女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

文字の大きさ
260 / 754

食事会 5

しおりを挟む

 王様と宰相さんの家庭菜園の話が本当になりそうな気配がしたので、フルーツのはちみつ漬けを嬉しそうに食べているモレーノお父さまに視線で訴えてみる。

 私の視線に気が付いたお父さまは「放っておけば良い」と笑って、「もしも本当に取れたて野菜でこの料理を再現できたら、城に食べに行こうか」と私を誘った。

 ……それは、私がこの国のお城にごはんを強請ねだりに行くってことだよね? 敷居が高すぎるよ…。

 お父さまの冗談だとわかっていても、「うん」「いいね」なんて答えるわけにもいかず、曖昧に微笑んでいると、

「明日にでも庭師に手配をさせよう! アリス殿、どんな野菜を作ればいいのか教えてくれ! モレーノは、いつ城に戻ってくるのだ!?」

 王様がすかさず反応をした。  宰相さんとの話に夢中で聞いていないと思っていたのに、大事な弟の声は聞き逃さないらしい。

「城で質の高い野菜が栽培されてこの料理を再現できるようになったら、ですよ。 この<チーズふぉんでゅ>は今夜の為の新作ですからまだ登録すらされていないのです。 ずっと先の話です」

「そんな……」

 お父さまにさらっとかわされて、本当に残念そうな声を出す王様が少しだけ気の毒になってしまうと、

「おや。 陛下は城で野菜が育つまでは、私に爵位を下さらないのですか?」

 お父さまは水晶に向かって悪戯っぽく微笑みかけた。

「そうであった! モレーノに公爵位を与えねばならぬな! いつが良い? 明日か? 明後日か?」

「陛下、それではモレーノ様が王城にたどり着けません」

「では、一週間後か?」

「モレーノ様にも都合という物がございましょう」

「……一月後か!?」

「それではこちらの準備が間に合いません。 半年後が妥当かと」

「遅い! 二月後には整えるように!」 

 ……国王と宰相って言うよりは、ダダを捏ねる子供とお母さんの会話を聞いている気分になってくるなぁ。

 いつもこんな感じなのかと聞いてみると、お父さまは楽しげに笑って頷く。

「あの2人は幼馴染だからね。 気を許せる場所ではいつもあんな感じだよ。 
 でも、そろそろ宰相殿が気の毒かな」

 ……とても楽しそうに笑っている様子からは気の毒に思っている感じは伝わってこないけど、それでもお父さまは宰相さんに助け舟を出した。

「陛下! 私は娘の勧めでこの町で事業を立ち上げたいと思っています。 その準備と裁判所での引き継ぎなどに掛かる時間を4ヶ月から半年ほどいただきたいのですが?」

「ほう…? どういった事業なのだ?」

 やはり、弟大好き!ブラコンな王様は即座に興味を示して、スポーツドリンクの詳細、販売経路などの説明を詳しく求める。

 宰相さんやサンダリオギルマスも会話に加わり話が盛り上がっていたので、私の説明は必要なさそうだと判断して少しの間別室に下がることにした。

 執事さんの案内で使用人専用の食堂へ行き、大広間に出している料理とストックしている料理をテーブルにたくさん並べると、部屋にいた使用人の間からどよめきが起こった。

「お嬢さま、これは大広間で出されている料理そのものでは? それに、大広間には出されていない料理まで…」

「そう言う約束だったでしょ? こっちは人数が多いから追加もあるけどね。 ああ、チーズフォンデュだけは、ワインの代わりにミルクを使っているの。 万が一にもみんなが酔っ払うと困るから」

 前もって同じものを出すと言っておいたのに、どうしてこんな反応なのかと不思議に思っていると、執事さんが苦笑しながら続けて言った。

「我々の職務に対するご配慮をありがとうございます。
 ですがお嬢さま、我々には形の崩れてしまったものやお客様にはお出ししにくい端の方などで十分でございます。 このように、旦那さまやお客さま方と同じものを頂戴するなどもったいなくて……」

 と執事さんが言うと、部屋にいた人たちも全力で頷く。 んっと、自分たちには“賄い料理”で良いってことかな。 

 ……使用人のプロ意識の高さを見せられて感心したけど、その要望には応えられない。

「私が旅をしながら冒険者と商人をすることは聞いている? そういった部位は、商品として安く売るための大事なストックだから、みんなは遠慮なくこの料理を食べてね! 
 私は大広間に戻るから、足りなくなったら呼びに来て」

 この部屋で出す食べ物は食べてはいけないと言い聞かせておいたので従魔たちは大人しくしているけど、大量の食べ物を前にしたこの仔たちを信用してはいけない。 そう思って急いで戻ろうとする私を、執事さんが引きとめる。

「この素晴らしい料理を売り物になさらないのですか!? 我々がそちらの」
「安く売るための大事な部位なんだってば~。 あまりお金に余裕がない人たち用なの。 あ、でも、味も品質も確かだから誤解しないでね! 商人の沽券に係わるから!
 じゃあ、フィリップはゆっくり食べてから戻っておいで」

 早く大広間に戻るために、ほとんど言い逃げの形で食堂を後にした。










「おお、アリス殿! 素晴らしいものを開発されたな! その飲み物を王家の直轄領でも売ってくれぬか?」
「是非、わたしの領地でも売ってもらいたいですな!」

 少し席を外している間に、モレーノお父さまの始める商売は規模を大きくしたようだ。

「お気に召していただけたようで幸いでございますが、その飲み物に関しては私の手を離れておりますので、モレーノお父さまとサンダリオギルドマスターにご相談くださいますか?」

 レシピも権利も全て譲ったと言うと2人はびっくりしていたようだが、また4人で話を始めたので問題はないだろう。

 みんなのお皿の状態を確かめてから、部屋に控えていたメイドさん達に順番に食事をしてくるように伝えると、とても嬉しそうな顔でお礼を言って出て行った。

 自分の作ったものが喜ばれるのはやっぱり嬉しいものだなぁ♪


---------------------------------------------------------------------------------
寒さの厳しい日々が続いています。
皆さま、お体にはお気をつけくださいね。

しおりを挟む
感想 1,118

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...