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レシピ登録の誘い 1
しおりを挟む「パンを器にしてスープを入れるなんて考えたこともない…」
「こんなトマトの食べ方は初めてだ!」
おかわりにパンシチューとトマトの肉詰めチーズ焼きを出したら、あっと言う間になくなってしまう。
「えっと…、シチューはご飯にも合うと思うけど」
そろそろ新作の種が尽きるのでシチューライスを勧めてみたら、全員が食べたがったのでびっくりした。 私はもうお腹いっぱいなんだけど?
(ぜ~んぶ、おいしいにゃ♪)
「これも美味いな!」
「ああ、スプーンが止まらない! もう、太っても後悔しないわ!」
いや、マルタ! それは絶対に!!後悔するパターンだからやめた方がいいよ!
マルタをどうやって止めようかと考えていると、
「なんだ! この水は!!」
ギルマスの大声が響いた。
「今かよっ!」
イザックが呆れながら説明をしてくれているが、“水やミルクにクリーンを掛けるとおいしくなる”ってちゃんと登録申請したんだけど、おかしいな?
「これがアリスさんの【クリーン】魔法か……。 なるほど、これほどに美味しい水を私は今まで飲んだことがありません。 素晴らしい水です!
だが、私が昨日【クリーン】所持者に協力してもらった水とミルクはここまでの味ではなかった。 元の水が違うのか、同じ【クリーン】魔法でも魔力の違いで味に差がでるのか…。
検証が必要だな…。」
……誰がしても、クリーンを掛けたら同じようにおいしくなると思っていたけど、どうやら違うようだ。
「私は1品目の甘くて素晴らしく美味しいパンが気になります。 あれは何という料理なのですか!?」
モレーノ裁判官はフレンチトーストがお気に入りらしい。 裁判官の為に作った甲斐があったな♪
「あれは『フレンチトー』……」
料理名を答えかけて気が付いた。 ここで地球の国名を使った『フレンチトースト』って言って良いのかな? 意味を聞かれたら説明できないよ…!
「……あの甘いトーストはモレーノ裁判官の為に作ったものですので、裁判官が命名してください」
「私が?」
(名付けから逃げたにゃ!)
(うるさいよー?)
「よろしければ、是非!」
「あの素晴らしく美味しい料理に名を付けられるなんて、光栄なことですね! では……」
モレーノ裁判官は顎に手を当てて楽しそうに考え込んでるけど、命名を押し付けたことを“光栄”とか言われてしまうと申し訳なくて顔を上げられない。
なのに、ギルマスやセルヒオさんの「羨ましい」とか「責任重大ですね」とか言った声が聞こえてきてびっくりしてしまう。 名前を付けるのを大変だと思わないのかな?
「『ミルクのふわとろパン』『ミルクのふわふわトースト』『ミルクのフラッフィートースト』………。
『たっぷりミルクのふわとろトースト』でいかがです?」
「モレーノ裁判官、それ素敵! 名前だけで美味しさが伝わってくるわ!」
「ああ、わかりやすい!」
……私は『フラッフィートースト』が良いと思うんだけどな。 『フラッフィーとか』『フラッフィーオムレツ』とか汎用性が高そうで。
「じゃあ、あの甘いパンは『たっぷりミルクのふわとろトースト』で決まりね! あたしはお鍋で作るミルクティーの名前を知りたいわ! 別に名前があるんでしょう?」
ああ、『たっぷりミルクのふわとろトースト』で決まっちゃった。 裁判官の嬉しそうなにこにこ笑顔を見ると、もう、『フラッフィー』にしようなんて言えない。
「ねえ、アリス? 紅茶の名前!」
「え? ああ、これは『ロイヤルミル…』コホンッ!」
“ロイヤル”は危険な響きかもしれない。
「……シチュードティー」
「シチュードティー? シチューって、このミルクのスープのことよね?」
「うん。作り方が一緒だったでしょ?」
マルタが昨夜の記憶を探るように黙り込むと、今度はセルヒオさんが勢い込ん聞いてきた。
「アリスさん、今欲しい食材はないですか?」
「セルヒオ? いきなりどうした?」
私もだけど、ギルマスも驚いたらしい。 珍しいものを見る目でセルヒオさんを見つめている。
「今回の食事はミルクを入手するのに裁判官が手を貸したお礼に、裁判官の為に考えたメニューなんでしょう?
私も何かを手に入れるのに尽力したら、私の為に新作を作ってもらえるという栄誉に浴することができるかもしれません…!」
セルヒオさんが夢見るようにいうと、“ハッ”とした顔でギルマスが私を見る。
「そう言うことなら、是非、私が!! この町にあるものなら何だって手に入れて見せましょう!」
セルヒオさんとギルマスのきらきらと期待に輝いている目が怖い!
“命名権”とか“栄誉”ってなにそれ! そんな大層なこと、考えたことないよっ!
ハク…は両前足で顔を覆って笑ってるし、ライムはシチューライスをおかわりしてご機嫌に食べてるし、護衛組は感心したように頷いたりうなったりで誰も助けてくれそうにない…。
涼しい顔で微笑んでいる裁判官を見つめると、視線に気が付いた裁判官は私に向かって空のお皿を差し出した。
……賄賂ですね!? それは賄賂の要求ですね? 裁判官!
すぐさまお皿の上にフレンチトースト…、改め、たっぷりミルクのふわとろトーストを2枚乗せると、裁判官は嬉しそうに微笑んで口を開いた。
「サンダリオ、君が朝からアリスさんを待っていたのは、何の為だったのですか?」
裁判官の言葉にハッとしたギルマスは、私の方に身を乗り出して叫ぶように言った。
「この素晴らしい料理の数々を、是非、我が<商業ギルド・ジャスパー支部>でレシピ登録していただきたい!!」
………は?
「この素晴らしい料理の数々を世に広めるのは、商業ギルドの義務です! そして、我が手で広められることは無上の喜び!
是非、我がジャスパー支部にてご登録をいただきたい!!」
………随分と大げさな話になってるな。
「それは土産に貰った分と今食べた分だけか? 今まで俺たちが食わせてもらったのを全部ってなると、それなりの時間と登録手数料がかかるんじゃねぇのか?」
「登録の手順とか掛かる時間がわからないと、アリスも判断に困るんじゃない?」
私が驚いて返事をできないでいると、護衛組が代わりに話を聞いてくれる。 ……護衛組はマネージャーも出来そうだな。
「レシピ登録の手順としては、
レシピ登録申請書の提出後、ギルド幹部が試食をして合格の出たものだけ詳しいレシピを提出してもらいます。 類似レシピの登録がないことを確認できたら、実際に幹部やレシピ担当部員の目の前で作ってもらい、レシピとの齟齬がないかの確認をします。 確認が取れたらレシピ登録となりますので、期間は申請から登録までおよそ2週間ほどでしょうか。
登録申請料は1件に付き15,000メレですが、今回はこちらからのお願いですので、申請料はいただきません!
是非! 是非! 我がギルドでご登録を!!」
そんな、是非って言われても……。
(どうするのにゃ?)
…………どうしようか?
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