女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

文字の大きさ
581 / 754

治癒士ギルド 静かではない戦い 5

しおりを挟む





「んにゃ~~ん♪(アリス、偉いのにゃ♪)」
(ビジューがモレーノお父さまに何かするような言い方は、不愉快だからね)

 嬉しそうな声で私を褒めてくれるハクに笑いかけると、

「き、きさま! よくも我にこのような無礼な振る舞いを……! 我に何かがあれば、ビジュー神の怒りを」
 ❝ジュッ……❞

(きたないつばをアリスにとばすなっ!)

「ぎゃあああああああっ!」

 激昂した治癒士ギルドマスターが私を怒鳴りつけ、ライムからお叱りを受けている。

 残っていた髪が少し溶けただけなのに、随分と大袈裟な悲鳴をあげるものだ。と呆れながら、

「ライム、偉いねぇ! 髪だけを狙えるなんてお利口だよっ♪」

 言外に❝怪我は負わせていない❞ことをアピールしておく。それから、

「ああ。ビジュー神の名を私利私欲の為に利用するあなたを罰すれば、ビジュー神が喜んでくれるって話だっけ? 私もそう思うよ」

 ライムが叱られないように、ちょっとだけ言葉を添えておく。

 動けない犯罪者を甚振った訳ではなく、ビジュー神を敬う者として、無礼な男を罰しただけだと。

 これはもちろん、マリアンジェラ首席裁判官へのアピールなんだけど、彼女は、

「あらあら? 随分と激しい捕物とりものだったのね? ご自慢の髪が気の毒なことになっているわ」

 私たちがヤツを攻撃したこと自体をなかったことにして、この場を納めてくれた。

 感謝の気持ちを込めて目礼を送ると、彼女はにっこりと微笑みながら、

「それにしても本当に美味しいお菓子ねぇ! ……今夜はみんな、とっても忙しくなりそうなのだけど、こんなに美味しいお菓子があればきっと喜んで働いてくれるんだろうなぁ」

 賄賂を要求……、いや、違うな。 これから多忙となる部下を心配するあまり、少しだけ大きな声で独りごとを呟いた。もちろん、バッチリと聞こえた私としては、

「衛兵さんたちや裁判所の職員さんたちはこれからが本番よね? 私たちのせいで大変な思いをする皆さんに差し入れをしたいな。甘いものは疲れを癒すから、良かったら受け取ってくれる?」

 ❝善意の差し入れ❞を提案する。ここでは食べにくいと思って出していない、プリンやゼリーならまだストックがあるからね♪

 もちろん彼女の返答は「喜んで」。わざとらしく遠慮するそぶりの芝居もなく、すっきりと話がまとまった。

 捕らえられた教会関係&治癒士ギルド関係者たちが衛兵さん達によって連行され、人質になってしまった2人の兄妹も保護され、集まってくれていた冒険者&商業ギルド関係者が解散したあと、各ギルドや団体のトップだけがその場に残った。

 つまり、領主のルクレツィオさん、冒険者ギルドマスターのオズヴァルドと商業ギルドマスターのネストレさん、衛兵部隊長さんとマリアンジェラ首席裁判官。そしてなぜか、王都から来たらしいロマーノさんが残っている。

 このメンバーの中に入っているロマーノさんが何者なのかがどうしても気になって、思わずじっと見つめていると、マリアンジェラ首席裁判官が苦笑を浮かべてロマーノさんを手のひらで示し、

「ロマーノは今回、ジャスパーのモレーノ首席裁判官の指示でアリスさんのお手伝いに来た人だから心配はいらないわ」

 と教えてくれる。……だったら前回はなんだったんだ?と思わないでもないんだけど、まあ、いっか。

 とりあえずは今後の相談だ。

 今回の捕物で、この街の<治癒士ギルド>が機能しなくなってしまった。この件についてはロマーノさんが、

「一月後には王都の<治癒士ギルド>から新ギルドマスターが赴任し、各地のギルドから治癒士たちが集まります」

 と教えてくれたので、新しく来る人たちが拝金主義のろくでなしでないことを祈りながら、治癒士たちが到着するまで怪我・病人のフォローに注力すれば良い。

 これについては今まで通り、冒険者ギルドと商業ギルドが連携して薬師たちの手伝いをすることでひと月を乗り切る形になる。もちろん私もできる限り薬やポーションを作り、治癒魔法を使用するつもりだ。

 教会の方も王都から新しい責任者を送り込んでくるそうだけど……。どんな人がくるのやら。礼拝の度に献金を募るような人でないことを祈るばかりだ。と思っていたら、

「今まで教会と治癒士ギルドを放置しすぎていたことを反省している。これからは領主としてしっかり目を光らせておくし、最悪の場合は教会の取り潰しや治癒士ギルドの撤退を要求する」

 ラリマー領主がきっぱりと言い切ってくれたので安心する。

 そして、今回捕まった教会&治癒士ギルドのおバカさん達の処遇は、僻地での強制労働になる可能性が高いそうだ。

 と言ってもヤツらが開墾に関わるわけではなく、開墾している人たちの回復役(もちろん無料)にしたいそうなので、ここは全てマリアンジェラ首席裁判官にお任せすることにした。

 私たちも疲れているし、早く帰りたいからね!
しおりを挟む
感想 1,118

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...