女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

文字の大きさ
158 / 754

交渉…、する余地もない

しおりを挟む


 ドアを開けると、玄関のドアを背にしてヘラルドとロレナが、台所のドアを背にしてアルバロ、エミル、イザックの3人が立っていた。

「おお、お嬢さん!」
「おねえさん!」

 ヘラルドが嬉しそうに笑いながらロレナの背を押し出し、ロレナは両手を広げて私に走り寄って来ようとしたが、護衛組の壁に阻まれて、私までは辿り着けない。

「何よっ! アンタ達に用はないわよ、どいて!  おねえさ~ん!」

 どうして子供を連れて来たのかと思っていたら、私への説得要員だったらしい。

 私に向かって媚を売っても、みんなにその態度じゃ台無しだよ。 ヘラルドが舌打ちしたのも見えてたからね。 

「話は聞こえてたけど、一応聞くわ。 何の用? いま忙しいんだけど…」

「そんなぁ…。ロレナ、おねえさんに会いにここまで来たのに!」

 ロレナは言いながら、手の甲で目を押さえて泣き出す。 …フリをした。 下手な演技でよかった。良心が全然痛まない。

「用がないなら早く帰って? 私、まだまだやること」
「どうしてお嬢さんはわしらを裏切ったんだ!? わしらはお嬢さんを信じていたのに!」
「ロレナ、おねえさんは優しい人だと思ってたのに、どうして意地悪するの!?」

 2人は理屈ではなく感情に訴えてくるけど、全然心に響かない。

 ……“優しい人” が “チョロイヤツ”に聞こえるせいかな。

「……3人は言わなかったようだけど、私たちは今日、登録をすませるつもりはなかった。 登録の準備はしていたけどね。あなたが交渉に来るって言っていたから、話を聞くまでは登録を見合わせるつもりだったの」

「だったらなぜ!」

 ……えぇ? わからないの? 3人がちゃんと説明していたのに。

「あなた達が私を裏切って、意気揚々と登録をしに行ったからでしょ? だから、仕方なく<仮登録>をしたの」

「仮登録!? だったら……!」

「午後には本登録をすませたけど」

 正確には<本登録の申請>だけど、ね。 たいした違いはないでしょ。

「どこかの恥知らずが、私のやり方を盗んで自分のものとして登録しようとしたんだから、当然のことよね?」

「それは…」

「そんなことで怒るなんて、アンタ、心が狭いんじゃないの?」

「ロレナ!!」

 ……ああ、ボロがでちゃった。さっきまで“おねえさん”だったのにね~。 子供とはいえ、ティッシュレベルの自制心だな。

「アタシ達は、アンタの代わりに登録をしてあげようとしたのよ! もちろん、アンタに1/10くらいは分けてあげるつもりだったわ! だからアンタは反省して、2/3をアタシ達によこしなさいよ! 
 アタシが媚びてあげたんだから、それくらい当然よね!」

 …………どうやら、私はマイノリティーな趣味を持っていると勘違いされてるらしい。 幼女を愛でる趣味はないんだけど。

「エミル、イザック、どうだった?」

「このじいさんは、最初から最後まで、自分と孫娘ロレナの発見だとしか言わなかったぞ」

「ああ、アリスの名前なんか出なかったな。 アリスの名前が出ていたら、本登録を急がせることもなかったんだが」

「……らしいわよ? 
 せっかくのチャンスを自分たちが踏み潰したことがわかった? わかったら、いい加減に諦めて帰って。 迷惑なの」

 必要なことは全て言ったし、自分を“カモ”だと認識している人に、これ以上の時間を割くのはもったいない。 

 2匹とマルタを促して台所へ戻ると、護衛組に追い出される2人の喚き声がドアの向こうから聞こえた。

 玄関のドアを閉めると2人の喚き声が小さくなり、ほっと一息吐いた時だった。

 “ガチャン! ガチャン! パリンッ”

