427 / 754
街歩き4日目 5
しおりを挟む総支配人さん達が退室して間もなく、お使いをお願いしていた少女が戻って来ているとの知らせを受けたので、ハクとライムを連れて裏口に向かう。
部屋まで来てもらったら楽だったんだけど、彼らに用がある時は裏口に回るのが暗黙のルールとなっているそうなので仕方がない。でも、そこに、
「アリス!」
ディアーナも一緒にいるとは思わなかったよ。
「ハクちゃんとライムちゃんに会いたくて来ちゃった! ここで待っていればアリスが来ると思って♪」
屈託なく笑うディアーナにこの数日間のお出かけの疲れは見えなかったので、一緒に買い物に行かないかと誘ったらあっさりと首を縦に振ってくれた。
最初の予定と変わらずに少女にお使いを頼んだことが無駄になっちゃったけど、少女はにこにこと機嫌よさげに笑っているので何の問題もないだろう。 約束通りの依頼料を支払い、おまけのクッキーを渡してあげると少女は大喜びをして、思い思いの所で待機している子供たちに声を掛けた。
ディアーナがその様子をじっと見ていたので私も一緒に見ていると、少女は子供たちにクッキーのお裾分けを始め、子供たちは嬉しそうに受け取ってすぐに口に入れたり、大事そうに両手で持ってどこかへ駆けて行ったりと様々な反応を見せている。その様子を満足そうに見守っていたディアーナに促されて、私たちはそのまま出かけることにした。
私は先ほどの❝お裾分け❞がこの街特有のものなのかをディアーナに質問した。
私は今まで関わって来た人たちからそういった行為を止められていたから、なんだか腑に落ちなかったんだ。でも詳しい経緯を聞いたディアーナは、
「アリスと子供たちでは実力と活動方針が違うもの。その人たちの心配は当然よ」
❝立場の違い❞だとあっさり片付けた。
私は今のままで不自由を感じていないので他の人とパーティーを組む必要がない。というより、下手にパーティーを組むと不都合が生じてしまう。
でも子供たちはまだまだ実力がたりないので、助け合う仲間=パーティーを組んで活動しないと生活するのに十分な収入が得られない。だから、普段よりも多くの収入を手にした時にはお裾分けなどをして、周りの冒険者(候補)たちと円滑な人間関係を築いておくことが大事になるし、❝自分はこれだけ稼げるだけの実力がある❞とアピールをしておく必要があるらしい。
そうして、めでたくGランクを卒業してFランクに上がる時までに、気が合い、協調性のあるメンバーを探すのが通例になっている、と。 子供たちの世界も、大人と変わらない複雑さで成り立っているようだ……。
ディアーナの案内で最初に着いたのは服屋さん。ビジュー特製のキモノドレスはとっても素敵だけど、ずっと着た切り雀はさすがに寂しいからね。 街中用の着替えを買いに来たんだけど……。
ディアーナの❝常識を学ぼう❞講座はすでにスタートしていたようだ。
「古着屋さん?」
「そう。新しい布で作った服を購入できるのは、お金に余裕のある人たちだけよ。CランクやBランクの冒険者でも、装備品以外はこういったお店を利用することが多いの。
アリスには必要ないだろうけど、後学の為に、ね?」
まずは普通の平民が利用するお店、いわゆる❝古着屋❞さんに案内された。
「ここ、ほつれてるよ? 破けてるのもある……」
「でも、まだ着られるでしょ?」
「………」
私の中の常識では売り物にならないような服に値段が付いていることに、驚きを隠せなかった。
目を丸くする私をクスクス笑いながら次に案内してくれたのは、一見すると普通の服屋さん。でも、
「ここは使用済みの服を買い取って、布にしてから縫い直したものを扱っているの。ほら、上位の貴族たちって、一度着た服は2度と着ないって言うじゃない? 下位貴族の奥さまやお嬢さまも利用するお店なのよ」
やっぱり私の知っているお店とは一味違った。
「アリスの気に入るものがあるかしら?」
小首を傾げて私を見るディアーナに微笑みを返して店内に入っていくと、
「「いらっしゃいませ! 本日はどのようなものをお探しですか?」」
2人の女性が近寄って来た。 ……お客1人に店員が1人付くのがセオリーなのかな?
これにはディアーナが「彼女の普段使いの服を探しに来たの。まずは品揃えを見たいから、少し下がっていてください」と対応してくれた。
❝私の服❞と聞いた瞬間に2人の視線が私に固定されてちょっと怖かったから、すごく助かった。
でも、少し離れた所から、ず~っと、私……の服を見ている様子が……、うん。やっぱり怖いかも!
「こんな色も似合うわね」とか言いながら店員さんの視線を気にも留めないディアーナは、やっぱり大物なのかもしれないなぁ。
216
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる