無能なオタクの異世界対策生活〜才能はなかったが傾向と対策を徹底し余裕で生き抜く〜

辻谷戒斗

文字の大きさ
87 / 93
第二章 財政対策

第四十一話

しおりを挟む
 そして時は進み、村に行く日の前日。徹也は財務大臣室にいた。明日のことを話し合うためである。

 その財務大臣室には、多くの者がいた。この部屋の主であるヘンリーに、その妹であるクリス。

 治伽に舞に優愛もいて、教師である刀夜もいる。更に、徹也が新たに人を連れてきていた。

 それは、真理に真未に穏恵だった。この三人に協力を頼んだ以上、この会議にも参加してもらうべきだと徹也は考えたのである。

「さて。では明日に向けて話し合おうか。まずは徹也君。改めて計画の概要を説明してくれ」

 まずはヘンリーが、徹也に説明を促した。計画の全てを知らない者もいるし、一度整理するべきであると考えたからだ。

「はい。今回は、経済回復のために村を再興します。そのために、必要な人材を集めさせてもらいました」

 徹也はそう言うと、そのメンバーの方を見た。そして、計画の説明を続ける。

「まずは土屋に、荒れ果てた土地を修復してもらいます。その後、真未に家の修復を――」

「ちょ、ちょっと待って!」

 徹也の言葉を、急に優愛が遮った。徹也はそんな優愛に驚きつつも反応する。

「ど、どうした優愛?何かあったのか?」

「いやいやいや!何で双見さんのことを名前で呼んでるの!?」

「……あっ」

 徹也は気づいた。治伽と舞には幼馴染であることがバレたが、優愛にはバレていなかったのである。

(や、やばい……!ミスった……!しかも、この場には……!)

 そう。真未ご本人がいるのである。そしてこういう時、真未は面白がる人であるということを、徹也は知っている。

「んー?だって幼馴染だし?これぐらい普通じゃない?」

「……そうだね。私も名前で呼ばれてるし」

 真未の言葉に、真理が乗っかる。そんな発言に対して、徹也は更に焦った。

「ちょ、ちょっと待っ――!」

 だが、徹也の制止も空しく、真未と真理の言葉はこの場にいる全員に届いてしまった。徹也が制止の言葉を言い終わる前に、優愛が真未と真理の言葉に反応する。

「……ふーん。でも、私も名前で呼ばれてるもんね」

「「……は?」」

 こんな状況の中で、優愛が更なる爆弾を投下した。その言葉に慌てた徹也であったが、時すでに遅し。優愛は畳み掛けるように、言葉を続ける。

「私だけじゃないよ。治伽ちゃんに舞ちゃんもクリスさんもそう。ね?」

「そうそう!私達も名前で呼ばれてるもん!」

「まあ、そうね……」

「私はフルネームではないですが……」

 優愛の問いかけに、舞と治伽は頷いて同意の意を示した。クリスもそう言いつつ、名で呼ばれているのは事実なので、舞と治伽と同じように頷いた。すると、真未と真理の目が鋭くなる。それに応じて優愛と舞の目つきも鋭くなっていった。

 そんな睨み合いを見た徹也は、諦めの境地まで来ていた。もうどうにもならないことを悟ったのである。

 すると、ボーっとしている徹也に話しかけてきた人物がいた。その人物は、先程までの一連の流れに参加していなかった穏恵だった。

「さ、才無佐君……。名前で呼んでないの、もしかして私だけ……なの、かな?」

「……え?ま、まあ……そう、だな」

 穏恵の問に、徹也が戸惑いながら答えた。その言葉に対して、穏恵は不満を隠せない。

 それはそうだろう。穏恵以外の全員が名前で呼ばれているのに、なぜ自分だけが呼ばれていないのか。不満に思っても仕方がないといえる。

「わ、私も……。私も、名前で呼んでほしい……」

 穏恵は勇気を出して、徹也にそう告げた。このままではいけないと思ったのだ。

 徹也は穏恵のその言葉を受け、驚いて穏恵の方に顔を向ける。徹也が見た穏恵の顔は赤くなっていたが、徹也の目を見て真剣に頼んでいるように見えた。

(確かに、この中だと土屋だけ名前で呼んでない。土屋の方が治伽達よりも先に知り合っていたにも関わらずだしな……。土屋からすれば、納得できないか)

 そう考えた徹也は、穏恵の願いに肯定の意味を込めて頷いた。穏恵からすれば、これ以上遅れを取るわけにはいかないと思っての行動であったが、それは徹也に伝わっていない。

「分かった。……穏恵。これで、いいか?」

「っ……!うんっ!徹也君……!」

 徹也が穏恵を名前で呼ぶと、穏恵は嬉しそうに徹也の名前を呼び返した。そんな穏恵を見て、徹也も思わず笑みを浮かべる。

 だが、徹也のその笑みはすぐに引っ込むこととなった。なぜなら、先程まで睨み合っていた両者の目が、そのまま徹也と穏恵の方に向いていたからだ。

「……徹也(君)?」

「ひっ!?」

 徹也は優愛達のそんな視線に顔を青くして後ずさった。それほどまでに、優愛達の言葉が怖かったのである。

 そんな徹也と優愛達の間に、治伽と刀夜が割って入った。この状況を止めるためだ。

「お、落ち着いて!これで、全員平等でしょ!?」

「そうよ!いい加減にしなさい!話が進まないでしょう!?」

 治伽と刀夜の言葉を聞いた優愛達は、ハッとして徹也を睨むことを止め、バツが悪そうに視線を逸した。睨まれていた徹也は、それがなくなってあからさまにホッとする。

「はぁ……。もう、いいかな?」

 ため息を吐いてそう言ったのは、ヘンリーである。ヘンリーとしても、ここまで話が止まるのは良いことではないのだ。

 そんなヘンリーの言葉に、この場にいるヘンリー以外の全員が頷いた。それを見たヘンリーは、徹也に説明の続きを促す。

「よろしい。では、徹也君。もう一度説明を頼む」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

追放された最強ヒーラーは、美少女令嬢たちとハーレム生活を送る ~公爵令嬢も義妹も幼馴染も俺のことを大好きらしいので一緒の風呂に入ります~

軽井広@北欧美少女 書籍化!
ファンタジー
白魔道師のクリスは、宮廷魔導師団の副団長として、王国の戦争での勝利に貢献してきた。だが、国王の非道な行いに批判的なクリスは、反逆の疑いをかけられ宮廷を追放されてしまう。 そんなクリスに与えられた国からの新たな命令は、逃亡した美少女公爵令嬢を捕らえ、処刑することだった。彼女は敵国との内通を疑われ、王太子との婚約を破棄されていた。だが、無実を訴える公爵令嬢のことを信じ、彼女を助けることに決めるクリス。 クリスは国のためではなく、自分のため、そして自分を頼る少女のために、自らの力を使うことにした。やがて、同じような境遇の少女たちを助け、クリスは彼女たちと暮らすことになる。 一方、クリスのいなくなった王国軍は、隣国との戦争に負けはじめた……。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

処理中です...