267 / 754
旅立つ前には準備がいっぱい 1
しおりを挟む朝、メイドさん達に遊んでもらっている従魔たちを部屋に残して、私は1人でモレーノお父さまの執務室を訪ねた。
「「「「「おはよう」」」」」
「おはようございます。アリスお嬢さま」
「おはよう! どうしてアルバロ達がここにいるの?」
「護衛依頼が今日で完了するからな。 報告に来たんだがもう終わった。 …俺たちは出て行った方が良いか?」
今朝は庭で訓練をしている姿がなかったから部屋でゆっくりとしているのかと思っていたら、きっちりと仕事をしている最中だったらしい。
「ううん、大丈夫。 イザックを探す手間が省けてちょうど良かった」
「俺か?」と不思議そうな顔をしているイザックに、皮袋を1つ手渡す。
「イザックの元パーティーメンバーはダビに情報を流されたせいで大変な目にあったって言ってたよね? 少ないけどお見舞い。 イザックには手間をかけさせるけど、代わりに渡してくれる?」
「!? なんだとっ!?」
「だから、ささやかなお見舞い」
皮袋を受け取ってくれたのは、条件反射のようなものだったんだろう。 イザックは慌てて私に皮袋を返そうとする。
「なんでアリスがそんなことを!? 俺の元・パーティーメンバーがそんなことをしてもらう理由がないだろうっ!?」
「イザックの元・パーティーメンバーだからだよ? 他の人たちは気の毒だとは思うけど、私には関わりがないからね。 スルーしとく」
呆けたように私の目の前に皮袋を突き出したまま動かなくなったイザックの代わりに、マルタが興味津々と言った顔で聞いた。
「ねぇ、その皮袋にいくら入ってるの?」
「11,950,283メレ」
「「「「はぁぁぁっ!?」」」」
「……おや」
護衛組が大声を上げるなか、お父さまだけが冷静を保っている状態だ。 フィリップは何を考えているのかわからない顔で壁に同化している。
「ダビの部屋と持ち物を売却した分だよ」
お金の内訳を話したら納得するかな?と思っていたけど、イザックはまだ固まったまま動かない。 お金の入った皮袋はちゃんと握っているから良いんだけどね。
「それから、お父さまにはお願いがあって来たの」
「なんだい?」
お父さまはさっきからずっと微笑みを崩さずに冷静でいるので、安心してお願いごとを口にした。
「話がうやむやのままで私が受け取ることになってしまった、町長と、町長の共犯者たちの財産を、お父さまに受け取ってもらいたいの」
「………どうしてかな? 私はアリスから金を巻き上げるために、親になりたいわけではないんだが?」
あっさりと引き受けてくれると思っていたんだけど、そうはいかないらしい。 お父さまの声が低くなっててちょっと怖い。
「最初は腹が立っていたから、領主に利益を渡したくなかったの。 だから私が受け取ることにしたんだけど、この町がお父さまの領地になったから、もう、町長のお金はいらないかな…って。
お父さまなら信頼できるから、この町のために有益に使ってもらえたら嬉しいな」
言いたいことを全て言い終えてすっきりしている私とは対称的に、お父さまの眉間にはしわがよっている。 ……さっきまで穏やかに微笑んでいたのに、おかしいなぁ…。
仕方がないから、もう少し詳しく希望を話すことにした。
「あのね、ソラルに伽の相手を強要されたことがわかっている人にはこっそりとお見舞い金も渡して欲しいほしいなぁって。
それで残ったお金は<新領主>のお父さまのお名前で町のために使ってもらえたら、私としてはすっきりとして気分で旅を楽しめるの」
そこまで言い終えると、いきなり部屋に爆笑する声が響いた。 アルバロとマルタ、それにエミルだ。
「だ、ダメだ! アリスが甘いのは筋金入りだ! もう、治らないんじゃないのか? まあ、見ている方は面白いんだけどな! あははははははっ!」
アルバロはお腹を抱えて笑ったあと、
「でも、このことがハク達にばれたら大変なことになるんじゃないか?」
心配そうに聞いてくれた。
「大丈夫! 昨夜話したら2匹も賛成してくれた」
まあ、随分とごねられたけどね。 でも、町長一派のお金が無くても、これから貰う賠償金やら見舞金やらいろいろと合わせると結構な額になることを説明すると、最後には頷いてくれた。 いい従魔たちだ♪
「普通はこんなことを従魔に相談しないんだけどな。 まあ、利口なハクとライムだから納得か。 許してもらえてよかったな!」
苦笑しているエミルは普段の2匹の行動から性格をきちんと把握している。 私も昨夜の説得の時間を思い出して、苦い笑いがこぼれた。
「待ちなさい、アリス。 だったら、元・町長の財産を受け取ってから、君の名前で町に寄付をしてはどうかな? そうすれば町長不在の今、金の管理は領主の私がすることになるから結果は同じだ。 その方が君の評判もあがる」
私たちの笑い声が耳に届いたのか、お父さまが眉間のしわを消して立ち上がった。
「私の名前を出すのはちょっと……」
「……アリスは名声に興味がないようだね。君にとって名声は邪魔なものかな?」
私が言葉を濁すとお父さまは何かを察したのか、諦めたような顔で聞いた。
「うん。冒険者活動をする上でお金に興味がないと思われたら依頼主に舐められちゃうでしょ?」
昨夜、みんなにこんこんと説明されたことだ。 これで納得してくれるだろうと安心していると、お父さまが近づいてきて私の肩に手を置くと、目を合わせて真剣な声で言い聞かせるようにゆっくりと話し出した。
「いいかい? もしも旅先でアリスの金がなくなるようなことがあったら、すぐに私に連絡をするんだ。 約束できるね?」
「ええ?」
「ネフ村のマルゴの所に行く約束があることは覚えているよ。 でも、ネフ村とは離れた所にいることもあるだろう? 私の領地の方が近かったなら、必ず私に連絡をするんだ。 約束できるね? 約束できるならその仕事を引き受けよう」
お父さまを納得させるには約束をするしかないらしい。
こっくりと頷いて約束をすると、やっとお父さまが笑ってくれる。
これで一つ、今朝の仕事が片付いた♪
234
あなたにおすすめの小説
異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。
【あらすじ】
異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。
それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。
家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。
十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。
だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。
最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。
この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。
そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。
そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。
旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。
☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。
☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
【無断転載・AI利用禁止 / No Unauthorized Use or AI Training】
本作品の無断転載・複製・AI学習利用を禁じます。
Unauthorized reproduction or use for AI training is strictly prohibited.
© 魯恒凛 / RoKourin
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
最安もふもふ三匹に名前をつける変な冒険者ですが、この子たちの力を引き出せるのは私だけです ~精霊偏愛録~
Lihito
ファンタジー
精霊に名前をつける冒険者は、たぶん私だけだ。
うさぎのノル、狐のルゥ、モモンガのピノ。三匹とも最安の契約で、手のひらに乗るサイズ。周りからは「手乗り精霊で何ができる」と笑われている。
でも、この子たちへの聞き方を変えるだけで、返ってくる答えはまるで違う。三匹の情報を重ねれば、上位の精霊一体では見えないものが見える。
上位パーティが三度失敗した大型討伐。私は戦わない。ノルに地中を、ピノに上空を、ルゥに地上を調べさせて、答えを組み上げる。
——この世界の精霊の使い方、みんな間違ってませんか?
スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~
白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」
マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。
そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。
だが、この世には例外というものがある。
ストロング家の次女であるアールマティだ。
実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。
そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】
戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」
脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。
アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃
ストロング領は大飢饉となっていた。
農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。
主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。
短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる