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第6章 言葉たちを沈めて

12.夏也の思い

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『じゃあ、私だけ何も知らなかったって事ですか!? そんな大変な事も知らないで、私は呑気に暮らして……』

 俺は夏也にこれまでの事を全て話した。彼は驚愕し、酷く怒っていた。そして今は地面に目を落とし、何も気付けなかった自分に落胆している。

『それが普通の人間だ。お前は何も知らずに、お前の毎日を精一杯生きればいいと俺は考えていた。何も自分から面倒を背負い込む必要はない』

『でも、叔父さんだって……』

『俺は蛮神に殺されちまってるからな。俺自身も、親友も……。きっちりケジメをつけなきゃならない。何、俺達はもう死んでるんだ。どうなったって構わないさ』

 そう言いながら、さっきの神様の姿が過った。

(結局俺も、アイツと同じような事言ってやがる)

『でも、このままじゃ神様は蛮神を眠らせる為に生贄になるんですよね……そんなの、おかしいじゃないですか……』

『その点は俺もなんとか回避したい。だが、正直どうすれば良いのか、俺にもまだ分からないんだ』

 なす術なく、俺も俯向いた。シュンは不安そうな声を出す。

『術がもうすぐ完成するって……実際に使うのはいつなんだろう……』

 少しの沈黙が流れた後、夏也が顔を上げた。

『叔父さんは神界に行けるんですよね?』

『え? ああ……』

『私も連れて行ってください。一緒に神様を連れ戻しましょう!』

 この強引さは誰に似たのか、夏也はこちらに近づくと俺の肩を強く掴んだ。

『手遅れになる前に……!』

『しかし、肉体を持ったまま神界や霊界には渡れないと思うが……』

 俺は夏也に揺さぶられながら答える。すると、シュンが叫んだ。

『いるじゃん! 生きてても霊界に行っちゃった奴!』

 そう言われて俺は思い出した。

(夏也もこうなったら引かないだろうし、確かに一刻も早く神様を連れ戻すべきだ。今はあのお調子者の力を借りるとしよう……)

 こうして俺達は、急ぎ駅前へと向かった。
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