女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

文字の大きさ
621 / 754

お引越し準備。の準備 9

しおりを挟む




 脳内でカッサンドラさん=有能な経営者説を否定しかけた時、

「カッサンドラ。君は本当に、この条件で商会に負担がかからないと思っているのかい?」

 総支配人さんがカッサンドラさんに向き合った。

 うん。これだけの投資をすれば、宿の利益になることは間違いない。品質の上がった食材を使って料理長さんが腕を揮えば、その味が評判にならないわけがないからね。

 でも、それだけの出費をする商会の資金繰りは? それだけの出費を取り返す程の利益が出るのはいつになるのかな?

 総支配人さんと私の疑問の視線を受け止めたカッサンドラさんは、

「正直にお話しましょう。 ……金銭での利益が出るまではしばらく時間がかかります。経費がかさみますので、あの土地で収穫できる野菜の代金だけで今回の出費分を取り返すことは私の代では難しいかもしれません。ですが、今回の投資で我が商会は、貴族社会に大きなパイプを作ることができるでしょう!
 ロランドが貴族籍を捨ててわたくしの夫となってくれたことを❝愚かな選択だ❞と嘲笑い後ろ指を指した貴族たちが、こぞって我が商会が扱う野菜を求めるようになるのですわ!」

 と胸を張る。

 ……うん。貴族社会に大きなパイプってのは、建前だよね? 本音は自分の愛する夫を見下してくれた貴族たちを見返してやりたいってこと。

 貴族たちが❝平民の食べる物❞だと蔑んでいる野菜を使って、どうやって見返すのかが疑問だけどね?

 その疑問は総支配人さんも感じたようで、

「アリスさまのレシピのお陰でこの宿のお客さま方は野菜を召し上がるようになられたが、本来貴族たちは野菜を好まない。❝貴族たちが野菜を求めるようになる❞という目算は、アリスさまのレシピが爆発的に広がることを見越してのことかい?」

 穏やかな口調だけど、❝彼女が自分の為に暴走をするのならとめなくては!❞という意思が感じられる声音で問うた。

 彼女もそれを感じたのだろう。ゆっくりと一度頷いたあと、

「この国の王侯貴族、特に令夫人たちの間で野菜の価値が見直されているという情報を得ておりますの。<野菜>を食べることが、白くきめ細やかな美しい肌を保つのにとても有効だという話ですわ」

 揺るぎない自信を見せながら、説明を始めた。

 カッサンドラさんの商会のターゲットは平民から貴族まで。手広く色々な物を扱っているのだが、最近貴族家から❝らしくない❞商品についての問い合わせが入り始めたとのこと。その❝らしくない❞商品こそが<野菜>だったのだ。

 ❝肉と魚、木に生る果物❞だけが貴族の食事。

 でも、家を維持する為に雇っている使用人たちはそうではない。使用人たちの食事用に元々野菜の納品はしていたのだけど、ここ最近になって「自分たちが見たことのないような珍しい野菜や、自分たちが食べたことのないような美味しい野菜はないだろうか」という相談が舞い込んできた。

 不思議に思った納品担当が「どうしてそんなものが必要なのか?」と聞いても理由を話さなかったので、初めは「そんなものは知らない」で済ませていたが、何軒かの貴族家で同じことを聞かれるに至り「誰が必要なんだ? 誰が食べるんだ?」と聞いて回ってみたところ、やっと「奥さまが召し上がるんだ。だから平民の俺たちが食べたことのないような、貴族の奥さまにふさわしいものを用意しろと言われて困っている」という話が聞けた。

 その報告を聞いたカッサンドラさんの行動は早く、懇意にしていた貴族家に手土産片手に乗り込んで、詳しい事情を聞くことに成功。

 聞けばほんの数週間前、王家主催のパーティーで野菜を使った料理が供されたとのこと。

 ❝自分たちが踏みつける地面で育つ野菜❞は身分の低いものが食べる物。と認識されている中、王家のパーティーで野菜が多く使われることは過去になかった。いったい何が起こっているのか?と場がざわつき、❝我々にはこの程度のもてなしで十分だということか!? 王家は貴族家を粗雑に扱うつもりか!?❞と憤る高位貴族も出てくる中、❝雑音などはお構いなし❞の姿勢で野菜料理に手を付ける女性がいた。

 パーティーの主催者である、王妃陛下が楽しそうに野菜料理に手を伸ばしていたのだ。

 その隣では、妻の行いを窘めるでもなく嬉しそうに微笑みながら、

「そなたは貪欲よな。元々美しかった肌がますます艶やかで張りを増した。いったいどこまで美しくなれば気がすむのだ?」

 妻の頬に手を伸ばし、うっとりと指を滑らす国王陛下の姿があったそうだ。

 今までとは違う食事といつもに増して仲睦まじい様子の国王夫妻。これで何も感じないようでは貴族なんてやっていられない。

 特に反応が早かったのが、高位貴族の夫人たちだ。

 王妃陛下に倣うように野菜料理に手を伸ばしてその意外なおいしさに目を瞠り、話しかけるきっかけを手に入れるや王妃陛下を取り囲み、美しさの秘訣を教えて欲しいと懇願した。

