護堂先生と神様のごはん 幽霊屋台は薄暮を彷徨う

第4章 嘘みたいな日常

3.彼岸の店

　それにしてもあの店はボロボロだった。看板すらもかなり読みにくい状態だったのだ。その時、ふと私は気がついた。

（まてよ、あの看板ヒガシじゃなくてヒガン……もしかして「彼岸」って事か！？）

　そういえば、あの時レジに立っていたはずの店員の姿が全く思い出せない。

『ちょっと待ってください、あそこは宵山も一緒に入れましたし、食べ物だってちゃんと食べられましたよ！？』

『偶々入り口が大きく開いていたんじゃろう。二人共、ちゃんと戻ってこれたんじゃから良かったじゃないか』

『戻って来られない可能性があったって事ですか！？　店員さんの事が全く思い出せないんですけど、あの店は一体誰がやっていたんですか？』

　神様は私の矢継ぎ早の質問には答えず、ふわふわとあくびをすると立ち上がった。

『まあ、愉快な一日じゃったの』

『ちょっと！？』

　そう言って神様は部屋を出て行く。気になる事は数え切れない程あったが、とりあえず今夜中に原稿を書き上げて、湊川君に送らねばならない。

（湊川君と今度会った際は、幻のラーメン屋の次のネタとして、死神御用達の彼岸マートについて情報提供でもしてあげよう……）

　夜中までかかって、何とか無事に書き上げた記事と写真を送ると、どっと疲労感に襲われた。

　倒れ込むようにして眠りに就くと、私は真っ赤に染まる夕焼けの中を、キラキラと輝きながら飛んでいく空鰯の夢を見ていた。