東京浅草、居候は魔王様!

栗槙ひので

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第2章 魔王様バイトをはじめる

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 俺は無事に面談の約束を取り付けると電話を切った。

「午後のコンビニバイト、お前もこれからそこで働かせて貰えるか面談してもらう事になった。昼早めに来てくれってさ」

「仕事か、分かった」

「それまで六区の方案内してやるよ。人間界の観光なんてした事ないだろ?」

「……そうか? ではよろしく頼む」

 マオは突然の俺の提案に驚いたようだったが、すぐに頷いた。
 どうせこの先しばらく一緒に暮らすのなら、この街の事も知っておいて貰った方が良いだろう。

 こうして俺達は、瞬間移動を使わず歩いて浅草の街を散歩する事にした。

 日差しが厳しいが、この街の夏の景色は好きだったので、久しぶりにこうしてぶらぶらする時間が出来たのは嬉しかった。
 建屋の合間から覗く空は、抜けるように青い。

 何度か鳩のフンをくらいそうになったり、お婆さんのカートに轢かれそうになったりしたものの、マオが咄嗟に腕を引っ張ってくれて回避する事が出来た。

「お前の引きも相当なものだな……正直、魔法で防いだ方が楽なのだが?」

 魔王は俺に代わってわざわざ車道側を歩く気の使いようで、少し呆れながらこちらを見た。

「う……分かった。災いから身を護る事に関しては、俺の許可なく魔法は使ってよし! でも、加減には気を付けてくれよ? 人を傷つけたり街を壊すのはナシな?」

「分かった」

 魔王は俺の勝手な注文にも素直に頷く。こいつは本当に悪魔の王なのだろうか。

 六区に入ると、外国人観光客や人力車とすれ違う機会がかなり増えてきた。

「あの、顔の無い絵画は何だ?」

 記念写真用の顔ハメパネルを指差して、マオが不思議そうに呟いた。

「何かの拷問器具か?」

「街中にそんな物騒なもん置くか! あれは、あの穴に顔をはめて写真を撮るんだ……ほら、ああやって」

 俺の指差した先では、ちょうど陽気そうな欧米人のグループが道の向こうからやって来て、携帯で写真を撮ろうとしていた。

 俺達が見ていると、彼等はこちらに気が付いて、マオに走り寄ってきた。

「ア、チョト、シャシンイイデスカ?」

「な、なんだと?」

 携帯を押しつけられて、異世界の魔王があたふたしている。

(やっぱり、彼等から見ても俺よりマオの方が話し掛け易いんだな……)

 俺は人間として好感度で魔王に負けた事に少しだけ切なくなりながら、携帯を覗き込んだ。

「ほら、この丸いレンズをあいつらに向けて、こっちの画面で確認しながら、ここのボタンを押すんだ」

「んん?」

 俺はマオの後ろから、手の位置を調整してやる。

「よし、いい感じ。じゃー撮りますよー! 3、2、1、押して!」

 マオはなんとか、俺の指示通りシャッターを切った。

「ほら、上手く撮れたじゃん!」

 マオは、今撮った画面と現実の彼等を見比べて、感心したように呟いた。

「時間を……切り取って保存する機械か? お前のケイタイでも出来るのか?」

「もちろん!」

 俺達が話していると、観光客はきゃっきゃとはしゃぎながらこちらへやって来た。

「アリガトー! アナタモトリマスカ?」

 彼女は自分の携帯を受け取ると、また手を差し出してきた。俺達の事も観光客だと思っているらしい。

「せっかくだから、撮ってもらうか?」

 顔ハメ写真なんて恥ずかしかったが、マオが興味深そうに画面を眺めていたので、俺は自分のカメラを起動すると彼女に手渡した。

「ほらマオ、ここから顔だして!」

「……こうか?」

「OK! ハイ、チーズ!」

 よく分からない芸人の絵から顔を出した俺達は、案外楽しそうに撮れていた。

「サンキュー!」

「アリガトー!」

 携帯を返して貰うと、外国人観光客達は手を振りながら陽気に去っていった。

「魔王と地元でツーショット写真撮るとは思わなかったよ」

 俺が笑いながらマオに写真を見せると、マオは目を輝かせてそれを見つめていた。
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