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襲撃者
しおりを挟む「アリス、ライム、起きるのにゃ!」
「………ん?」
「外がなんだかうるさいのにゃ~。鬱陶しいから起きるのにゃ」
「……っ!!」
久しぶりの屋内のベッドの中で深い眠りに落ちていた私を、ハクが揺さぶり起こそうとしている。
ハクが寝ている私を起こすのはこれが2度目。1度目はハウンドドッグが仲間を連れてネフ村に報復に来た時だった。何かが起こったにしてはハクの声に緊張感の欠片もないんだけど、それでも私の意識は一気に眠りから引き離された。
「そと、うるさいの……?」
倒れ込むようにベッドに入った時、酒場の喧騒が3階のこの部屋まで届いていてうるさかったので、私の安眠を守るためだとハクが遮音結界を張ってくれた。おかげで今、この部屋の中はとても静かだ。 だから私にはハクの言う❝うるさい❞状況がわからない。
ライムが不思議そうに聞くのを聞きながらベッドから起き上がりハクに状況を確認すると、
「外から扉をガンガンと叩いているヤツがいるのにゃ!」
答えてくれながら、不愉快そうに尻尾を大きく振りまわしている。 遮音結界に守られている私とライムにはわからないけど、結界を張った本猫にはわかる何かがあるようで、珍しくイライラした雰囲気をまとっている。
とりあえずハクをなだめようと、手を伸ばした瞬間だった。
突然部屋の扉が内側に向かって吹っ飛んできたと思うと、何かに弾かれたように扉の方に倒れた。そして、扉を蹴り壊したと見られる足が引っ込んだかと思うと、のっそりと扉を塞ぐように立つ大きな影……。
「……熊?」
一瞬熊かと思ったほど、もっさりとした大きな人影。 …人影?
「……っ! エア…、アイスボールっ!! アイスボール! アイスボール!!」
「防御壁解除!にゃ…」
「……!? ………!! ……!」
私たちだけしかいない部屋の中だから、とキモノを脱いで下着姿で眠っていた私は、突然の乱入者に遠慮なく攻撃を仕掛けた。とっさに【エアカッター】を【アイスボール】に変更したのは、相手の視界を塞ぐため。
決して手加減をする為ではなかったんだけど、熊(のような影の男?)はアイスボールを食らってもなお立ち上がった。
「……! ……、………!」
けど…、部屋の前に立つのは遠慮したらしく、何かを言いながら扉からは少しだけ離れる。
「ハク、防御壁を張っていてくれたんだね。 もしかして、これまでもそうだったの?」
「……アリスを守るのが僕の役目にゃ。当然の事にゃ」
「……ありがとうねっ」
野営でも私が安眠を貪れていたのは、私が思っていた以上にハクが頑張ってくれていたからだった。
こんなことがなければ、ハクはきっと黙っていたままだっただろう。 今まで気が付かなかったハクの心遣いがわかって私としてはとっても嬉しいけど、それとこれとは話が別だ。
突然の乱入者には手加減無用だよね!
扉に向かって追加のアイスボールを投げつけながら急いでキモノを身に纏い身支度を整えると、様子を見ていたハクがタイミングを見て遮音結界を解いてくれた。
「グッ! 話を! うぉっ!! 話を聞いてくれ! おいっ! なぁ!! 話を聞いてくれよっ! グァッ…!」
影が少しでも姿を見せようとするたびにアイスボールを投げつけてやる。 あまりにもしつこいのでエアカッターに切り替えてやると、自分ならアイスボールには耐えられると油断していた熊に見事にヒットしたらしい。 痛そうな声が聞こえて来たけど……、乙女の寝込みを襲う不埒者だ。 もうしばらくは怒りの鉄槌を食らえっ!
ライムをハクに預けて、私は攻撃魔法を使いながらタイミングを見て扉の外へ出て行った。
扉の外には熊が4匹…もとい。4人の男たち。 一番手前にはもっさりと髭を生やした大柄の男。うん、やっぱり熊だな。 そしてその後ろには、それぞれに疲れたような顔の3人の男たち。……怪我を負っているようだけど、私の攻撃で負った怪我ではなさそうだ。
その男たちが私と目が合うなり、頬を赤く染めて……。
「やっぱり見たのねっ!? エアカッター・クアドラプル! アイスニードル・クアドラプル! ウォーターランス・クアドラプル!!」
私の下着姿を見たらしい男たちに遠慮は無用! 殺しはしない程度に威力は抑えたけど、その分、数の加減はしない。男たちを滅多打ちにする勢いで攻撃魔法を連続で放ってやった。
「このギルドではギルドマスター自らが、宿泊している女冒険者の寝込みを襲うの!?」
「いや、そうじゃない! そうじゃないんだが、急いで治癒魔法を使ってもらうために仕方なく!」
「女性が泊まっている部屋の扉を蹴り破るのが仕方ない!?」
「いや、だって、お前がどれほど呼んでも起きてこないから…っ! 仕方がないじゃないか!」
「起きてこなかったら、無理やりに寝込みを襲うって言うの!? それがこのギルドのルールなのっ!?」
「違う! ただ俺は治癒魔法を!!」
「自分の寝込みを襲う男の治癒なんて、したいと思う女がいると思うの!?」
……この熊にしか見えない大男は、この冒険者ギルドの<ギルドマスター>だったのだ。
寝込みを襲うなんて不躾な真似をした理由は、私に【治癒魔法】を使わせたかったから。
……どうやらこの熊男以外にも怪我人がいるらしいんだけど、無理やりたたき起こされて下着姿を披露させられた挙句に、一言の詫びもなく治癒魔法をねだる男の言うことに耳を貸す気には到底なれなかった。 もしかしたら、私の下着姿を見た瞬間に謝っていたのかもしれないけどね。 ハクの遮音結界で何も聞こえなかったし、真相はわからない。
「話を聞けってっ! うおっ…っ! おい、攻撃を止めろっ! ああ、もう、少しは落ち着いてだなっ! 俺はギルドマスターだっ」
熊男が偉そうにしている限り、話を聞いてやる義理はない。
男たちの態度にムカつく気持ちのままに、今までよりも大きなアイスボールを投げつけてやろうとすると、
「それがどうした! この大馬鹿野郎がっ!! 今度は何をしでかした!?」
私のアイスボールよりも一瞬早く、鋭い女性の声が辺りに響き、鋭い鞭が男たちをしばきまわした。
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