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すれ違いの夜
ココネの正体
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○
舞空祭はもうすぐ終わりを迎えようとしている。
飛行船が飛び立つまで、あと四日となっていた。船員の人たちは、もうすでに離陸する準備をしているらしく、船の中や外の慌ただしさが見ている私にも感じられる。
竜が飛行船の上を旋回して空気袋を持ち上げていたり、巨人の薬を飲んだ怪力持ちの人が重たい資材を運んだり、魔法使いの人たちが船体に向けて何かを唱えてたり、大忙しといった感じだ。
その日から飛行船には関係者以外立ち入り禁止となった。新しく乗船を希望する人はもうすでに乗っていて、今ごろは中で空の上で生活するルールを教えられているとのこと。
船が浮き始めれば、もう離陸は止められない。船体が陸から離れてしまえば、再度着陸することはとても難しいという。また地上に降りてしまえば、飛び立つのに再び数日の時間がほしくなるから。
そうなると、航海予定が狂い、飛行船各所に多大な負担がかかるのだとか。
祭をまわっている最中、リリさんが楽しげに教えてくれたことだ。きっと、もっとたくさんのことを教えてくれたのだろうけど、あまり耳には入っていなかった。
楽しめない、というか。
ココネはその日も遊びには来てくれた。でも、表情は暗いままだ。
なんでも、クローバー船長と話したことをハカセさんに伝えたのだけど聞く耳を持ってもらえなかったとのこと。
「また感情がわかりにくくなったとか、そういうのじゃないの。船長さんに頼らないよう自分に言い聞かせてるというか、迷ってるような印象だったわ。とてもツラそうに」
寂しそうにココネは言う。
頼みの綱は、やっぱり船長さんの手紙しかないのかな。迷ってるなら、船に乗る決意をしてくれる希望はありそうだけど。
「チカに植えてもらったアイリスは元気よ。言われたとおりにお世話してあげてるから」
「よかった。ゴメンね、様子を見に行けなくて」
「気にしないで。私、ずっとチカに頼ったり甘えてばかりだったから、お花の世話くらい自分でやってみせるわ」
どうしてココネがアイリスを育て始めたのか、その目的が少し昔のように感じてしまった。
ハカセさんに元気になってもらうための、サプライズなプレゼントになるはずだったのに。
クローバー船長と話してから森には行ってない。舞空祭の終わりが近いのもあって、離陸する準備のお手伝いでバタバタと忙しかったから。
私たちがやっているのは迷惑なことなのかな。ウィルの言うとおり、もう森には近づかないほうが良いのかな。
花のことも気になるけれど、なによりこれからココネとは会いづらくなるという事実のほうが重い現実だった。どうしたらいいのか、ヒントも見つからない。
そんなときだった。クローバー船長の手紙が届いたのは。
学校から帰ると、お母さんとお父さんがその手紙を取り置きしておいてくれていた。竜が届けてくれたらしく、とても驚いたと二人とも興奮気味だった。
二通。一つの封筒に二つの手紙が入っていた。
一つはハカセさん宛て。もう一つは私宛てだ。
先に私宛てのものを取り出し、手紙を手に取る。
注意書きが最初に目に入った。
──ココネくんと読むなら心してほしい。君たちにとってはつらい事実が書いてある。
それだけ。
ココネに確認をとると、緊張しながらも頷いてくれる。クローバー船長は私たちに何を伝えたいのか。
意を決して手紙を開いてみた。
――――
イトスギくんの感情がなくなっているという病気……その原因はココネくんにある。
ココネくんは妖精ではない。イトスギくんが取り出した自らの感情そのもの。
魔法で生み出された「使い魔」だ。
開会式のセレモニーを思い出してくれたまえ。オオワシのガルダくんと一緒に私の使い魔が空を舞っていただろう。
あれと似たものと認識してもらって構わない。
どういうことかと説明すると、イトスギくんの症状は、正確には病気ではない。
おそらく代償、と表現するのが正しいだろう。
ココネくんを生み出したとき、イトスギくんは自分の感情をココネくんに捧げたんだ。
彼は飛行船にいたとき、自身から感情を取り出す研究をしていたのは伝えていたね。その成果がココネくんなのだと思う。
花に化けることができるのは、きっとそのせいだ。
人工的な心珠が作れないか研究していたのがイトスギくんだ。彼は自分の感情を媒介にした心珠の創造に成功したのだよ。
根拠はある。ココネくんに触れたとき、私はイトスギくんの魔力そのものを感じた。
私が伝授した魔法と魔力だ。間違えるはずがない。
誤解してほしくないのは、ココネくん側に非があるというわけではなく、イトスギくんが望んだ結果にすぎないということだ。
ココネくんは自分を責めないでほしい。キミの存在は彼の努力の結晶であり、また、心の支えとなっているはずだから。そのことを強く胸に留めておいてくれたまえ。
――――
「…………」
手紙を半ばまで読んで絶句する。
ココネは、ハカセさんが作った心珠? 花に化けるなんて、まるで心珠みたいだなとは思っていたけど……じゃあ、ハカセさんに感情がなくなっているのは、ほとんどをココネに預けているから?