 近くで見ると、国王陛下の惚気の通りに王妃陛下の肌がいつもよりも美しいことに気が付いたからだ。

 ❝美貌❞を武器に社交界を戦い泳ぐ貴族女性たちは、美に対して貪欲だ。

 国王夫妻を見てなんとなく気が付いた❝野菜を摂取=お肌が美しくなる❞の法則が王妃陛下の口から確実な情報として語られるや、パーティー会場内では小口で優雅に、しかし物凄いスピードで野菜料理を制覇する令夫人&令嬢の姿が見られたらしい。

「わたくしも自分で試してみたのですが……、いかがですか? 旦那さま?」

 話し終えたカッサンドラさんが、総支配人さんに頬を向ける。

「……すべすべだね。気持ちが良くて、手を離すのが惜しいな」

 愛する旦那さまから褒められてとても嬉しそうに頬を緩めたカッサンドラさんは、

「現在お付き合いをいただいている貴族家や、今後懇意にしたいと考えている貴族家に対する折々のご挨拶や付け届けの費用を考えると、今回の費用はきっちりと利益が上がる分とってもお得なのよ? 長い目で見れば、宿で使わない分の野菜の販売額だけでもしっかりと元が取れる計算なんだもの」

 自分の頬を優しく撫でる総支配人さんの手を自分の手で包みながら、甘えるように、でも、自信を覗かせながら告げる。でも、

「今回の初期投資金だけでなく、野菜泥棒から畑を守る為に警備を雇う必要があるから、本当に時間がかかると思うんだけど……」

 小声で追加の見通しを告げることも忘れていない。

「旦那さまに教えていただいた、アリスさまの畑で採れる収穫物が本当にお話の通りの品質だったなら、平民たちとの差別化を図りたがる貴族家がこぞって高値を付けてくれるはず」

 と聞かされて、今後ネフ村でできる作物が❝王家御用達❞になる未来が目に浮かんだ。

 可愛い弟の治める領地で採れる高品質の野菜を、あの王さまが見逃すはずがないもんね? ネフ村の発展は案外すぐの話かもしれないな。

 でも! 私だってルベンさん達の作るおいしい野菜を手に入れたい! 

 どうやって王さまと戦うか。これが今後の課題かな?



----------------------------------------------------------------

お読みくださりありがとうございます!
遅くなってすみませんでした><

しおりを挟む
感想 1,118

あなたにおすすめの小説

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、俺は必死についていった。 だけど、自分には何もできないと思っていた。 それでも少しでも役に立ちたくて、夜な夜な一人で力を磨いた。 だけどある日、彼らは言った。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。 俺も分かっていた。 だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。 「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」 そう思っていた。そのはずだった。 ――だけど。 ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、 “様々な縁”が重なり、騒がしくなった。 「最強を目指すべくして生まれた存在」 「君と一緒に行かせてくれ。」 「……オリオンを辞めさせた、本当の理由を知っている」 穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、 世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい―― ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

公爵令嬢やめて15年、噂の森でスローライフしてたら最強になりました!〜レベルカンストなので冒険に出る準備、なんて思ったけどハプニングだらけ〜

咲月ねむと
ファンタジー
息苦しい貴族社会から逃げ出して15年。 元公爵令嬢の私、リーナは「魔物の森」の奥で、相棒のもふもふフェンリルと気ままなスローライフを満喫していた。 そんなある日、ひょんなことから自分のレベルがカンストしていることに気づいてしまう。 ​「せっかくだし、冒険に出てみようかしら?」 ​軽い気持ちで始めた“冒険の準備”は、しかし、初日からハプニングの連続! 金策のために採った薬草は、国宝級の秘薬で鑑定士が気絶。 街でチンピラに絡まれれば、無自覚な威圧で撃退し、 初仕事では天災級の魔法でギルドの備品を物理的に破壊! 気づけばいきなり最高ランクの「Sランク冒険者」に認定され、 ボロボロの城壁を「日曜大工のノリ」で修理したら、神々しすぎる城塞が爆誕してしまった。 ​本人はいたって平和に、堅実に、お金を稼ぎたいだけなのに、規格外の生活魔法は今日も今日とて大暴走! ついには帝国の精鋭部隊に追われる亡国の王子様まで保護してしまい、私の「冒険の準備」は、いつの間にか世界の運命を左右する壮大な旅へと変わってしまって……!? ​これは、最強の力を持ってしまったおっとり元令嬢が、その力に全く気づかないまま、周囲に勘違いと畏怖と伝説を振りまいていく、勘違いスローライフ・コメディ! 本人はいつでも、至って真面目にお掃除とお料理をしたいだけなんです。信じてください!

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。

桜城恋詠
ファンタジー
 聖女見習いのロルティ(6)は、五月雨瑠衣としての前世の記憶を思い出す。  異世界から召喚された聖女が、自身を虐げてきた前世の姉だと気づいたからだ。  彼女は神官に聖女は2人もいらないと教会から追放。  迷いの森に捨てられるが――そこで重傷のアンゴラウサギと生き別れた実父に出会う。 「絶対、誰にも渡さない」 「君を深く愛している」 「あなたは私の、最愛の娘よ」  公爵家の娘になった幼子は腹違いの兄と血の繋がった父と母、2匹のもふもふにたくさんの愛を注がれて暮らす。  そんな中、養父や前世の姉から命を奪われそうになって……?  命乞いをしたって、もう遅い。  あなたたちは絶対に、許さないんだから! ☆ ☆ ☆ ★ベリーズカフェ(別タイトル)・小説家になろう(同タイトル)掲載した作品を加筆修正したものになります。 こちらはトゥルーエンドとなり、内容が異なります。 ※9/28 誤字修正

処理中です...