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第一章 入学編
入学編第十四話 再燃
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休みの日が明け、今日からまた一週間、学校に通う日々がやってきた。
だが、今日はそれだけではなく、月の最後の日だ。
つまり明日には、入学式から一ヶ月が経過する。
ラノハは明日までに聖装竜機を動かせなければ、退学が決まってしまうのだ。
だがラノハは、未だに自分の中の悩みを解決できていなかった。
ラノハはその雑念を振り払うかのように、一心不乱に模擬剣を振っていた。
現在、ラノハ以外の竜機操縦士育成学校第四期生の生徒は聖装竜機の訓練を行っている。
ラノハはそこで無駄な時間を過ごすよりは、学校の訓練場で剣の鍛錬をしたほうが有意義だと判断したのだ。
幸いというべきか、二年生は今日から職場体験でスミーナ国軍の元に行っており、三年生はスタッツ街などのルマローニ国との国境近くの街や村に派遣されている。
ルマローニ国の動きが活発化している可能性が高いからである。
竜機操縦士育成学校の三年生ともなるとこのように、スミーナ国軍と共に国からの任務を受けることもある。
二年生の職場体験は、これの予行演習のようなものだ。
それほどまでに竜機操縦士、第三世代は希少で、スミーナ国に必要とされている存在なのである。
それはさておき、今この学校には、二、三年生はおらず、一年生と教師しかいない。
これによってラノハは、この訓練場で剣の鍛錬ができているというわけである。
だが、ラノハは鍛錬に集中することはできていなかった。
今のラノハの頭の中では常に、色々なことが渦巻いていた。
ジークさんの言葉……
『彼等に生かされた私達は、前に進み続けるしかない。彼等から託されたものを、想いを受け継いで、進み続けるしかないんだ』
ヴァルサの叫び……
『……こんなところで、止まってんじゃねえよ!お前には、進み続けてもらわないと困るんだよ!そうじゃなきゃ俺が!お前を恨んじまう!お前がいなけりゃ、父さんが生きてたんじゃないかって!』
『立ち上がって一歩踏み出せ!怖いものから逃げるな!立ち向かえ!向かい合え!父さんたちは逃げなかった!ジークさんも逃げなかった!立ち向かったんだ!向かい合ったんだ!自分が怖いと思うものに!自分の後悔に!お前も!お前もそうしろ!』
ミリアの訴え……
『ラノハがいろんなことで悩んでるのは分かるよ。それに、私はラノハが悩んでる全てのことを分かるわけじゃない。私はラノハじゃないから、ラノハが思ってることとかは、話してくれないと分からないの。だから、一人でどうしても分からないことがあれば、相談してほしい。私じゃなくてもいいから、一人で抱え込まないで』
『……焦らなくていいよ。ラノハの中で整理ができてから話してくれたらいい。私はいつでも、いつになっても、ラノハのことを待ってるから。いつでも来てくれていいよ。でも、これだけは忘れないで。ラノハは一人じゃない。一人じゃないから。私は今も、これからも、ずっとラノハのそばにいるよ』
そして、今現在も左手の薬指に付けたままのミリアからもらった黒く光る石が付いた指輪が目に入ると、その言葉だけでなく、ミリアが笑う光景までもが鮮明にラノハの頭の中で思い浮かぶ。
そんな言葉や光景を全て振り払うかのように、更に模擬剣を振る速度が上がった。
本当に、自分が何に怖がっているのか。ラノハには分からないのだ。
ラノハはその事実に唇を噛み締め、更に力強く模擬剣を振った。
その瞬間、ラノハの背後の方向から爆発音が鳴り響いた。
「っ!なんだっ!?」
ラノハが振り返りその方向を見てみると、曇り空に向かって煙が立ち上っていた。
あの方向は、聖装竜機の格納庫がある方向だ。煙はそこからではなく、更にその先から立ち上っている。
「……聖装竜機の訓練で、何かあったのか?」
そう。煙が立ち上っていたのは、聖装竜機専用訓練場である。そこは屋外で広く、聖装竜機を動かしやすいところになっている。
ラノハは、そこから煙が立ち上っているのを見て、訓練中に何かあったのだと結論づけたが、その結論はものの数秒で壊される事となった。
「……あれは、何だ?竜機か?」
ラノハは、聖装竜機専用訓練場の真上の上空あたりに浮かんでいる四つの物体に注目した。
ラノハが見る限りでは、おそらく竜機だろうということだが、なぜ四機だけ飛んでいるのか、ラノハは疑問に思った。
更に、色も気になった。遠目過ぎてよく見えないが、あの色は純白ではない気がしたのである。
まさか――
ラノハがそう思った時、竜機操縦士育成学校で音が鳴り響いた。
スミーナ国内では、音を基準として警報を伝えている。止まること無く鳴り続けるこの音の意味は――
邪装竜機の、侵入である。
そのことに気づいたラノハは模擬剣を握りしめたまま、今いる訓練場から真反対にある、聖装竜機専用訓練場に向かってこう言ってから走り出した。
「邪装竜機っ!!」
走り出したラノハの頭の中では、先程まで悩んでいた悩みなど隅に追いやり、邪装竜機に対する復讐心で支配された。