そういえば、ココネの羽を治したとき、ハカセさんには変化があった。
感情の起伏が、さらにとぼしくなっていたこと。
あれは、自分の中に残っていた数少ない感情を、ココネの羽を治すために譲ってしまったから。
首筋にあたたかいものが触れた。
ココネだ。震えて、すがりつくように私の首に抱きついてきている。
「チカ、私……」
どういった言葉をかければ良いかわからず、そっとその背を指で撫でてあげる。
治してあげたい病気の元凶がココネ自身だと告げられて、とてもショックなのだろう。
人工的なモノ、作られた心珠。魔法。そんな風にはまるで感じない。
ココネは生きている。泣いたり笑ったり、怒ったり。ハカセさんを心配したり、私を勇気づけようとしてくれたり、ウィルとケンカしたり。今だって悲しんでいる。
喜怒哀楽の意志がある。私の大切な友達だ。
ココネを抱きながら手紙の続きを読む。なにか希望が書かれていると信じて。
舞空祭はもうすぐ終わりを迎えようとしている。
飛行船が飛び立つまで、あと四日となっていた。船員の人たちは、もうすでに離陸する準備をしているらしく、船の中や外の慌ただしさが見ている私にも感じられる。
竜が飛行船の上を旋回して空気袋を持ち上げていたり、巨人の薬を飲んだ怪力持ちの人が重たい資材を運んだり、魔法使いの人たちが船体に向けて何かを唱えてたり、大忙しといった感じだ。
その日から飛行船には関係者以外立ち入り禁止となった。新しく乗船を希望する人はもうすでに乗っていて、今ごろは中で空の上で生活するルールを教えられているとのこと。
船が浮き始めれば、もう離陸は止められない。船体が陸から離れてしまえば、再度着陸することはとても難しいという。また地上に降りてしまえば、飛び立つのに再び数日の時間がほしくなるから。
そうなると、航海予定が狂い、飛行船各所に多大な負担がかかるのだとか。
祭をまわっている最中、リリさんが楽しげに教えてくれたことだ。きっと、もっとたくさんのことを教えてくれたのだろうけど、あまり耳には入っていなかった。
楽しめない、というか。
ココネはその日も遊びには来てくれた。でも、表情は暗いままだ。
なんでも、クローバー船長と話したことをハカセさんに伝えたのだけど聞く耳を持ってもらえなかったとのこと。
「また感情がわかりにくくなったとか、そういうのじゃないの。船長さんに頼らないよう自分に言い聞かせてるというか、迷ってるような印象だったわ。とてもツラそうに」
寂しそうにココネは言う。
頼みの綱は、やっぱり船長さんの手紙しかないのかな。迷ってるなら、船に乗る決意をしてくれる希望はありそうだけど。
「チカに植えてもらったアイリスは元気よ。言われたとおりにお世話してあげてるから」
「よかった。ゴメンね、様子を見に行けなくて」
「気にしないで。私、ずっとチカに頼ったり甘えてばかりだったから、お花の世話くらい自分でやってみせるわ」
どうしてココネがアイリスを育て始めたのか、その目的が少し昔のように感じてしまった。
ハカセさんに元気になってもらうための、サプライズなプレゼントになるはずだったのに。
クローバー船長と話してから森には行ってない。舞空祭の終わりが近いのもあって、離陸する準備のお手伝いでバタバタと忙しかったから。
私たちがやっているのは迷惑なことなのかな。ウィルの言うとおり、もう森には近づかないほうが良いのかな。
花のことも気になるけれど、なによりこれからココネとは会いづらくなるという事実のほうが重い現実だった。どうしたらいいのか、ヒントも見つからない。