 何かが壊れる音と、

「きゃあ!!  離せっ! この痴漢!!」

 不穏なことを叫ぶ、幼い声が聞こえてきた。

 何事かと表に出てみると、

「皆さん、こんばんは。 夜分に失礼します。 夕食はもうお済みでしょうか?」

 <商業ギルド>のセルヒオさんが、にこやかな笑顔でロレナを取り押さえながら殴りかかるヘラルドの手を避けていた。

 風に乗って臭いが鼻につき、臭いの元を探すと、家の壁にぶちまけられたミルクと割れたミルク瓶。

「セルヒオさんを助けて!」

 私のお願いと同時にイザックが動き、ヘラルドを取り押さえてくれる。

「離せっ! 痴漢! 変態! 人攫いーっ!」

「……とんだ濡れ衣ですね」

 セルヒオさんが呆れたように呟くとマルタが動き、ロレナの身柄を預かった。

「あたしはあんたを襲うほど、悪趣味じゃないわよ? ハクちゃんやライムちゃんの方が何万倍も可愛いもの」

 マルタがにこやかに言い放つと、護衛組が“うんうん”と首を縦に振って同意した。 もちろん私もだ。

 得意そうなハクと、嬉しそうにぷるぷる震えるライムを見て和んでいると、複数の足音が聞こえてきた。

「何事だっ!?」

 ロレナの声を聞いて、事件だと思った衛兵が駆けつけてくれたらしい。

「衛兵さん、助けて!!」

 集団で取り押さえられている少女と老人を見て、衛兵たちは一瞬だけ私たちに敵意を向けたが、誰一人逃げようとしないで落ち着いている私たちを見て冷静になってくれた。

「何事ですか?」

「私が説明をしましょう」

 衛兵の質問にセルヒオさんが答えてくれている間も、ロレナとヘラルドは喚き続けていて、ちらほらと、迷惑そうにご近所さんが顔を出し始めた。

「あの! お話はここでないとダメですか? 近所の方の迷惑になっているので、よければ家に入りませんか?」

 周りを見ながら衛兵に提案をすると、衛兵も気がついて、

「では、そうしましょう。 でも、その前に」

 話をしていた衛兵はもう1人の衛兵に合図を送り、無駄のない動きでロレナとヘラルドに猿轡を噛ませた。

「これで、落ち着いて話が聞ける」

 そう言って微笑み合う衛兵たちも、2人の喚き声には辟易していたらしく、家の中に連行する手つきが少しだけ、乱暴だった。









 護衛組以外を玄関で待たせて急いで部屋のセッティングを済ませると、マルタとイザックがロレナとヘラルドを部屋の隅に連れて行ってから縛り上げ、エミルが衛兵とセルヒオさんにブーツの留め金を外しておくように説明をしながら敷物の横まで連れてくる。

 クリーンを掛けると護衛組が一斉にブーツを脱ぎ始めるのを見て、衛兵とセルヒオさんも釣られたようにブーツを脱ぐ姿がおもしろかった。 

「臭くない…」

 ボソッと呟く衛兵は、足の臭いに悩んでいるらしい。とても嬉しそうだ。

 “ぐぅぅぅぅぅぅ”

 ハクがまたお腹をすかせたのかな? と振り返ると、もう1人の衛兵がお腹を押さえて頬を赤く染めていた。

 “きゅるるるるるるぅ”

「失礼しました。 この部屋があまりにも素敵な香りなもので…」

 今度はセルヒオさんのお腹が鳴ったらしい。

 言われてみると、クッキーの甘い香りとシチューのミルクの香りが、奇跡的に嫌な香りにならずに部屋に漂っている。

「お茶でもいかがですか?  ……賄賂にならなければ、ですが」

「金品などの土産は賄賂になりますが、お茶や菓子程度なら賄賂にはなりませんよ」

 後で問題にならないように、ロレナとヘラルドを見ながら聞けば、セルヒオさんが答えてくれた。

 衛兵2人も顔をほころばせながら、

「「お気持ちはありがたくいただきます」」

 と言ってくれたので、軽いティータイムにすることにした。

 2つのティーポットにカモミールティーを注いで後を任せてから、クッキーを取る為に台所のドアを開けると、甘い香りが部屋に広がる。

 ““““ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ””””

 なんか、数が多かったような……。  簡単なものでも作ろうかな……。
しおりを挟む
感想 1,118

あなたにおすすめの小説

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。 【無断転載・AI利用禁止 / No Unauthorized Use or AI Training】 本作品の無断転載・複製・AI学習利用を禁じます。 Unauthorized reproduction or use for AI training is strictly prohibited. © 魯恒凛 / RoKourin

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

最安もふもふ三匹に名前をつける変な冒険者ですが、この子たちの力を引き出せるのは私だけです ~精霊偏愛録~

Lihito
ファンタジー
精霊に名前をつける冒険者は、たぶん私だけだ。 うさぎのノル、狐のルゥ、モモンガのピノ。三匹とも最安の契約で、手のひらに乗るサイズ。周りからは「手乗り精霊で何ができる」と笑われている。 でも、この子たちへの聞き方を変えるだけで、返ってくる答えはまるで違う。三匹の情報を重ねれば、上位の精霊一体では見えないものが見える。 上位パーティが三度失敗した大型討伐。私は戦わない。ノルに地中を、ピノに上空を、ルゥに地上を調べさせて、答えを組み上げる。 ——この世界の精霊の使い方、みんな間違ってませんか?

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...