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護衛旅 野営 1
しおりを挟む心の中でシルヴァーノさんへの抗議を連ねていると、
「アリスさんが断る案件でも、猫ちゃんが❝利益❞になると判断すれば受けてもらえる可能性が高い。ただし、猫ちゃんはアリスさんの利益を守る保護者的存在でもあるので、自分にばかり有利な交渉を持ちかけると後悔する羽目になる。とも言われております」
苦笑と共に、アルフォンソさんは言葉を続ける。なんというか、
「随分と赤裸々ですね?」
聞いたのは私だけど、それにしてもぶっちゃけ過ぎではないだろうか? 商人さんがここまで手の内を明かす理由はなんだろう?と考えていると、
「アリスさんのような方に虚言は悪手。誠意だけが良い関係を築くための手段だと」
微笑みを浮かべたアルフォンソさんがきっぱりと言い切った。
「それもシルヴァーノさんが?」
「いいえ、私の経験則と妻からのアドバイスです。……と言いながら、私も妻も目先の欲に勝てずにアリスさんには無理を強いてしまいました。心より反省しております」
夫妻は改めて頭を下げてくれるけど、夫妻からの提案を受け入れたのはうちの可愛いハクだからね。そして、ハクに抵抗しきれずに頑張ってしまったのは私なのだから、苦笑いとともに謝罪を受け入れるしかない。
この話をここでおしまいにする為に、さっさとこの場を離れることを提案した。
こんな場所で野営するのは気分が良くないからね! 明るい内に進んでおきたいし。
盗賊たちのアジトからの道中は特にトラブルもなく(魔物は出たけど、瞬殺できるレベルの小者だったから問題なし!)進むことができた。
日没まではまだ少し時間があるけど、今日はこの辺りで野営することにする。盗賊の❝カシラ❞と❝アニキ❞も走り疲れてくたくたのようだしね!
ハクの提案で、逃走防止の為に盗賊2人を地面に埋めることになった。
【土の壁】の魔法を利用して地面に穴を掘り、その中に盗賊たちをポイポイッと放り込んだら、ニールとスレイが壁を蹴り崩しながら穴の中に土を埋めていく。この時に盗賊2人は頭から土を被ることになるけど気にしない。
首まで埋めたらしっかりと土を踏み固めて、できあがり! これでこの危険な2人をひとまず無力化できた。と思ったら、ニールが2人の前に陣取って、
(この者らは我が見張っておきましょう)
と言ってくれたのでますます安心! これで盗賊たちのことは何も気にせず、いろいろな作業に没頭できる。
日没までにはまだ少しだけ時間があるので、依頼人夫妻は今のうちにテントを組み立てたいと申し出てきた。
もちろん了承する。私はハクに結界を張ってもらって帆布を敷いたらそのまま寝頃がるつもりだったんだけど、
(せっかくテントをつくったのに、つかわないの~?)
ライムが残念そうな声を出すので、私もテントを出すことにした。でも、その前に、
「ちょっと狭いよね? 【ウインドカッター・クインティプル】【ウインドカッター・クインティプル】【ウインドカッター・クインティプル】!!」
木の枝を薪になる長さでウインドカッターで切り落とし、1か所に集めて【ドライ】。その後は、丸裸の木を切り倒してそのままインベントリに収納!
これで野営に適した空間が出来上がる。
夫妻のテントから少し離れた所に薪を組んで、薪を挟んで反対側に私たちのテントを取り出す。組み立てたままで収納しているから、取り出して杭を打ち込むだけでOK!
一仕事終えた気分で周りを見回すと、猿轡を噛んだま少し怯えたように私を見ている盗賊2人と、テントを組み立てる手を止めてぽかんとした表情で私とテントを交互に見ている夫妻の姿。
……どうしたのかなぁ?
怯えているようなそぶりの盗賊2人はともかく、テントを組み立てる手を止めてしまった依頼人夫妻の様子は気になる。早くしないと暗くなっちゃうし……。
名前を呼んでも反応しない2人をどう思ったのか、ライムがぽよんぽよんと飛び跳ねながら近づいて行き、そのままの勢いでアルフォンソさんの膝に向かって体当たりをする。それによってやっと正気づいたらしい夫妻は額を寄せ合い、
「盗賊討伐とか魔物狩りを見てわかっていたつもりだったけど、アリスって本当に凄いわ! 私たち、本当にラッキーだったわね!」
「ああ。こんな所で野営をするというのに何の不安も湧かないし、次に何が起きるのかが楽しみなくらいだ」
何かをぼそぼそと呟き合った後、
「アリスさん! そのテントはどこで入手されたのでしょう!? 初めて見るタイプなのですが!」
自分たちのテントを放ってこちらに意識を向けてしまった。
いくらでも見せてあげるから、まずは自分たちの寝床を準備した方がいいんじゃないかな?
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