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第5章 神々の宴

18.最後の宴

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 俺は神様の計らいには乗らなかった。彼なりの好意である事は重々承知していた。
 しかし、例え俺の我儘だったとしても、誰かの犠牲の上で叶えたい願いは無かった。

 神事はついに六日目を迎えた。
 毎日昼間は怒涛の宴会準備に追われ、夜は宴にも紛れ込んで月神を探したが見つからなかった。
 やはり神様と一緒に会っておくべきだったのかとも思ったが、その度頭を振って料理に集中した。

 今日を終えれば、明日神々はそれぞれの国へ帰ってしまう。

(……チャンスは今日しかない)

 今夜は俺達の考案したメニューを披露する日だ。料理を下準備する部隊の編成も、今日は特別異なっていた。

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『じゃー、治める国を同じくする者同士で、それぞれの国を代表するメニューを提供するって事?』

 宇迦様は驚いた様子で、目を瞬かせた。国というのは、和泉国や武蔵国と言った昔の呼び方の事だろう。昔の地名でも今の県別でも、そこは神様達が分け易い単位で構わないと考えていた。

『ああ、その地域の特産品や今年特に良く出来た農作物なんかを利用しておかずを作って貰う。米どころは白飯を用意して、おかずはビュッフェスタイルにする。皆が気に入ったものを好きなだけ選べるようにするんだ』

『俺のホテルも朝食やランチビュッフェなんかやってましたが、皆さん色々食べ比べながら、お喋りに興じて楽しんでおられました。久しぶりに顔を合わせる神々も、食事と一緒に交流が出来て良いと思います!』

 俺に続いて、西原も身を乗り出して説明する。俺達は出雲蕎麦屋や皆との会話で得たヒントを元に、宇迦様に宴会料理のアイデアを提案していた。

 俺達の提案内容は、料理そのものではなく、料理の提供方法のアイデアであった。
 神界料理の品質・技術面での力量の差は、たった一週間で埋められるものでは無かったが、人間界に存在するアイデアで、神界のイベントに新しい風を吹かせる事なら出来ると考えたのだ。

『どの国のおかずが一番美味かったか投票させたり、最初に料理を完食させた国なんかを表彰するようにしても盛り上がると思うぜ』

『うーん、私は料理を提案してって言ったつもりだったんだけどー……』

 宇迦様は困ったような顔をしていたが、全身から滲み出る好奇心を隠しきれない様子だ。
 日本の神様はお祭り好きなイメージだったが、彼女も例外では無さそうだった。

『面白そうだし、まあいっか! 試しにやってみましょー♪ でも全国を巻き込んで料理を用意するなんて準備が大変そーね……?』

『その辺りのコーディネートを霊界食堂の方で行おう。国別で多すぎるようなら近い地方で少しまとめたりして、おかずの種類も被らないように、バランスをみてアドバイスしていくつもりだ』

『いいわね! 何だか楽しくなってきたわ!』

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 こうして、俺達は神々の宴へ乗り込む事に成功したが、各地方の代表者に会って料理の内容を検討するのは、想像以上に苦労した
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