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第一章 追放対策
第二十六話
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遡ること一ヶ月前、訓練が終わった後、ヴァンが徹也達に魔物狩りを行う正確な場所を、地図を見せて伝えた。出現する魔物に関しては、それに関する授業を後に行うことになった。
ヴァンから向かう場所を教えられた徹也は、森の先が書かれていないことに疑問を抱いた。何か、書くと不都合なことでもあるのだろうか。そう考えた徹也は目を鋭くして、その地図を見つめた。
だが、そこに書かれている地図はどこまで見ても王都から森の部分しかない。森の先のことは、一切書かれていなかった。
「……では、ここまでとする。夕食までは時間があるので、自由に過ごしてもらって構わない」
ヴァンのその言葉により、生徒達は次々と立ち上がって訓練場から去っていく。それは徹也も例外ではなかったが、徹也は立ち去る前に治伽と舞に声をかけた。
「……すまん。俺についてきてくれ」
治伽と舞は徹也の唐突な言葉に、顔を見合わせた。徹也から唐突に話しかけれらたので驚いたのである。だが、治伽と舞はすぐに顔を徹也の方に向け、コクリと頷いた。
徹也は治伽と舞と共に、訓練場から出ていく。しかし、生徒達の流れとは違う方向に歩いていく徹也に気付いた治伽と舞は、徹也に問いかけた。
「……才無佐君?どこに行くつもりなの?」
「そ、そうだよ。皆とは違う方向に歩いてるけど……」
「……書庫だ。地図を探しに行く」
徹也がそう言うと、治伽と舞はまた驚いた。地図なら、先程ヴァンが見せてくれたではないかと、治伽と舞は思ったからである。
「……地図?地図なら、さっき見たよね?」
「確かにな。だが、俺はあれが全てではないと思っている」
「……信じられない、ということ?」
治伽の問に、徹也は無言で頷いて肯定の意を示した。それを見た治伽と舞は黙ってしまう。徹也がそこまで考えているのは、自分達のためでもあることを分かっているからだ。
その空気のまま黙って歩き続けていると、徹也が目指していた書庫に着いていた。徹也がその書庫の扉を開けて中に入ると、誰かに声をかけられた。
「徹也様!いらしてくださったのですね!」
「シャ、シャーロット!?な、何で……!?」
シャーロットは徹也のそう言うと、徹也の所まで近づき徹也の手を取った。徹也はシャーロットのその行動に驚き、返しが少し吃ってしまった。シャーロットは、徹也にほぼ抱きついているのではないかと思うほど近づいている。
すると、徹也は後ろから冷ややかな視線を感じた。徹也がギギギッと後ろに振り向くと、治伽と舞がジト目で徹也を見ていた。
「……才無佐君?その子、誰かな?かな?」
「……流石に、近すぎると思うのだけど?才無佐君?」
「え、いや、その……」
(……俺、何も悪くないよな!?何で!?何で治伽と小早川はこんなに怒っているんだ!?)
徹也は治伽と舞の追求にそう思った。徹也がそう思うのは無理もない。治伽はまだしも、舞は間違いなく嫉妬から来ているものだ。それが理解できていない徹也にとっては、理不尽な言葉でしかないだろう。
「……才無佐君?何故治伽は徹也様のことを才無佐君と呼んでいるのですか?名前で呼び合おうと決めましたのに……」
「ちょ!シャ、シャーロット!?」
「そ、それは!?」
シャーロットの言葉に、徹也と治伽はあからさまに動揺した。もちろん、舞の前で言われたからである。
徹也と治伽の予想通り、舞の様子がまた変わった。ジト目ではなくなり、ニコニコと笑っている。だが、その笑顔は迫力があって、怖いものだった。
「……才無佐君?治伽ちゃん?どういうことかな?かな?かな?」
「こ、これは、だな……」
「お、落ち着いて。舞。これは、シャーロットに頼まれたからなの。ね?シャーロット」
「?はい。私からお願いしましたが……」
シャーロットがそう言ったことで、徹也と治伽は少し舞の様子が和らぐのではないかと期待した。しかし、舞の様子は全く変わらない。
「……ふーん。じゃあ、私のことも名前で呼んでくれるよね?才無佐君?……ううん。徹也君?」
「……え?いや、それは……」
「まあ!いいですね!私も名前で呼んでいいですか?」
「うん。でも、徹也君が呼んでくれてからね」
「はい!」
トントン拍子に進んでいく話に、徹也はついていけない。自分が舞を名前で呼ぶことでどう変わるというのかと、徹也は思っていた。