そんなときだった。クローバー船長の手紙が届いたのは。
学校から帰ると、お母さんとお父さんがその手紙を取り置きしておいてくれていた。竜が届けてくれたらしく、とても驚いたと二人とも興奮気味だった。
二通。一つの封筒に二つの手紙が入っていた。
一つはハカセさん宛て。もう一つは私宛てだ。
先に私宛てのものを取り出し、手紙を手に取る。
注意書きが最初に目に入った。
──ココネくんと読むなら心してほしい。君たちにとってはつらい事実が書いてある。
それだけ。
ココネに確認をとると、緊張しながらも頷いてくれる。クローバー船長は私たちに何を伝えたいのか。
意を決して手紙を開いてみた。
――――
イトスギくんの感情がなくなっているという病気……その原因はココネくんにある。
ココネくんは妖精ではない。イトスギくんが取り出した自らの感情そのもの。
魔法で生み出された「使い魔」だ。
開会式のセレモニーを思い出してくれたまえ。オオワシのガルダくんと一緒に私の使い魔が空を舞っていただろう。
あれと似たものと認識してもらって構わない。
どういうことかと説明すると、イトスギくんの症状は、正確には病気ではない。
おそらく代償、と表現するのが正しいだろう。
ココネくんを生み出したとき、イトスギくんは自分の感情をココネくんに捧げたんだ。
彼は飛行船にいたとき、自身から感情を取り出す研究をしていたのは伝えていたね。その成果がココネくんなのだと思う。
花に化けることができるのは、きっとそのせいだ。
人工的な心珠が作れないか研究していたのがイトスギくんだ。彼は自分の感情を媒介にした心珠の創造に成功したのだよ。
根拠はある。ココネくんに触れたとき、私はイトスギくんの魔力そのものを感じた。
私が伝授した魔法と魔力だ。間違えるはずがない。
誤解してほしくないのは、ココネくん側に非があるというわけではなく、イトスギくんが望んだ結果にすぎないということだ。
ココネくんは自分を責めないでほしい。キミの存在は彼の努力の結晶であり、また、心の支えとなっているはずだから。そのことを強く胸に留めておいてくれたまえ。
――――
「…………」
手紙を半ばまで読んで絶句する。
ココネは、ハカセさんが作った心珠? 花に化けるなんて、まるで心珠みたいだなとは思っていたけど……じゃあ、ハカセさんに感情がなくなっているのは、ほとんどをココネに預けているから?
そういえば、ココネの羽を治したとき、ハカセさんには変化があった。
感情の起伏が、さらにとぼしくなっていたこと。
あれは、自分の中に残っていた数少ない感情を、ココネの羽を治すために譲ってしまったから。
首筋にあたたかいものが触れた。
ココネだ。震えて、すがりつくように私の首に抱きついてきている。
「チカ、私……」
どういった言葉をかければ良いかわからず、そっとその背を指で撫でてあげる。
治してあげたい病気の元凶がココネ自身だと告げられて、とてもショックなのだろう。
人工的なモノ、作られた心珠。魔法。そんな風にはまるで感じない。
ココネは生きている。泣いたり笑ったり、怒ったり。ハカセさんを心配したり、私を勇気づけようとしてくれたり、ウィルとケンカしたり。今だって悲しんでいる。
喜怒哀楽の意志がある。私の大切な友達だ。
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