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“賠償”以外の話し合い 1
しおりを挟むレイナルドが追加の慰謝料を自分から支払ったのは、レシピ登録の話をする為の前振りだった。
護衛組の言葉で金額をアップしたのも私から譲歩を引き出そうという下心があったからだ。 まだ若いのになかなか狡い真似をする。
さっきサンダリオギルマスに見せられた“レシピ登録による経済効果”の内容がとても魅力的だったらしく、どうしても自分の家の領であるこの町で登録をさせたいらしい。
サンダリオギルマスと私の間では登録で話が進んでいるけど……、この男の家が儲けるのはあまり嬉しくない。 ……意地悪を言うくらいは許されるよね?
「この件が終わったら、私たちは一切の関わりを持たないんじゃないの? 誓約を破るつもり?」
「私たちからはアリス殿に関わらない誓約はしましたが、アリス殿が私たちに関わる分には制限がないはずです」
「ふぅん……? 私にはあなた達と関わりを持つ気はないわ」
後はサンダリオギルマスが上手く話をつけてくれるだろうと、ギルマスに丸投げするつもりで部屋を出ていこうとすると、
「ギルドが領主に収める税の内、アリス殿のレシピの売り上げの税の半分をアリス殿に還元します。 よその土地のギルドで登録するよりもお得なはずです!」
レイナルドは“話は決まった!”とでも言いたげな顔をしているけど、そんな簡単に思い通りに話がすむと思っているのかなぁ?
「……先ほど“あまり欲を出すな。分不相応のものを求めるな”と、どなたかがわたくしに忠告をしてくださいましたの。 この言葉をわたくしからあなたに贈らせていただくわ」
「なっ! それは……」
偉そうに、「そこの娘」とか呼ばれたことも忘れてないよ? 守銭奴コンビ(ハクとライム)も黙って聞いているし、そんなに簡単に自分の思い通りに物事は進まないって事を勉強してもらおう。
「別に急いで登録をする必要もないし、気に入った町があればそこで登録するわ」
ここまで言ってもサンダリオギルマスは静観しているままなので、ギルマスにはきちんと登録までのプランがあるんだと認識する。
安心してレイナルドの話を蹴っ飛ばせるな~。今度こそ出て行こうと、ハクとライムを抱っこすると、往生際の悪い男の声が追いかけてくる。
「では、アリス殿のレシピの売り上げ分の税を全額、アリス殿へ還元します!」
「話にならないわ」
「…!?」
さっきからレイナルドは「レシピの売り上げ分の税を還元」と言っているが、レシピ自体の売り上げよりも、そこから発生する<レシピ使用料>の方が比べ物にならないほど大きいって、私が知らないとでも思っているのかなぁ?
さっきギルマスから私だけ書類をもらっていなかったからって、油断してる?
私には「小金をくれてやるから、ありがたく思って俺に大金をよこせ!」って言っているようにしか聞こえないんだけど!
呆れてため息を吐いた私の耳に、
「モレーノよ、登録予定のレシピとは、おまえが美味かったと自慢していた料理のことか? アリス殿の作る料理はギルドに登録をするほどに美味いのか? 令嬢のままごとと思っておったが、伯爵家の嫡子が恥を忘れて手に入れようとするほどのものなのか?」
王様の声が飛び込んできた。 いつから聞いていていつまで聞いているつもりなの!? 王様って、そんなに暇な職業だっけ!? 王様の声が聞こえてくる水晶も気になるけど、王様がこんな話をいつまでも聞いていることの方がもっと気になる!
王様! 謁見とかがあるんじゃないんですかーっ!? 宰相? 小姓? 側近?の人たちが困っていませんかー?
そんな思いを口にできるわけもなく、ただ大人しく耳を傾けるだけだ。 ……裁判官と王様が妙に親しげなのも気になるしね!
「ええ、陛下。 アリス殿の作る料理はただ美味しいだけでなく、発想がおもしろいのです。 どのようにおもしろいかはこの場では口にできませんが……。 最近のわたくしは、アリス殿の作ってくれる昼食を食べる時間が楽しみでなりません」
「なんと! 昼食を食べる時間が惜しいと言っておったそなたがか? 目を離すと菓子ばかり食べていたそなたが……。
アリス殿、予は1日でも早くアリス殿のレシピを手に入れたい! 何とかならぬだろうか?」
……この国の最高権力者からのおねだりきたーっ!! なんだかモレーノ裁判官とも親しいみたいだし、どうしようかな?
サンダリオギルマスに相談しようかと視線で助けを求めると、
「国王陛下が1日も早く手に入れたいとおっしゃっているのです! ちょうどこの場に商業ギルドのマルターもいるのですから、今、すぐに!登録を行いましょう! もちろん、レシピの売り上げの税は免除して差し上げますよ!」
レイナルドが調子に乗って声を掛けてきた。 すっかりと自分が優位に立ったつもりになっているらしい。
「陛下の望みを叶えるのは、この国に住むものの務めですよ!」
そう言って満面の笑顔で私に迫ってくる。 誰よ、この男が優秀だとか言ってたの! ただのバカじゃないか!
「……わかった」
「おお、おわかりいただけたか!」
「モレーノさま並びに本日私の為に集まってくださった皆さま、私は明日の朝1番でこの町を出て隣国に向かいます。今夜はこれまでのお礼に食事会を開こうと思いますので、お時間に都合がつけば、是非お越しくださいませ。
陛下は、わたくしの作る料理のレシピをご所望でしたね? 隣国での登録がすみましたらすぐにでもモレーノ裁判官宛にレシピを送らせていただくので、しばらくお時間をちょうだいいたしますがお待ちいただけますね?」
王様相手に“しばらく待て”と強気で言ってしまったけど、まあ、問題はないだろう。 …モレーノ裁判官がおもしろそうに笑っているからきっと大丈夫だ。
「な、なんだとっ!?」
レイナルドが蒼白で今にも倒れそうな顔になったけど、構うこともないだろう。
「巨額の利益が他国に流れるのか…」
水晶を背にしたサンダリオギルマスが、至極残念といった声で嘆いているけど口元が笑っているし、モレーノ裁判官は目が合うと楽しげにウインクを送ってくれる。 これは彼らにとってはまだまだ想定内のことらしい。
どんなシナリオになっているのか、前もって教えておいて欲しいよね~?
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