上 下
100 / 131
第5章 神々の宴

22.因果

しおりを挟む
 俺は一瞬、月神を目の前にしている事を忘れて、昔を思い出していた。

『……彼女の事は残念だったよ。術が失敗してしまったので、奴を深く眠らせる事は出来なかったが、一時的に遺跡の奥に閉じ込めておく事は出来た。本当はそのまま数百年位は持つ筈だったんだが、人が立ち入った影響で封印に綻びが生じてしまってね……』

 月神の言葉に、俺は一気に現実に引き戻された。

『黒い霧が出るようになったのは、俺達の発掘調査が原因だったのか!?』

 月神は沈黙していたが、他に理由は考えられなかった。

(最悪だ……事の発端は、俺の調査だったのだ……)

 俺の様子を見かねてか、月神は話を続けた。

『奴を深く眠らせる為の術は、何人もの術者が時間をかけて編み上げなければならないんだ。協力者も得られたし、次の春頃には術を発動出来る筈だよ。それ迄の間は、黒霧の腕が伸ばせない様に、簡易的な封印を行う。人間達をこれ以上襲わせない事を約束しよう』

『協力者?』

 確か、一ノ瀬もそんな事を言っていた。俺が訝しげに顔を上げて月神を見遣ると、奥の垂れ幕から神様がひょっこりと顔を覗かせた。

『神様!? なんでここに……まさか羽織りの件で捕まっていたのか!?』

『……羽織り?』

 月神はきょとんとした表情をすると、ああと手を叩いた。

『雲珠達が何やら騒いでいた件だね。あの羽織りは昔気に入っていて良く着ていたんだ。飽きて倉庫に放って置いてすっかり忘れてたよ。僕の力が多少宿っているみたいだけど、僕自身が着ても変わりないからね』

『……じゃあ』

 俺が質問を続ける前に、神様が口を開いた。

『わしが此処におるのは、蛮神の封印に協力する為じゃよ。お前さんに遺跡の場所を教えてしまったのもわしだからのう……』

 そう言って神様は、懐から薄紫色の手紙を出して頭を掻いた。月神の文机を見ると、同じ色をした紙が束ねられている。

『……何であの時言ってくれなかったんだ?』

『わしも詳しい話はこっちに来て初めて聞いたんじゃ。それに、わしから説明しても、お前さんは彼から直接話を聞くまで納得せんじゃろう?』

(それはそうかも知れないが……)

 俺は段々混乱してきた。

『わしにも責任がある以上、彼に協力せねばならん。蛮神を眠らせる術を使う為に、わしは春まで月詠様の所に通って修行する事になった』

『……という訳だ。納得して貰えたかな? さて、そろそろ宴会が始まる時間だ。会場に戻った方がいいんじゃないか? 迎えも来ているみたいだよ』

 月神に促されて振り返ると、部屋の入り口には豊月が立っていた。
しおりを挟む

処理中です...