1 / 1
忘却の魔導士は不死鳥と再び誓約したい
第一話
しおりを挟む
二人きりのテラスで、降り注ぐ流星群を切なそうに見つめながら、婚約者は微笑んだ。
『公国の天空城からは、昼と夜が入り混じった幻想的な風景が広がっているんだ』
アクアヴェイル・ブルーと呼ばれる澄んだ青い瞳がこちらを振り向く。
金色の髪がさらりと夜の風に揺れる。
『必ず一緒にみよう。約束する』
◇
「……うそつき」
暗く冷たい塔のなかで、セフィーネは震える声で呟いた。
あの幸せな時間は、もう二度と戻らない。
「そんなつもり、なかったくせに」
◇
憎しみは、英雄には向いていなかった。
『死神の鎌』を手に取った時、セフィーネの心にあったのは、ただ一人の男への復讐心だけ。
だから、これは――。
「そうね…ほんの、『余興』」
『火』を司る英雄、ティナ・カルナウスから、その力の源である不死鳥を奪いとってやる。
別に憎んでいたわけではない。
ただ、その他者の痛みを省みることのない、無自覚な強さと傲慢さ。
『属性継承者』という、その存在そのものに――
「うんざりしていたのよ」
鏡に映る『死神』の貌《かんばせ》が、静かに微笑んだ。
人ならざるチカラを得るため、差し出された聖杯の赤い水を飲み干したとき、一口ごとに身体中の血が凍り付き、痛みを感じる心が死んでいく気がした。
今ここにいるのは、『第一王女セフィーネ』?
それとも、『幻想の死神』?
「どちらでもいいわ」
復讐が叶うなら、何でも良かった。
無実の罪で幽閉された哀れな王女が、すべてを賭して復讐を誓った相手は、
かつて「あの空を一緒に見よう」と約束を交わし、そして閉じ込められた自分を見捨てた、あの男なのだから。
「どのみち、『余興』だもの。
『死神の鎌』は、英雄(あなた)の力すら奪えるのだと、知りなさい…!」
けれど彼女はまだ知らない。
その『余興』が、彼女自身の名前と記憶を世界から消し去ること。
そして――『属性継承者』と呼ばれる者たちを巻き込んで、世界の根底を揺るがす戦いの、幕開けになることを。
これは、憎しみの矛先を誤った一人の王女の物語。
そして――『力』を失い、何もかもを忘れた一人の英雄が、自らの拠り所を思い出すまでの、物語だ。
『公国の天空城からは、昼と夜が入り混じった幻想的な風景が広がっているんだ』
アクアヴェイル・ブルーと呼ばれる澄んだ青い瞳がこちらを振り向く。
金色の髪がさらりと夜の風に揺れる。
『必ず一緒にみよう。約束する』
◇
「……うそつき」
暗く冷たい塔のなかで、セフィーネは震える声で呟いた。
あの幸せな時間は、もう二度と戻らない。
「そんなつもり、なかったくせに」
◇
憎しみは、英雄には向いていなかった。
『死神の鎌』を手に取った時、セフィーネの心にあったのは、ただ一人の男への復讐心だけ。
だから、これは――。
「そうね…ほんの、『余興』」
『火』を司る英雄、ティナ・カルナウスから、その力の源である不死鳥を奪いとってやる。
別に憎んでいたわけではない。
ただ、その他者の痛みを省みることのない、無自覚な強さと傲慢さ。
『属性継承者』という、その存在そのものに――
「うんざりしていたのよ」
鏡に映る『死神』の貌《かんばせ》が、静かに微笑んだ。
人ならざるチカラを得るため、差し出された聖杯の赤い水を飲み干したとき、一口ごとに身体中の血が凍り付き、痛みを感じる心が死んでいく気がした。
今ここにいるのは、『第一王女セフィーネ』?
それとも、『幻想の死神』?
「どちらでもいいわ」
復讐が叶うなら、何でも良かった。
無実の罪で幽閉された哀れな王女が、すべてを賭して復讐を誓った相手は、
かつて「あの空を一緒に見よう」と約束を交わし、そして閉じ込められた自分を見捨てた、あの男なのだから。
「どのみち、『余興』だもの。
『死神の鎌』は、英雄(あなた)の力すら奪えるのだと、知りなさい…!」
けれど彼女はまだ知らない。
その『余興』が、彼女自身の名前と記憶を世界から消し去ること。
そして――『属性継承者』と呼ばれる者たちを巻き込んで、世界の根底を揺るがす戦いの、幕開けになることを。
これは、憎しみの矛先を誤った一人の王女の物語。
そして――『力』を失い、何もかもを忘れた一人の英雄が、自らの拠り所を思い出すまでの、物語だ。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
悪役令嬢、休職致します
碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。
しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。
作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。
作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
