女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

文字の大きさ
156 / 754

マルタ、初めての…料理?

しおりを挟む

 玄関のドアノッカーが激しく打たれたのは、オーブンにクッキーの生地を入れた直後だった。

 マップで確認すると、ドアの前にポイントが2つ。

「嫌な気配」

 とだけ伝えれば、ドアの近くにいたイザックが剣を抜いて応対してくれた。

「誰だ?」

「わしだ! 牧場のヘラルドだ!」

「この忙しい時に……」

 思わず毒づくと、台所の近くにいたアルバロが笑いながら、

「ドアを開けていいのなら、俺たちが相手をするぞ。 どうせ登録の件で言い掛かりを付けに来たんだろう」

 と言ってくれた。

「だったら、私が相手をしないと。 私に文句を言いに来たんでしょ?」

「アリス、忘れたのか? ミルクの登録は俺たちも当事者だぞ。 アリスのお陰で<共同登録者>だからな!
 それにアリスはまだ料理の途中だろう? 俺たちはマルタ以外、暇だったんだ。 
 せっかくの暇つぶしなんだから譲れよ」

 私が面倒がっているのをわかっているアルバロは、“暇つぶし”と言って面倒ごとを引き受けようとしてくれる。 こんなことは護衛の仕事じゃないだろうに、優しいなぁ。

「アリス、ここはアルバロに任せて! アリスが側にいないとあたしが不安なの。 おねがい、ね?」

 面倒を押し付けるわけにはいかないから自分が応対を、と思ったら、シチューを混ぜながらマルタが焦ったように訴える。

 ミルクを足して寸胴鍋の8分目までシチューが入り、かき混ぜるのも一苦労なのに、文句も言わずに混ぜ続けてくれていたマルタがそう言うなら、仕方がない。

「わかった、アルバロ達に任せる。 明日のお昼ごはんは期待していてね!」

 招くつもりのなかった客の相手はアルバロ達に任せて台所の奥に引っ込むと、中を隠すようにドアをほとんど閉められた。 

「アリスのレシピは金になるからな。これ以上開けるなよ?」

 エミルの注意が聞こえる。 話す声は普通に聞こえるらしい。

「わかった。 面倒だろうけど、応対は任せるね」

「ああ、わたしも明日の昼食を期待しているから、アリスは料理に集中するといい」

「ふふっ♪ 了解!」

 マルタと一緒に、おいしいごはんを作るからね!









 シチューの味見をしていると横顔にマルタの視線が突き刺さるので、マルタにもシチューを掬ったスプーンを渡すと、恐る恐る口をつけ、

「美味しいっ!」

 スプーンを振り回しながら喜んだ。 少し行儀が悪いけど、今回は見逃そうかな^^

 うん、確かにおいしい。 でも、少し塩が足りない気がするな。 塩を足してから少し馴染ませて、今度はスプーンに注いでマルタに渡す。

「!! さっきよりもっと美味しい!」

「マルタが頑張ってくれたから、こんなに美味しくなったんだよ!」

「本当? 混ぜてただけなのに?」

「ゆ~っくりと、焦げないように混ぜ続けることが大事だったの!」

 シチューが美味しく出来たことを喜び合っていると、今度はクッキーの焼ける甘い香りがする。

「マルタ、“あ~ん”して?」

「あ~ん」
(あ~ん、にゃ♪)
(あ~ん♪)

「ふふっ♪ はい、どうぞ! 熱いから気をつけてね?」

 開いた3つの口と口らしきところに、1枚ずつクッキーを入れていく。

「こんな食感、初めて…。 甘いけど、あっさりしてるからいくらでも食べられそう!」

(あったかくて甘いにゃ!)
(あまくてやわらか~い♪)

「柔らかいのは出来たてを食べられる、作った人達だけの特権だよ♪」

 うん、思ったよりおいしくできてる! あとは冷ます為にテーブルに置いておくんだけど……、

「つまみ食いは禁止! 1枚でも減っていたら、明日はお肉とおやつは抜きだからね?」

「にゃっ!?」
「きゅっ!?」
「えっ!?」

 えっ、じゃないよ。マルタまで…。 

「本気だからね? 私たちだけお肉とおやつ抜きで、アルバロ達にしか出さないから。 ちなみにアルバロ達から分けて貰うのも禁止にするから!」

 ここまで強く言っておいたら大丈夫だろう。

 “シュン”としてしまった食いしん坊たちは放っておいて、次のクッキー生地をオーブンに入れる。

「マルタ? 腕はもう疲れた?」

「ううん。まだまだ平気!」

 後衛とはいえ、さすがは冒険者だ。 見た目以上に体力がある。

「じゃあ、これを煮詰めてくれる?」

 出来上がったクリームシチューを鍋に取って、マルタに渡す。

「さっきみたいに、温めながら混ぜ混ぜしてね? 水分が飛ぶと焦げやすくなるから気をつけて」

 マルタは注意を聞きながら、慣れたのか量が減って安心したのか、さっきよりはリラックスして混ぜ始めた。

 今のうちにイザックのリクエストのハンバーガーを作っておこう! 

 インベントリからハンバーグのタネを出して、成形しながら向こうの部屋から聞こえている怒鳴り声に意識を向ける。

 ヘラルドは玄関のドアを開けた瞬間から、「騙したなっ」とか「ロレナに詫びろ!」とか「登録を取り消せっ」とか、ずうっと、怒鳴り続けている。 

 …元気なおじいさんだ。 

 それにしても、どうしてここに孫娘ロレナを連れて来たんだろう。 子供に見せたい光景じゃないだろうに。

 ハンバーグの成形が終わり、焼き始めようとすると、

「あの小娘ガキを出せっ! 善人ぶってわしらを裏切った、あの小娘ガキをここへ連れて来いっ!」

 私をご指名の声が聞こえた。 どうしようかな? もうすぐクッキーも焼けるし…。

 迷っている間にクッキーが焼き上がり、オーブンを開けると味見希望の食いしん坊たちの視線が突き刺さる。

「1人1枚だよ?」

「これも美味しい! さっきより甘みが強くて、風味が強い?」
(これがバターにゃ?)
(すごくおいしい♪)

「うん、こっちはバターたっぷりで卵入り。 さっきのはバター少なめで卵を使わなかったの。 
 どっちが好き?」

((りょうほう!)にゃ♪)
「両方好き!」

「そう? よかった♪」

 好みが別れるかと思ったけど、どちらも気に入ってくれると作った甲斐がある。 多めに作っている生地もいま全部焼いてしまおうかな^^
しおりを挟む
感想 1,118

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...