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冤罪です!
しおりを挟む「店主が待てと言っている」
私の前に立ち塞がっているのは、荷物を抱え、煤で汚れた服を着た職人風の男だった。
「何? 急いでるんだけど」
「何かを盗んだのか? 逃げるなら衛兵を呼ぶぞ」
いきなりの泥棒呼ばわりに、カチンと来た。 店主との話は付いていたし、私はきちんと治療を成功させた。 何の落ち度もない。
「邪魔よ。どいて」
進路の妨害をするなら、力ずくで押し通る。
「もう一度だけ言うわ。 邪魔よ。どきなさい」
退く気配のない男の脛を蹴り上げようとしたら、後ろから肩を掴まれた。
「娘さん、待ってくれ! わしはまだ礼も言っとらん!」
振り返ると金物屋のおじいさんだった。 戸惑い顔の屋台の八百屋の店主さんに支えられている。
「約束の商品は確かに受け取った。礼なんていらないから、離して」
急いでいる上に泥棒扱いをされて、不愉快な気持ちのままに口を開いた。
「正当に手に入れた商品を言いがかりをつけて泥棒扱いするのが、おじいさんの礼なの?」
立ち塞がっていた男はいきり立ったが、おじいさんは大慌てだ。
「泥棒なんてとんでもない話だ! わしは感謝を伝えたいのと…、その、頼みがあって…」
おじいさんのお願い事。時間に余裕があるなら聞いても良かったけど、まずはギルドへ行きたいし、何より、進路上に突っ立っている男の視線が不愉快だ。
「ナコル、何を睨んでいるんだ? この娘さんはわしの恩人だ」
男はおじいさんの知り合いだったらしい。おじいさんの言葉を聞いて驚いたようだが、道を空ける様子はない。
「おじいさん、感謝の気持ちは受け取ったわ。でも、私は急いでいるの。 言ったでしょ?」
目の前の男を退かす為に足を振り上げようとしたら、今度は腕を掴まれた。
「急いでいるのは、宿と買い物とギルドだったな? 宿はわしが紹介する。いや、宿代も払う! 買い物もわしが代わりに揃えるから、その時間をわしにくれないか?
手短に話すから、どうか頼みます!」
「よくわからないけど、買い物なら私もお手伝いするわ! お嬢さん、お願い! 話を聞いてあげて?」
おじいさんと、おじいさんを支えていた八百屋の店主さんにまでお願いされてしまい、どうしようかと迷っていると、道を塞いでいる男が、
「話ぐらい聞いてやれ」
と言ったので心が決まった。
「いやよ」
振り上げた足を、そのまま男の脛に下ろす。
「っ!! いってぇーっ!! 何をするんだ! 痛いじゃねぇか!」
「どけと言ったのにどかないからよ。 何か文句でもあるの? いきなり人を泥棒扱いしておきながら謝りもしないで、偉そうにものを言う無礼者が」
不愉快な思いをそのまま視線に乗せて睨んでやると、男はうろたえた。自分のしていることにやっと気が付いたらしい。
「いや、それは…」
「なんだ、ナコル。泥棒だと思ったのか?
娘さん、すまない。旅人に店の商品を持ち逃げされたことがあるんだ。それでナコルはわしの、娘さんを呼び止める声を聞いて勘違いをしてしまったんだ。本当にすまない」
おじいさんが謝っているのを見て、ナコルと呼ばれた男も慌てて頭を下げた。
「すまなかった。勘違いだ。許してくれ」
その姿を見て、周りに集まっていた野次馬も散り始める。
(蹴って、すっきりしたにゃ?)
大人しく成り行きを見ていたハクが、私の機嫌を取るように頬をすり寄せてきた。
(少しだけ、ね)
地元の人間に買い物を手伝ってもらえば、ぼったくられることもなく時間短縮になるし、宿の手配をしてくれるなら、少しくらい時間を割いてもいいだろう。
「冒険者ギルドで依頼ボードに依頼が多いのはいつ頃か知ってる?」
「…夜明け前後、だの」
「…では、先に宿の手配をしてください。狭くてもいいから、掃除が行き届いている宿にしてね? 話はそれがすんでからよ」
承諾の返事と同時におじいさんが座り込んだ。やっぱり体力が落ちてしまっているらしく、八百屋の店主さん1人では支えきれなかったようだ。
「オリオールさん!」
「とりあえず、お店にもどりましょう」
おじいさんは、八百屋の店主さんとナコルに支えられながらお店の中に戻っていく。
さて、私はどうしようか。 宿の手配がすむまでどこで時間を潰そうかと思案していると、
「何してるんだ? 来いよ」
ナコルが顎をしゃくって何かを言っている。まあ、私には関係のないことだろう。どこかお店を見て時間を潰そうと踵を返す。
「一緒に、店に来てくれ!!」
改めて声を掛けられたので振り向いてみると、ナコルがこちらを向いて頭を下げていた。
下げた頭を上げないので、わだかまっている不快感をハクのにくきゅうをもみもみすることで晴らしながら、ゆっくりと店に向かった。
「チャロの宿屋ね? お願いしてくるわ!」
八百屋の店主さんが笑顔で出て行くと、店の中は静かになった。
「娘さん、」
「話は宿の手配がすんでから。 おじいさんもそれまで少し休んだら? 久しぶりに歩くと疲れるでしょ?」
おじいさんが何かを言いかけたが、少し休んでもらうことにした。宿の手配ができなかったら、話は無駄になるしね。
「そうさせてもらおう。 妻と話したいこともあるしな。 ナコル、すまんが手を貸してくれ。
娘さん、ここで待っていてくれるな?」
おじいさんが心配そうに確認してくるので頷き返すと、安心したように2階へ上がって行った。
2階からおじいさんとおじいさんの奥さんだろう、女性の声が聞こえてくる。
おじいさんの頼みごとは、おばあさんの治療かな?
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