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目覚めると、そこには美しい○○が・・・
しおりを挟む気がつくと何もない、白い、ただただ白い空間だった。
その中でひとつだけ、ぽつんと置かれた柔らかなベッドに私は寝ている。
「ここ、何…?」
声は出せる。
「よいしょっ」
体も動く。
でも、何故ここにいるのかがわからない。
とりあえず、ベッドから降りようとした時、
「おやめなさい。消滅してしまうわ」
何もない、誰もいないはずの空間に突然響いた、私以外の声。
「消滅って……?」
「あなたの魂が、ぎゅうっっと押しつぶされて、ごりごりとすり潰されて、塵のように……」
イヤっ! 想像するだけでも痛いっ!
「降りない! 絶対に降りないっ!」
「そう? 素直なのね」
どこからか聞こえる声は不穏な言葉とは裏腹に、涼やかで穏やかな、心が癒されるような優しい声だった。
「ふふっ。ありがとう♪」
声が近くで聞こえる、と思ったら頬に温もりが触れていた。
私の頬に、白く細い指が添わされている。
手に添って視線を這わせてみると、白くきめ細やかな肌をした細い腕。私が握ったら壊れそうな気がする程にたおやかな肩。水をためられそうな程くっきりと出ている鎖骨に、白いふんわりお椀型のきれいな胸。薄い桜色のきれいな……。
「…なんで裸?」
そこには、見事なプロポーションの女性の裸体があった。
神の寵愛を受けた芸術家の手によって作られ、美術館にでも飾られているような完璧な造形だ。
私がこの体を持っていたら、何があっても高笑いの人生が送れると思うほどの理想の体型。
この体の持ち主の顔を見たくて視線を上げてみると、
「お口、開いてるわよ?」
開いた口を閉じることを忘れる程に、美しく整えられた美貌があった。
「ふふっ、お間抜けな顔も可愛いけど、閉じたほうがもっと可愛いわよ?」
世界中の美術館、世界中の教会から女神像を集めても、これだけの美貌にはきっとお目にかかれない。
絵にも描けない、言葉にも表せない色彩と造形をまとった姿は、とてもこの世のものとは思えない美しさだ。
この麗しい顔がどうして最初に目に入らなかったの?
「ねえ、聞こえてる?」
私の理想が目の前にある…。
「あがっ!?」
陶然と見惚れている私の顎を衝撃が襲った。 開きっぱなしになっていた顎を下から閉じられたらしい。
「やっぱり、お口は閉じておいたほうが可愛いわ♪」
「ど、どうも」
目の前にたたずむ圧倒的な『美』に目が眩み、私の意識はどこかへ飛んでいたようだ。
でも、こんなに美しいものが目の前にあれば、見惚れる以外、何もできない。
「いたっ!」
今度はデコピンが私を襲う。 なかなか乱暴な美女だ。
「いい加減に、わたくしとお話しましょう?」
「じゃあ、どうして裸なの? 隠してくれないと目が離せないんだけど…」
目を離すのがもったいないほどの、美しい姿態なのだ。
「ふふっ、随分と褒めてくれるのね。 嬉しいわ♪
裸な理由? あなたにお付き合いしているだけよ」
そう言われて、自分の体に視線を下ろすと、
「いやーっっっ! なんで裸っ!?」
何も身に着けていない、緩んだ体が目に入った。
「服の再生が面倒だったから」
「いやーっ!! 服を、何でもいいから着る物をちょうだいっ! こんなの無理ーっ!! 何か着させてーっ!」
「ねぇ、少し落ち着いて? お互いに裸なんだもの、恥ずかしくなんかないでしょう? お風呂だって裸じゃない?」
恥ずかしくない訳がない。お風呂だって言うなら溜めたお湯で私を隠してっ!
こんなにも綺麗な人を前にして、緩んでしまった自分の体を晒したまま冷静でなんていられるわけがない!
羞恥で死ねる! 今すぐ死ねるっ!
「大丈夫よ。あなたはもう死んでるもの。これ以上は死なないわ」
「いやーっ! むりむりむりむりむりーっ! 無理なものはむりーっ!」
なにか、聞き逃してはいけない言葉が聞こえた気もしたけど、今はそれ所ではない。もう、いっそ、消えてなくなりたいっ!
本気で“消えてしまいたい”と思ったら、
「ああっ! そんな風に考えたら、本当に消えてしまうわ! ……仕方がないわね、特別よ?」
美女の慌てた声が聞こえると同時に目の前が歪んだ。
「なんか気持ち悪い…」
「人の魂が神域に入っているんだもの、当然よ。 しばらくしたら治(おさ)まるわ」
……神域。
『人』は私のことだから、目の前の美しい女性が『神』だろう。
神様の前にいる、私はもう死んでいるの?
ここは明らかに私がいた世界とは違う。 どうしてここにいるのかはわからないけど、不思議な場所。
気持ちの悪さが治まってくると同時に、少しずつ思い出してきた。
そうだ、……私はもう死んでいる。
私はついさっき、殺されたんだ……。
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