すると、徹也の肩に手が置かれる。その手の主は、治伽だった。そして、小さな声で徹也に話しかける。
「……取り敢えず、呼んであげて。それで解決するわ」
「……本当か?」
「ええ。間違いなく」
「……分かった」
治伽の言葉に、徹也は頷いてそう言った。そして、徹也は舞の様子に少し怖がりつつも、舞と向かい合って名前を呼んだ。
「……ま、舞……」
「……うん!徹也君!」
先程までの怖い笑顔はどこへやら、舞は純粋で嬉しそうな笑顔を浮かべて徹也に名前を呼び返した。それを見て、治伽はホッと息を吐き、シャーロットはニコニコと笑って舞に話しかける。
「では、私も名前で呼んでよろしいですか?」
「うん!いいよ!」
「ありがとうございます。私の名前はシャーロット・フォン・タレンと申します。よろしくお願いしますね?舞」
「私は小早川舞だよ!よろしくね!シャーロットちゃん!」
互いに自己紹介し合った舞とシャーロットは握手して笑い合った。そんな様子を見て、徹也も安心して息を吐いた。そして、本題をシャーロットに問いかける。
「……それで、シャーロット。ここに来た理由なんだが……」
「書庫に来るということは、本をお探しなのですか?どのような本を?」
「あ、ああ。地図を探してるんだ。どこにあるか知ってるか?」
「はい!知ってますよ!持ってきますね!」
徹也の質問に笑顔で頷いたシャーロットは、そのまま本を持ってこようとする。だが、徹也はシャーロットを引き止めた。シャーロットだけに持ってこさせるのは悪いと思ったからである。
「い、いや、俺も行くよ。流石に一人で行かせるのは……」
「そうですか?じゃあ、ついて来てください」
「ああ。分かった。……は、治伽と、ま、舞は、ここで待っててくれ」
「え、ええ。分かったわ」
「うん!行ってらっしゃい!徹也君!」
徹也は治伽と舞にそう伝えると、治伽と舞はそれぞれ徹也に答えを返した。そして、徹也はシャーロットの後を追って歩き出した。
ヴァンから向かう場所を教えられた徹也は、森の先が書かれていないことに疑問を抱いた。何か、書くと不都合なことでもあるのだろうか。そう考えた徹也は目を鋭くして、その地図を見つめた。
だが、そこに書かれている地図はどこまで見ても王都から森の部分しかない。森の先のことは、一切書かれていなかった。
「……では、ここまでとする。夕食までは時間があるので、自由に過ごしてもらって構わない」
ヴァンのその言葉により、生徒達は次々と立ち上がって訓練場から去っていく。それは徹也も例外ではなかったが、徹也は立ち去る前に治伽と舞に声をかけた。
「……すまん。俺についてきてくれ」
治伽と舞は徹也の唐突な言葉に、顔を見合わせた。徹也から唐突に話しかけれらたので驚いたのである。だが、治伽と舞はすぐに顔を徹也の方に向け、コクリと頷いた。
徹也は治伽と舞と共に、訓練場から出ていく。しかし、生徒達の流れとは違う方向に歩いていく徹也に気付いた治伽と舞は、徹也に問いかけた。
「……才無佐君?どこに行くつもりなの?」
「そ、そうだよ。皆とは違う方向に歩いてるけど……」
「……書庫だ。地図を探しに行く」
徹也がそう言うと、治伽と舞はまた驚いた。地図なら、先程ヴァンが見せてくれたではないかと、治伽と舞は思ったからである。
「……地図?地図なら、さっき見たよね?」
「確かにな。だが、俺はあれが全てではないと思っている」
「……信じられない、ということ?」
治伽の問に、徹也は無言で頷いて肯定の意を示した。それを見た治伽と舞は黙ってしまう。徹也がそこまで考えているのは、自分達のためでもあることを分かっているからだ。
その空気のまま黙って歩き続けていると、徹也が目指していた書庫に着いていた。徹也がその書庫の扉を開けて中に入ると、誰かに声をかけられた。
「徹也様!いらしてくださったのですね!」
「シャ、シャーロット!?な、何で……!?」
シャーロットは徹也のそう言うと、徹也の所まで近づき徹也の手を取った。徹也はシャーロットのその行動に驚き、返しが少し吃ってしまった。シャーロットは、徹也にほぼ抱きついているのではないかと思うほど近づいている。
すると、徹也は後ろから冷ややかな視線を感じた。徹也がギギギッと後ろに振り向くと、治伽と舞がジト目で徹也を見ていた。
「……才無佐君?その子、誰かな?かな?」
「……流石に、近すぎると思うのだけど?才無佐君?」
「え、いや、その……」
(……俺、何も悪くないよな!?何で!?何で治伽と小早川はこんなに怒っているんだ!?)