そしてラノハの瞳には、入学当初に燃え盛っていたあの炎がまた、再燃していたのであった――。
だが、今日はそれだけではなく、月の最後の日だ。
つまり明日には、入学式から一ヶ月が経過する。
ラノハは明日までに聖装竜機を動かせなければ、退学が決まってしまうのだ。
だがラノハは、未だに自分の中の悩みを解決できていなかった。
ラノハはその雑念を振り払うかのように、一心不乱に模擬剣を振っていた。
現在、ラノハ以外の竜機操縦士育成学校第四期生の生徒は聖装竜機の訓練を行っている。
ラノハはそこで無駄な時間を過ごすよりは、学校の訓練場で剣の鍛錬をしたほうが有意義だと判断したのだ。
幸いというべきか、二年生は今日から職場体験でスミーナ国軍の元に行っており、三年生はスタッツ街などのルマローニ国との国境近くの街や村に派遣されている。
ルマローニ国の動きが活発化している可能性が高いからである。
竜機操縦士育成学校の三年生ともなるとこのように、スミーナ国軍と共に国からの任務を受けることもある。
二年生の職場体験は、これの予行演習のようなものだ。
それほどまでに竜機操縦士、第三世代は希少で、スミーナ国に必要とされている存在なのである。
それはさておき、今この学校には、二、三年生はおらず、一年生と教師しかいない。
これによってラノハは、この訓練場で剣の鍛錬ができているというわけである。
だが、ラノハは鍛錬に集中することはできていなかった。
今のラノハの頭の中では常に、色々なことが渦巻いていた。
ジークさんの言葉……
『彼等に生かされた私達は、前に進み続けるしかない。彼等から託されたものを、想いを受け継いで、進み続けるしかないんだ』
ヴァルサの叫び……
『……こんなところで、止まってんじゃねえよ!お前には、進み続けてもらわないと困るんだよ!そうじゃなきゃ俺が!お前を恨んじまう!お前がいなけりゃ、父さんが生きてたんじゃないかって!』
『立ち上がって一歩踏み出せ!怖いものから逃げるな!立ち向かえ!向かい合え!父さんたちは逃げなかった!ジークさんも逃げなかった!立ち向かったんだ!向かい合ったんだ!自分が怖いと思うものに!自分の後悔に!お前も!お前もそうしろ!』
ミリアの訴え……
『ラノハがいろんなことで悩んでるのは分かるよ。それに、私はラノハが悩んでる全てのことを分かるわけじゃない。私はラノハじゃないから、ラノハが思ってることとかは、話してくれないと分からないの。だから、一人でどうしても分からないことがあれば、相談してほしい。私じゃなくてもいいから、一人で抱え込まないで』
『……焦らなくていいよ。ラノハの中で整理ができてから話してくれたらいい。私はいつでも、いつになっても、ラノハのことを待ってるから。いつでも来てくれていいよ。でも、これだけは忘れないで。ラノハは一人じゃない。一人じゃないから。私は今も、これからも、ずっとラノハのそばにいるよ』
そして、今現在も左手の薬指に付けたままのミリアからもらった黒く光る石が付いた指輪が目に入ると、その言葉だけでなく、ミリアが笑う光景までもが鮮明にラノハの頭の中で思い浮かぶ。
そんな言葉や光景を全て振り払うかのように、更に模擬剣を振る速度が上がった。
本当に、自分が何に怖がっているのか。ラノハには分からないのだ。
ラノハはその事実に唇を噛み締め、更に力強く模擬剣を振った。
その瞬間、ラノハの背後の方向から爆発音が鳴り響いた。
「っ!なんだっ!?」
ラノハが振り返りその方向を見てみると、曇り空に向かって煙が立ち上っていた。
あの方向は、聖装竜機の格納庫がある方向だ。煙はそこからではなく、更にその先から立ち上っている。
「……聖装竜機の訓練で、何かあったのか?」
そう。煙が立ち上っていたのは、聖装竜機専用訓練場である。そこは屋外で広く、聖装竜機を動かしやすいところになっている。
ラノハは、そこから煙が立ち上っているのを見て、訓練中に何かあったのだと結論づけたが、その結論はものの数秒で壊される事となった。
「……あれは、何だ?竜機か?」
ラノハは、聖装竜機専用訓練場の真上の上空あたりに浮かんでいる四つの物体に注目した。
ラノハが見る限りでは、おそらく竜機だろうということだが、なぜ四機だけ飛んでいるのか、ラノハは疑問に思った。
更に、色も気になった。遠目過ぎてよく見えないが、あの色は純白ではない気がしたのである。
まさか――
ラノハがそう思った時、竜機操縦士育成学校で音が鳴り響いた。
スミーナ国内では、音を基準として警報を伝えている。止まること無く鳴り続けるこの音の意味は――
邪装竜機の、侵入である。
そのことに気づいたラノハは模擬剣を握りしめたまま、今いる訓練場から真反対にある、聖装竜機専用訓練場に向かってこう言ってから走り出した。
「邪装竜機っ!!」
走り出したラノハの頭の中では、先程まで悩んでいた悩みなど隅に追いやり、邪装竜機に対する復讐心で支配された。
そしてラノハの瞳には、入学当初に燃え盛っていたあの炎がまた、再燃していたのであった――。
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