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プレゼンテーション
しおりを挟む改めてベルパーソンさんに案内された部屋の中。頭の中でレイアウトを考えていると、宿の従業員が集まって来た。 家具や調度品を動かしたいと言ったから、お手伝にきてくれたらしい。
代表の女性がメモを片手にしてくる質問に答えていると、あまり身なりを整えていない従業員を連れた支配人さんがやってきた。
支配人さんはとても申し訳なさそうな顔で謝ってくれるけど、私は最初の予定通りの部屋になっただけなので何の問題もない。 それより、部屋の模様替えを許してくれたことに感謝していることを伝えると、安心したように微笑みを浮かべてくれたので私もほっとした。
支配人さんのせっかくのご好意を無駄にしちゃったこと、反省しているんだ……。あの時はあれが良いと思っての行動だったんだけどね。後から考えると、余計なことをしたと思ってる……。
今更そんなことを言っても、支配人さんは気を遣って「そんなことはない」って言ってくれるだろうから、黙っているけどね。
だから、質問をしてくれていた女性が私の希望するレイアウトを簡単にまとめた紙を見せてくれたのを機に、支配人さんから視線を外した。
私の希望は4人用のローテーブルとソファや書き物用のデスクなどをどけて、スペースを作ること。 それと、コネクティングルームを空っぽにして、そこで料理をさせて欲しいこと。 この2点だけ。
でも、コネクティングルームで料理をしたいという私の希望は難色を示された。❝火事の恐れがあるので、客室は火気厳禁❞ということらしい。
納得できる理由だったので宿に無理を言う訳にもいかず、でも今夜は極桃オーク肉(勝手に命名した)の試食会という名目でディアーナたちを招待している以上、作り置きの料理だけを出すわけにもいかない。 <冒険者ギルド>の酒場の厨房を借りに行くしかないかな? あのマスターなら、極桃オークの試食と引き換えにOKしてくれそうだし。と思案していると、
「私どもの宿の自慢の一つに食事と水の質の高さがございます。 お嬢さまにも是非リストランテをご利用いただきたく存じますが……」
レイアウト図を書いてくれた女性が、「それならお部屋もこのままご利用いただけますし」と提案してくれた。
街で1番の宿の食事はとっても気にはなるんだけどね。今回は趣旨が違うんだ。 どうしたものかと迷う私に、
「お嬢さまが宿の為に部屋をお譲りくださったお礼に、今回は私どものご招待とさせていただきたく存じますが…、いかがでしょう?」
彼女は微笑みを浮かべながら言葉を継いだ。 費用面を心配していると勘違いされたようだ。……宿で自炊をしたいと言っているんだから、そう思われるのも当然だよね。
宿側の心遣いをありがたく思いながら、今回の食事会の趣旨を説明すると、
「ほう! スフェーンの中心部に生息しているオークをお嬢さまが自ら狩られたのですか!? なんと素晴らしい!」
それまで黙って事の成り行きを見守ってくれていた支配人さんが、キラキラした目を私に向けた。
……この目には覚えがあるぞ。 幼かった流威に「今夜のごはんは、目玉焼きの乗ったハンバーグと海老さんたっぶりのポテトサラダだよ!」って言った時と同じ目だ。
最高に可愛かった流威の笑顔を思い出して微笑みを浮かべた私に、支配人さんはレイアウト図を受け取りながら質問を重ねる。
普段から自分で料理をしているのか。調理器具もないコネクティングルームでどうやって料理を作るつもりだったのか。極桃オークを使ってどんな料理を作るつもりなのか。
好奇心いっぱいの子供のような顔の支配人さんをみて(フロントでの威厳が吹っ飛んで、今はすごく可愛いおじいさまだ!)、微笑ましく思っていた私に、
(チャンスにゃ! 1番偉い男を口説き落とすとのにゃ!)
(ぼく、やどのごはんもきになるけど、きょうはありすのごはんがたべたい!)
可愛い従魔たちからの心話が届いた。
そうか、プレゼンのチャンスなんだ!
とっさににこやかな笑顔を顔に張り付けた私を、ハク、褒めてくれてもいいんだよ? 固めた笑顔の裏でこれからの手順を組み立てながら、支配人さん達をコネクティングルームに誘導する。
ハクとの打ち合わせを簡単に済ませて……、よし、プレゼン開始だ!
まずはコネクティングルーム内の全ての家具を撤去、続いて石畳の上に石の板(以前、大きな岩を解体台にするために切った時のもの)を置いてからかまどを設置して石畳の変色などを防ぐ。 壁の一角に帆布を張り、ハクにお願いして部屋の内側から壁に沿うように防御壁を張ってもらう。
「この部屋の壁を魔法で保護したわ」
と一声かけてから、薪を1本取り出してかまどから火を移し、
「……っ!」
「おお、これは!」
「も、燃えてない!?」
火の付いた薪を壁に張っている帆布に近づけた。 今回ハクにお願いしたのは、火に対する防御壁。部屋の中央に置いているかまどの火が壁に移ることはまずないことをわかっていてのダメ押しだ。
小さいけど窓がついているので換気の面も心配ない。 後は煙と煤の問題だけど、これには、
「【クリーン】」
支配人さんが連れてきた、あまり身なりの整っていない男性が役立ってくれた。 彼の来ているシャツや穿いているスラックスの裾がほんの少しだけ汚れていたのでクリーンの実験台になってもらい、部屋を汚してしまったら、彼の服のようにきちんと現状回復すると約束する。 これには部屋の中で居心地が悪そうにしていた男性がとても喜んでくれた。
そして、
「❝極桃オーク肉❞を使ってどんな料理を作るのかは……、食べてみるのが1番わかりやすいかな。 支配人さん、よろしければ今夜の食事を一緒にいかが?
今日のお客さまは冒険者ギルドで私の担当をしてくれている2人と、オーク肉の解体を請け負ってくれている職人さんの合計3名。 ……支配人さんとは畑違いのメンバーだし私もホステスとしては力不足かもしれないけど、それを多めに見てもらえるのなら、森での話も詳しくできると思うの」
〆は支配人さんを巻き込んでしまうこと! 好奇心いっぱいの支配人さんを一本釣りだ!
支配人さんは私からの誘いを聞くと一瞬だけ目を丸くしたけど、すぐに嬉しそうに相好を崩して頷いて、
「これはこれは……。 お嬢さまが手ずから作られる料理をいただけるとは光栄なことですな。喜んでお招きにあずかりましょう!
どんな料理をいただけるのか楽しみでございます!」
❝料理OK❞の許可を出してくれた。それだけでも十分嬉しいのに、
「せっかくのお招きなので手土産などを用意したいところですが……、今回はうかつなものはお持ちできませんな。 ……代わりと言ってはなんですが、今夜の宿泊の代金は頂戴いたしません。
わたくしからの土産を受け取っていただけますかな?」
いたずらっぽく微笑みながら、1泊分の宿泊代をタダにしてくれた! これにはハクとライムも大喜びで、
「んにゃん♪」
「ぷきゃあ♪」
私の肩から降りて、支配人さんの足元で愛想を振りまいている。
「おお、お可愛らしい従者どのは喜んでくれますか? ……本当にお可愛らしいですなぁ」
支配人さんも目じりを下げて喜んでくれているので、私もありがたくご好意を受け取るけど……。一食の食事で一泊の宿泊代がタダという❝海老で鯛を釣って❞しまった状態に、喜びよりも先にプレッシャーを感じてしまう。
今夜の料理の合格ライン、ハードルがグンと上がった気がするけど大丈夫かな?
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