東京浅草、居候は魔王様!

栗槙ひので

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第5章 愉悦する道化師

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 対バンイベントとは言っても、仲間内で集まって開催しているので、アットホームな雰囲気で、会場も一バンド目から歓声が沸き、盛り上がった。

「じゃ、そろそろ行ってくるわ」

「ああ、頑張ってくると良い」

 三バンド目を数曲聴いてから、俺はマオに一声掛けて控室に戻る。

(……いよいよだ)

 両頬を叩いて気合いを入れると、俺は白いストラトギターを持ち上げた。三年間の学生生活を共に過ごしてきた相棒。

「楽しんでこよーぜ?」

 振り向くと、フミ達も控室に入って来ていた。彼等ともこれまで何度も舞台の上に立ってきた。楽しい時も、悔しい時もあった。

「ああ!」

 俺は仲間達と一緒に舞台袖に向かう。
 前のバンドと入れ替わりに、暗転した舞台に入ってセッティングを済ませた。
 会場はほぼ人で埋まっている。客電に照らされたマオとメレクは、真っ直ぐに俺を見ていた。

(魔界からのお客さんにも、楽しんで帰ってもらわねーとな)

 フミが手を上げて、PAに合図を送り、リョウのカウントが始まる。
 音が溢れた瞬間、眩しい照明に俺達は照らし出された。

(この感じ、久しぶりだ……!)

 音圧と歓声、眩しい光。息を合わせて、カチッとキマる音とリズム。
 気持ち良い。俺は夢中になってギターをかき鳴らした。会場もかなり湧いている。

 数曲続けて演奏したが、大きなミスも無く、俺は久しぶりのライブを思い切り楽しめていた。フミのMCも相変わらず面白い。会場からも笑いが起こる。マオ達も楽しそうにしていた。

 その時ふと、前列の端の方に目をやって俺はある事に気が付いた。

(……月斗?)

 やはり月斗はトリバンに出るのだろうか。正月番組でも着ないような紅白のド派手スーツを着て立っている。

 しかし、その様子はいつもとは異なっていた。月斗は俯向いて、一人何やらぶつぶつと呟いている。

 ギギギ……

 なにやら異音が聞こえて、俺は音のした方を探した。

(……上から?)

 見上げると、大きな照明器具が震えながら段々とずり下がってきている。

(おいおい、あんなのが落ちてきて直撃でもしたら間違いなく死ぬぞ!?)

 俺は声を出そうとしたが、ちょうどフミがMCを終えてリョウはカウントに入ろうとしていた。

「あ、ちょ……」

 ガコッ!

 頭上で一際大きな音がした。俺は背筋を凍らせ、反射的に上を向く。
 すると、落ちそうだった照明はチェーンとベルトでしっかりと固定されていた。そのチェーンとベルトには見覚えがある。

 カウントが始まり、ドラムが演奏を始めた。

(あれは……)

 俺はマオとメレクを見た。二人はこちらを見て頷いている。あのベルトとチェーンはアイツらの服の一部だろう。

(……魔法で助けてくれたんだな)

 ドラムソロにベースが加わった。
 大丈夫だから演奏を続けろと、マオの目はそう言っているように感じた。

 俺はピックを握り直し、思い切り振り下ろす。

「それじゃ最後の曲いくぜー! 思いっきり盛り上がってくれー!」

 フミが拳を突き上げた。会場にわあっと歓声が上がる。

 俺もメンバーも、最高の演奏をして見せた。会場含めてこんなに一体感を感じた事は、これまで無かったかもしれない。

 ふと、月斗の居た方に目を遣ると、彼の姿はもう無かった。
 何かが引っかかるものがあったが、俺達は無事演奏を終えた。

「幸也ー!」

 拍手の中、メレクが叫んだ。それに続けて、高校時代の知り合いも次々に俺の名を呼んだ。
 隣でマオも嬉しそうに微笑んでいる。

 俺は照れながら会場に手を振って、舞台から降りた。
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