徹也は治伽と舞の追求にそう思った。徹也がそう思うのは無理もない。治伽はまだしも、舞は間違いなく嫉妬から来ているものだ。それが理解できていない徹也にとっては、理不尽な言葉でしかないだろう。
「……才無佐君?何故治伽は徹也様のことを才無佐君と呼んでいるのですか?名前で呼び合おうと決めましたのに……」
「ちょ!シャ、シャーロット!?」
「そ、それは!?」
シャーロットの言葉に、徹也と治伽はあからさまに動揺した。もちろん、舞の前で言われたからである。
徹也と治伽の予想通り、舞の様子がまた変わった。ジト目ではなくなり、ニコニコと笑っている。だが、その笑顔は迫力があって、怖いものだった。
「……才無佐君?治伽ちゃん?どういうことかな?かな?かな?」
「こ、これは、だな……」
「お、落ち着いて。舞。これは、シャーロットに頼まれたからなの。ね?シャーロット」
「?はい。私からお願いしましたが……」
シャーロットがそう言ったことで、徹也と治伽は少し舞の様子が和らぐのではないかと期待した。しかし、舞の様子は全く変わらない。
「……ふーん。じゃあ、私のことも名前で呼んでくれるよね?才無佐君?……ううん。徹也君?」
「……え?いや、それは……」
「まあ!いいですね!私も名前で呼んでいいですか?」
「うん。でも、徹也君が呼んでくれてからね」
「はい!」
トントン拍子に進んでいく話に、徹也はついていけない。自分が舞を名前で呼ぶことでどう変わるというのかと、徹也は思っていた。
すると、徹也の肩に手が置かれる。その手の主は、治伽だった。そして、小さな声で徹也に話しかける。
「……取り敢えず、呼んであげて。それで解決するわ」
「……本当か?」
「ええ。間違いなく」
「……分かった」
治伽の言葉に、徹也は頷いてそう言った。そして、徹也は舞の様子に少し怖がりつつも、舞と向かい合って名前を呼んだ。
「……ま、舞……」
「……うん!徹也君!」
先程までの怖い笑顔はどこへやら、舞は純粋で嬉しそうな笑顔を浮かべて徹也に名前を呼び返した。それを見て、治伽はホッと息を吐き、シャーロットはニコニコと笑って舞に話しかける。
「では、私も名前で呼んでよろしいですか?」
「うん!いいよ!」
「ありがとうございます。私の名前はシャーロット・フォン・タレンと申します。よろしくお願いしますね?舞」
「私は小早川舞だよ!よろしくね!シャーロットちゃん!」
互いに自己紹介し合った舞とシャーロットは握手して笑い合った。そんな様子を見て、徹也も安心して息を吐いた。そして、本題をシャーロットに問いかける。
「……それで、シャーロット。ここに来た理由なんだが……」
「書庫に来るということは、本をお探しなのですか?どのような本を?」
「あ、ああ。地図を探してるんだ。どこにあるか知ってるか?」
「はい!知ってますよ!持ってきますね!」
徹也の質問に笑顔で頷いたシャーロットは、そのまま本を持ってこようとする。だが、徹也はシャーロットを引き止めた。シャーロットだけに持ってこさせるのは悪いと思ったからである。
「い、いや、俺も行くよ。流石に一人で行かせるのは……」
「そうですか?じゃあ、ついて来てください」
「ああ。分かった。……は、治伽と、ま、舞は、ここで待っててくれ」
「え、ええ。分かったわ」
「うん!行ってらっしゃい!徹也君!」
徹也は治伽と舞にそう伝えると、治伽と舞はそれぞれ徹也に答えを返した。そして、徹也はシャーロットの後を追って歩き出した。
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