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信頼と心配が嬉しいから、寝る! つもりだったのに…… 1

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「アリスさまからテントの製作を依頼された用品店が重い腰を上げて納品に伺ったと耳に致しましたので、当方で製作しておりましたテントをお持ち致しました。❝比較したいから、同日に納品して欲しい❞とのご希望でしたでしょう?」

 商業ギルド長ネストレさんは野営具用品店の店主さんをチラリと見ながら少しだけ嫌味っぽく自分の来訪の意図を説明してくれる。

 ……確かに比較したいと思っていたけど、❞同日の納品❞をお願いした記憶は私にはない。

 でも、ネストレさんがこんな風に言うのだから何かあるのだろうと話を合わせて頷いて見せると、店主さんの態度や表情は変わらなかったけど、納品担当さんが一瞬後ろめたい表情を見せてくれた。

 ……なるほど。ディアーナの見立て通り、なかなか食わせ物の店主さんらしいね。 迂闊な対応をして、後でハクやライムにお叱りを受けないようにしっかりしよう! 

 呼び鈴を鳴らして従業員さんにお茶の支度をお願いしながら、何があったのかとこっそりネストレさんに尋ねてみた。








 私はこっそりと聞いてみたんだよ? でも、ネストレさんは、普通に野営具用品店の店主さんの耳にも聞こえるほどの声の大きさで、

 ・野営具用品店が、出来上がり間近のテントの仕上げをわざわざお店の中で行ったこと

 ・出来上がったテントを、お店の中で1日飾っていたこと

 ・一般のモノと作りが違うテントに気が付いて質問をした上位ランク冒険者たちに懇切丁寧に説明をし、すでに予約注文を受けていること

 を教えてくれた。

 始めは表情を変えなかった店主さんだけど、ネストレさんの説明を聞いて表情を強張らせている。

 ……以前に<卵焼き専用フライパン>を作ってくれた職人さんは、商品として店で取り扱いたい旨をきちんと事前に説明してくれて、私が了承した後も、ギルドで登録申請が通るまでは人前には出さないと言ってフライパンを作るだけで予約なんて取っていなかった。

 でも、この店主さんは、すでに実物を店のお客さんの目に触れさせ、私の注文したテントを店の商品であるかのように飾り、すでに予約まで取っている。

 ネストレさんの様子はもちろん、店主さんの様子を見ても、これがよろしくないことだと私にもわかる。どう対処するのが正解なのかと頭をフル回転させながらネストレさんに視線を送ると、

「まずは商品をご覧いただきましょう」

 にこやかに微笑みながら、同行していた職員さんに目をやった。







 アイテムボックスからテントを取り出した職員さんは手早い動きで組み立てを行っていたが、私がテントを自分で組み立てたことがないと言うと動作をゆっくりしたものに切り替え、一つ一つの作業を説明しながらテントを組み上げてくれる。それは、用品店の納品担当さんも同じだったんだけど、出来上がったテントには明らかに品質の差が出ていた。……ギルドの試作品の方が明らかに質が良いんだ。

 それを見たネストレさんがフンと鼻を鳴らし、

「❝改良❞でポイントを稼ぐつもりだったのでしょう」

 と理由を教えてくれたので、私はため息がこぼれるのを止められなかった。

 これって、この街のお店では普通の事なのかな?と一瞬思ったんだけど、だったらネストレさんがこんなに軽蔑したような視線で店主さんを見ている訳がない。

「これって試供品とかじゃあないわよね? 私が特別に注文した品で、しかも結構な値がしたと思うんだけど?」

 大金を払って商品の製作をお願いしたのに、わざと手を抜いた物を納品されるとは思っても見なかったから驚きが隠せない。失望を滲ませた私を見て、店主さんは言い訳を口にしようとしたみたいだけど、ネストレさんが声を上げる方が早かった。

「この街の店がこのような悪質な店ばかりだと思わないでいただきたい! この店と店主にはギルドからきちんとお話をさせていただきます!」

 というネストレさんに、店主さんは何も言い返せない。 自分がわざと手を抜いた商品を納品しようとした自覚があるからだろう。あの日、自分に煮え湯を飲ませた、頼りになるディアーナが不在の時を狙って。

 まさかわざわざギルドマスターが出張って来るとは思っても見なかったんだろうな。❝ギルドでも試作品を作ってもらっている❞って、きちんとディアーナが言ってくれていたのにね?

 そりゃあ、私だって、わざわざギルドマスターネストレさんが来てくれるとは思っても見なかったし、店主さんが慌てるのも無理はない。

 ん~、❝勝負あった❞って所かな?

 ギルドが出すペナルティを聞いて顔を青くさせている店主さんを見て、笑いを隠さないハクを宥めるのが大変なんだよ……。

 ハクちゃん、追い打ちをかけるのはやめて! ね?
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