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食事会 5
しおりを挟む王様と宰相さんの家庭菜園の話が本当になりそうな気配がしたので、フルーツのはちみつ漬けを嬉しそうに食べているモレーノお父さまに視線で訴えてみる。
私の視線に気が付いたお父さまは「放っておけば良い」と笑って、「もしも本当に取れたて野菜でこの料理を再現できたら、城に食べに行こうか」と私を誘った。
……それは、私がこの国のお城にごはんを強請りに行くってことだよね? 敷居が高すぎるよ…。
お父さまの冗談だとわかっていても、「うん」「いいね」なんて答えるわけにもいかず、曖昧に微笑んでいると、
「明日にでも庭師に手配をさせよう! アリス殿、どんな野菜を作ればいいのか教えてくれ! モレーノは、いつ城に戻ってくるのだ!?」
王様がすかさず反応をした。 宰相さんとの話に夢中で聞いていないと思っていたのに、大事な弟の声は聞き逃さないらしい。
「城で質の高い野菜が栽培されてこの料理を再現できるようになったら、ですよ。 この<チーズふぉんでゅ>は今夜の為の新作ですからまだ登録すらされていないのです。 ずっと先の話です」
「そんな……」
お父さまにさらっとかわされて、本当に残念そうな声を出す王様が少しだけ気の毒になってしまうと、
「おや。 陛下は城で野菜が育つまでは、私に爵位を下さらないのですか?」
お父さまは水晶に向かって悪戯っぽく微笑みかけた。
「そうであった! モレーノに公爵位を与えねばならぬな! いつが良い? 明日か? 明後日か?」
「陛下、それではモレーノ様が王城にたどり着けません」
「では、一週間後か?」
「モレーノ様にも都合という物がございましょう」
「……一月後か!?」
「それではこちらの準備が間に合いません。 半年後が妥当かと」
「遅い! 二月後には整えるように!」
……国王と宰相って言うよりは、ダダを捏ねる子供とお母さんの会話を聞いている気分になってくるなぁ。
いつもこんな感じなのかと聞いてみると、お父さまは楽しげに笑って頷く。
「あの2人は幼馴染だからね。 気を許せる場所ではいつもあんな感じだよ。
でも、そろそろ宰相殿が気の毒かな」
……とても楽しそうに笑っている様子からは気の毒に思っている感じは伝わってこないけど、それでもお父さまは宰相さんに助け舟を出した。
「陛下! 私は娘の勧めでこの町で事業を立ち上げたいと思っています。 その準備と裁判所での引き継ぎなどに掛かる時間を4ヶ月から半年ほどいただきたいのですが?」
「ほう…? どういった事業なのだ?」
やはり、弟大好き!な王様は即座に興味を示して、スポーツドリンクの詳細、販売経路などの説明を詳しく求める。
宰相さんやサンダリオギルマスも会話に加わり話が盛り上がっていたので、私の説明は必要なさそうだと判断して少しの間別室に下がることにした。
執事さんの案内で使用人専用の食堂へ行き、大広間に出している料理とストックしている料理をテーブルにたくさん並べると、部屋にいた使用人の間からどよめきが起こった。
「お嬢さま、これは大広間で出されている料理そのものでは? それに、大広間には出されていない料理まで…」
「そう言う約束だったでしょ? こっちは人数が多いから追加もあるけどね。 ああ、チーズフォンデュだけは、ワインの代わりにミルクを使っているの。 万が一にもみんなが酔っ払うと困るから」
前もって同じものを出すと言っておいたのに、どうしてこんな反応なのかと不思議に思っていると、執事さんが苦笑しながら続けて言った。
「我々の職務に対するご配慮をありがとうございます。
ですがお嬢さま、我々には形の崩れてしまったものやお客様にはお出ししにくい端の方などで十分でございます。 このように、旦那さまやお客さま方と同じものを頂戴するなどもったいなくて……」
と執事さんが言うと、部屋にいた人たちも全力で頷く。 んっと、自分たちには“賄い料理”で良いってことかな。
……使用人のプロ意識の高さを見せられて感心したけど、その要望には応えられない。
「私が旅をしながら冒険者と商人をすることは聞いている? そういった部位は、商品として安く売るための大事なストックだから、みんなは遠慮なくこの料理を食べてね!
私は大広間に戻るから、足りなくなったら呼びに来て」
この部屋で出す食べ物は食べてはいけないと言い聞かせておいたので従魔たちは大人しくしているけど、大量の食べ物を前にしたこの仔たちを信用してはいけない。 そう思って急いで戻ろうとする私を、執事さんが引きとめる。
「この素晴らしい料理を売り物になさらないのですか!? 我々がそちらの」
「安く売るための大事な部位なんだってば~。 あまりお金に余裕がない人たち用なの。 あ、でも、味も品質も確かだから誤解しないでね! 商人の沽券に係わるから!
じゃあ、フィリップはゆっくり食べてから戻っておいで」
早く大広間に戻るために、ほとんど言い逃げの形で食堂を後にした。
「おお、アリス殿! 素晴らしいものを開発されたな! その飲み物を王家の直轄領でも売ってくれぬか?」
「是非、わたしの領地でも売ってもらいたいですな!」
少し席を外している間に、モレーノお父さまの始める商売は規模を大きくしたようだ。
「お気に召していただけたようで幸いでございますが、その飲み物に関しては私の手を離れておりますので、モレーノお父さまとサンダリオギルドマスターにご相談くださいますか?」
レシピも権利も全て譲ったと言うと2人はびっくりしていたようだが、また4人で話を始めたので問題はないだろう。
みんなのお皿の状態を確かめてから、部屋に控えていたメイドさん達に順番に食事をしてくるように伝えると、とても嬉しそうな顔でお礼を言って出て行った。
自分の作ったものが喜ばれるのはやっぱり嬉しいものだなぁ♪
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寒さの厳しい日々が続いています。
皆さま、お体にはお気をつけくださいね。
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