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これも成長…ってことで
しおりを挟む急ぎで相手の返事が欲しい時は、手紙より電話の方が断然便利だ。
【遠見の水晶】はこの世界の数少ない電話のようなもの。だから忙しい人たちには当然大人気で、
「こちらの番号札をお持ちになって控室でお待ちください。呼び出し時にお見えにならない時には次の方を先にお通しすることになりますので、ご了承ください」
裁判所の開門時間に来たにも関わらず順番待ちをすることになる。……裁判所間(ここ)の物は1回300万メレもするのに、みなさんお金持ちだな!
そして、一度使用するごとに部屋の掃除(部屋に細工をされていないかなどの確認作業。小型の従魔や魔道具を忍ばせて情報を盗もうとする人がいたらしい)が必要なので、その度に結構な待ち時間が発生する
お昼前にはルシアンさんと待ち合わせをしているし、それまでにやっておきたいことが色々ある身としては困るなぁ……。
ということで、ちょっとだけズルをすることにした。
「では先に、水晶の使用許可証と使用代金をお預かりしま……。これは?」
「水晶の使用許可証とおやつの差し入れです。みなさんでどうぞ!」
「……自分の順番を先に回せということならお応えできかねますので、これはお返しします」
「いえいえ! わざわざ『遠見の水晶』を使用する皆さんに時間の余裕がないことは理解していますので、順番はきちんと守ります。ただ、私の順番までの❝お掃除❞を普段以上に素早く、最速で終わらせていただけないかと思いまして……」
聞けば一度の掃除にかかる時間はおよそ30分。それを1回5分短縮するだけでも20分の短縮になる。もしも1回10分の短縮をしてもらえたなら40分の短縮だ。これは大きい! その為の❝賄賂❞を渡してみたんだ。
「………これはその為だけの賄賂だと?」
「賄賂だなんて…。職員の方に頑張っていただく英気を養ってもらうための❝差し入れ❞です」
バスケットの中には山盛りの生キャラメル。糖分を摂取できるうえにお腹に溜まらない、頭を使う人たちにはお勧めのおやつだと思う。
「……私がこれを受け取ったとして、せいぜい一度の掃除に使う時間が5分程度の短縮にしかならないと言ったら?」
「20分も短縮していただけるのですか? 是非お願いします!」
私は仕事の手を抜いてくれと言っている訳じゃないし、いつもと違うことをして欲しいと言っている訳でもない。 いつも以上に、仕事を頑張って欲しいとお願いしているだけだ。だからお願い!と職員さんを見つめていると、少しだけ迷いを見せた職員さんは受け取った❝使用許可証❞に目を落とし、
「この許可証は……! 全額支払い済みのジャスパーのモレーノ首席裁判官にしか通信できない特別仕様!? ……承りましょう!」
びっくりしたように目を丸くして即決してくれた。もちろんしっかりとバスケットも受け取ってくれたよ^^
そのおかげで、普段は、
使用が済んだのを確認したら部屋に鍵をかけてから水晶の部屋の担当職員さんが掃除担当の職員さんたちを呼びに行き、掃除が終わったら掃除担当の職員さんたちが部屋に鍵を掛けてから部署に戻り、入れ違いに水晶の部屋の担当職員さんが戻って来る。
という手順を、
掃除担当の職員さんが1人扉の前で待機しておき、使用後にその人が部屋に入って掃除を始める。ついで、水晶の部屋の担当職員さんが❝走って❞掃除担当の職員さんたちを呼びに行き、彼らも走って部屋まで来てくれた上に掃除を大急ぎですませてくれる。その間、部屋担当の職員さんは部屋の前で待機してくれていて、掃除が終わり次第次の人を部屋に案内する。
という手順に代えてくれた。
そのおかげで1回5分の短縮と言われていた所、1回13分も短縮してもらえて、合計52分もの短縮だ! ありがたい♪
感謝の気持ちとしてアーモンドのキャラメル掛けを山盛りに入れたバスケットを渡すと、職員さんは「追加だなんて!」とびっくりしながらも嬉しそうに受け取ってくれた。
(アリスも世間を知って賢くなったのにゃ♪ 成長したのにゃ!!)
職員さん以上に嬉しそうだったのはハクだったけどね? こんなことで喜ばれてしまうなんて、私はどんな反応をすればいいんだろう?
このくらいの❝ズル❞なら【神獣】の怒りに触れることもないらしい。
内心では叱られる覚悟もしていたんだけどね? まさか褒められるとは思っていなかったよ~。
担当の職員さんがつないでくれた遠見の水晶を覗き込むと、
『アリス! 元気だったかい? 連絡をくれるのを首を長くしてずっと待っていたんだよ。 ああ、ハクもライムも変わらずに元気そうで何よりだ!』
「にゃん♪」
「ぷきゃ♪」
モレーノお父さまの穏やかな微笑みが見え、同時に優しい声が聞こえてきた。
ジャスパーを発ってからまだひと月ほどしか経っていないのに、なんだかとても懐かしい。
今は心が乱れているから、今はごたごたしているから、と連絡を先延ばしにしていたことを少しだけ後悔する。
微笑みを浮かべながら、穏やかな声でこれまでどんな旅をしてきたのかと聞いてくれるお父さまに、私は移動中の馬車の事やスフェーンの森でのこと、フランカの事やスレイやニールとの出会い、この街での出会いやお買い物の話に、孤児院のことなどを包み隠さずに報告した。
……今思えば、これらのことを手紙で報告すらしていなかった私は、親不孝ってやつじゃないのかな?
今更ながらに反省しながら、とても聞き上手なモレーノお父さまに、色々なお話を聞いてもらったんだ。
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