなぜだかプッと吹き出し、笑いを堪えながらこんなことを言った。

「よく言うぜ。あれで寄り添ってたつもりなのかよ委員長。オレとチカにとっては、早く開花させろって催促してるようにしか聞こえなくて良い迷惑だったぜ。なあ?」

 ウィルに同意を求められて首を右往左往させる。
 指摘されたリリさんは顔を赤くして慌ててこう抗議した。

「そ、その件に関しては謝ったじゃありませんの! 話を蒸し返すのやめてもらえません!?」
「笑い話なんだから良いだろ別に。チカだってもう気にしてないだろうし」
「私が気にするんです! だいたい、チカさんの心珠は開花済みじゃありませんの! キッチリこの目で見たんですから!」

 今度はリリさんに目を向けられて、私は無言で苦笑するしかなかった。
 ごめんなさい。私まだウソついてます。
 それを見たウィルは私に対しても意地悪そうに笑った。わざとか。性格悪いよウィル。

「ハッハッハ。ウィルくん、からかうのもほどほどにね。心珠はまだ謎の多い器官なんだ。一説には、その人自身の普段の安心感によって開花が促進されるのだそうだよ。心の内を見られても良い、という覚悟や充足が必要なのは間違いないがね」

 クローバー船長はあごひげを撫でながらウィルを窘めた。
 心珠について熟知しているような口ぶり。もしかして。

「クローバー船長は心珠を研究されてるんでしたわね。父が詳しく話を聞きたいと言ってましたわ。今日私たちについていけなかったのを悔しがっていましたし」
「ほう、フキノ村長が? 手紙でのやりとりなら今からでもいくらでも構わないが」

「いえ。理由は聞いてないんですけど、直接話して尋ねてみたいことがあるそうなんです」
「う~む。直接会って、か。今日が無理なら、飛行船を起動させる直前の離陸式セレモニーのときなら時間はとれるが、フキノ村長にそう伝えてもらえるかね?」

 もしかして、船長さんとハカセさんは研究仲間だったのかな。
 リリさんがいるのでこの場ではそのことを尋ねられない。ウィルはどう思ってるのかなと思ってそちらに振り向く、と。

 上機嫌だったさっきまでとは打って変わって、目を丸くしてリリさんとクローバー船長の会話に耳を傾けていた。
 何かにとても驚いている様子。

「どうしたの? ハカセさんと船長さんが研究仲間だったかもしれないのがおかしかったりするの?」

 リリさんたちには聞こえないような小声で聞いてみる。
 するとウィルは私と、私の胸元の心珠を交互にみやって

「なん、でも、ない」

 とギクシャクしたような声で答えた。
 直後、エレベーターがガコンと揺れて目的地に到着したことを知らせるブザーが鳴った。
 クローバー船長を先頭にみんなでエレベーターの外に踏み出していく。

「絶対なんでもなくないじゃん」

 胸元からウィルにも聞こえない不満が漏れ出ていた。

――

 指導船の構造は四つの船の中で一番単純だと船長さんは教えてくれた。
 部屋の種類が大まかに分けて三つしかないからとのこと。

 一つは相談室。船での不満や改善要望などはそこで受け付けるとのこと。
 二つ目は会議室。各船でのお偉いさんが集まって意見をだしあう部屋。
 最後は執務室。個人で決められることは、その部屋を使って書類にサインをしたりなどする場所。各部署の所長さんは、みんな一部屋ずつ割り当てられているらしい。

「でも、指導船と他の船にはかなり距離がありますわ。相談や指示の伝達遅れが懸念されると思われるのですが」

 リリさんは難しい言葉を使ってクローバー船長に尋ねていた。
 ここは船長さんの私室。見たこともない調度品がそこかしこに並び、各地でもらったのか賞状もたくさん額縁に飾ってある。それを見ると、立派な人なんだなと改めて認識させられた。

 右に私、中央にリリさん、左にウィルという順でソファに座らせてもらう。
 紅茶も用意してくれた。なんだかとっても「上品」という感じがしている。

「君の言い分はもっともだ。伝達遅れがあるのは確かだが、その問題は最近になってある程度解決されてきている」

 船長さんはにこりと笑い、私たちの向かい側にある机の横に立った。その近くには少し大きな木箱がある。目盛りのようなものも取り付けれているけれど、あれはなんだろう。

「これは『電話機』と言ってね、離れた場所にいる誰かと話のできる機械なのさ」
「えっ!?」

 私もウィルも、リリさんも驚いていた。手紙を送ったり伝書鳩を飛ばすわけではなく、離れた人とその場で会話できるなんてとても便利じゃないか。

「空の漂流物から得られた技術でね、まだ地上には出回っていないだろう。この機械は船にもいくつか設置していて、実用化をめざして試験的につかっているんだ」

 言いながらクローバー船長は実演してみせた。目盛りをいじってしばし待ち、蓄音機のようなところにテストだと話しかけると、なんと箱の中からもテストを知らせる声が耳に聞こえてきたのである。
 す、すごい……。

「素晴らしいですわ! 地上にはいつごろ提供なされるのです?」
「今年から各国の王様たちに送る予定となっているよ。一般市民に届くのは、まだまだ先になると思うだろうけどね。でも、君たちが大人になるまでには普及させるつもりではいるから」

 自信ありげに笑って、船長さんはソファに腰を落ち着けた。
 と、視界の隅で手が挙がる。
 ウィルだ。指導船に興味はないと言いながら、きちんと質問はするんだと感心する。

「あの、最初の委員長の質問の答えにはなってないと思うんですけど」
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