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再交渉 3
しおりを挟む「もう、朝まで起こさないでね? 今度私の睡眠の邪魔をしたら……、」
どうしようか? 考え込んで口を噤んだ。
そんな私の様子にギルマスは顔色を変えて首を縦に振ったものの、
「もしも、朝が来る前に命に関わる重傷者が出たら……、治療を頼めないか?」
顔に❝決死の覚悟❞と書いて口を開く。
「………治療費を安くし過ぎた? これでも疲れているんだけどな」
ちょっと甘い顔をしすぎたかな?と反省しながら、言外に「調子に乗るな。私を使い潰すつもりか」と伝えてみると、ギルマスは慌てて首を大きく横に振る。
「あれだけ多くの治癒魔法を使ってくれたんだから、疲れているのはわかっているんだが……。 さっきの様子だと<治癒士>はあてにできんし、回復系のポーションは討伐に行く前に大量買いして行ったから、薬屋にもそれほどの在庫は見込めないんだ。
………すまんがMPポーションを使って治療をしてもらえないか?」
あまりの不味さに治癒士たちが使用を拒否したMPポーション。 さっき受け取ったものが私のインベントリにそのまま入っているのを知っているギルマスは、まだ私に余力があることを理解しているらしい。
治療の途中に誰かが「普通の治癒士なら、魔力枯渇でとっくに倒れてる」て言ったのが聞こえた時に、カモフラージュに飲んでおいた方がいいかな?とは思ったんだけどね。❝不味い❞と聞いていた私にはそれを口にする勇気はなかったんだ。 ……仕方ないよね?
でも、そのせいで❝まだ使える❞と、簡単に安眠を妨害されるのもなぁ……。
どうしたものかと迷っていると、
「その時には、私がアリスさんを起こしに行かせてもらいます。 もう、ギルマス達を部屋には近づけさせません!」
ディアーナさんが、ギルマスと3人の冒険者たちを睨みつけながら言い、
「治療費については、高ランクの治癒士の治療費を参考にしてきっちりと支払います。当然❝出張費❞に該当する料金は倍額で支払います」
サブマスがきっちりと頭を下げて言った。 それを見たギルマスが、
「だったら、これを❝依頼❞にしよう。 依頼達成でランクアップポイントが付くぞ」
と言いながら頭を下げる。
ランクアップの足しになるなら、いいかな~?と少し心が動いたんだけど、
「それだとギルドが得をしてしまいます。 商人としての販売をお願いしてください」
ディアーナさんがそれを止めた。
ギルドが得をするって何だろう? 私の不思議顔に気が付いたディアーナさんの説明で、担当職員に支払う5%の内、2%がギルドの収入になることが分かった。 普段なら何とも思わないけど、このケースだと確かにちょっと引っかかる。
「登録したばかりなのに、もうディアーナが担当に付いたのか? だったらギルドの取り分もディアーナに」
「受け取る理由がありません。第一、私の取り分が発生することがおかしいのです」
ギルマスは意外そうな顔をしたがすぐに新しい提案をして、またもディアーナさんに却下された。
「でも、❝依頼❞にしておかないとランクアップポイントが付かないじゃないか」
ギルマスは、ギルマスなりに私のランクアップを考えてくれているようだ。でも、
「ディアーナの報告が確かなら、アリスさんはすぐに自力でランクアップするから心配はいらないよ。今回はディアーナの言うように、商人としての仕事をお願いしよう。
いつもどおり頭を使うのはわたしたちに任せておいて、おまえは金の用意をしておけ」
訳知り顔のサブマスターに却下されていた。 ……ギルマス、立場ないね。
少しだけしょんぼりした様子のギルマスがなんだか可愛くて、ちょっとだけ和んでいると、
(受けるのにゃ! さっきの値引き分を取り返すのにゃ!)
(ありすがえむぴーぽーしょんをのむなら、こいつにはぞうけつやくをのませよう)
それまで大人しく成り行きを見守っていた従魔たちが心話を送って来た。
いつもながらのハクの発言に笑いが込み上げ、なかなか苛烈なライムに苦笑がこぼれる。
うちの仔たちが乗り気なら仕方がないな。
治療は<商人>として引き受けると伝え、今度こそ寝るんだ!と階段を上がろうとして、また引き留められた。
「今度は2階だ」
何かと思ったら、酒場のマスターが部屋の鍵を私に差し出している。
……そういえば、3階の部屋はドアが吹っ飛んでいるんだったね。 廊下もボロボロにしちゃったし。
部屋の鍵を受け取って、今度こそ、ゆっくりと睡眠を取るために階段を上がった。
さっき会話の流れで❝サブマスとしての責任❞の話になったんだけど、
「今回の騒動の元となった職員の査定をサブマスとしての責任で行う。
姉としての責任は、これからおけらになる予定の4人に金を貸し、弟と3人に男としての品位を身に付けさせることで取る」
鞭をしならせながら言うサブマスの姿に、ギルマス達の冥福を祈ってしまったことは内緒の話だ。
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