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第三話 二人の甘い痺れ
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風祭秀一のマンションは、生活の温かみがそこかしこに満ちていた。
キッチンカウンターに、使いかけの野菜と調味料が並び、紗良は冷蔵庫の扉を開けながら、食材の種類と保存状態を確認していた。
「娘さん、トマトは食べますか?」
「ケチャップなら……でも生は嫌がります」
秀一の答えに、紗良は微笑んだ。
「じゃあ、甘めのマリネにしてみましょう。酸味を抑えて、見た目を可愛くすると案外食べてくれますよ」
彼は感心したように頷き、メモを取り始めた。
その横顔を見ながら、紗良は自分の声が、看護師としての助言以上に親しくなっていることに気づいた。
娘の食事という名目で訪れたこの部屋に、紗良の視線は何度も秀一の手元や表情へと吸い寄せられていた。
食事を終えると、娘が眠そうな顔に変わっていく。やがて船を漕ぐように頭が揺れだしたので、秀一は娘を抱きかかえて「そろそろ休もうか」と寝室へ連れていった。
リビングに残された紗良は、静寂の中で、自分の鼓動が少しずつ速くなっていくのを感じていた。
彼の生活の気配が、部屋の隅々に染み込んでいる。
その空気に触れているだけで、紗良の肌は、看護師としての無機質な感覚とは違う、柔らかな緊張に包まれていく。
戻ってきた秀一は、紗良の向かいに座り直した。
彼の瞳が、紗良の顔をそっと探るように見つめる。
「水野さん……何か、あったんですか」
その声は、思いやりと、微かな不安を含んでいた。
紗良は、笑おうとしたが、口元が震えてうまく笑えなかった。
その瞬間、秀一の表情が変わる。
彼はゆっくりと紗良の隣に移動し、何も言わずに肩に手を添えた。
「僕にできることがあったら、言ってください」
その手のひらの温度が、紗良の涙腺を一気に崩壊させる。
ぽろぽろと、大粒の涙が頬を伝い、テーブルに落ちる。
「……ごめんなさい……」
紗良は嗚咽混じりに言葉をこぼす。
夫への疑念、孤独、そして目の前の男への思慕。
すべてが混ざり合い、言葉にならない感情が溢れ出す。
秀一は、紗良の肩をそっと抱き寄せた。
その腕の中に顔を埋めると、夫にはもう求められない、女性としての安心感が紗良を包み込んでいく。
「……紗良さん」
初めて名前で呼ばれた。鼓膜が甘く震えそうだった。
彼の指が、涙の跡を優しくなぞっていった。
唇が、自然と近づいていく。そして、二人の唇が触れるだけの軽いキスがあった。
「秀一さん」
真顔で見つめた。再び唇が重なっていく。
今度は、強く唇を吸い合う口づけだった。舌が絡み合うと、互いの渇きをそこから伝え合っていく。
秀一は紗良を抱き上げて、寝室へと運ぶ。
いつもの不器用さは、もうなかった。あれは、ただこの時を避けるかのような遠慮だった。
ベッドに横たえられた瞬間、紗良の体は、無意識に彼の手を求めていた。
「……好きだって言っても、いいですか?」
その問いに、紗良は頷く。
声にならない承諾が、唇の震えに宿る。
秀一の手が、紗良のブラウスのボタンを一つひとつ外していく。
その指先が、布地をなぞるたびに、紗良の肌は微かに震えた。一年近く、女らしい夜を過ごしていなかった。
レースの下に現れた白い肌に、彼は息を呑む。
「とても綺麗だね……紗良さん」
その言葉が、紗良の中の「女」を呼び覚ます。灯りは消していなかった。
彼の唇が、鎖骨に触れる。
柔らかな感触が、皮膚の奥にまで染み込んでいく。
彼の首に腕を回し、肌着を脱がされていく。もう、二人は裸身だった。秀一が彼女の上に覆いかぶさり、ゆっくりと体を重ねる。
「……無理なことは言ってくださいよ」
その問いに、紗良は潤んだ瞳で頷いた。彼のそれは、予想より大きかった。圧迫感に、動物めいた声が漏れていく。それでも彼は押し入ってくる。
夫とのそれは、しばしば痛みを伴っていた。しかし、今はとめどなく蜜が溢れていて、摩擦はただ甘い痺れを伝えるばかりだった。
彼の律動が優しく始まっていく。
だが、紗良の体が自然と受け入れ、腰をわずかに揺らすと、秀一の呼吸が荒くなる。
「う……あっ……ん……」
彼の動きは、慎重さを保ちながらも、徐々に深く、確かになっていく。
紗良の体は、弓なりにしなり、快感の波が背骨を駆け上がる。
彼女の震える指先が、彼の腕を握りしめる。
彼の動きに合わせて、彼女の胸は波打つように揺れた。
やがて、秀一は動きを止め、紗良の体をそっと反転させる。
うつ伏せになった彼女の背に、彼の唇が触れた。
なぞるようなキスが、背筋を這っていく。
キッチンカウンターに、使いかけの野菜と調味料が並び、紗良は冷蔵庫の扉を開けながら、食材の種類と保存状態を確認していた。
「娘さん、トマトは食べますか?」
「ケチャップなら……でも生は嫌がります」
秀一の答えに、紗良は微笑んだ。
「じゃあ、甘めのマリネにしてみましょう。酸味を抑えて、見た目を可愛くすると案外食べてくれますよ」
彼は感心したように頷き、メモを取り始めた。
その横顔を見ながら、紗良は自分の声が、看護師としての助言以上に親しくなっていることに気づいた。
娘の食事という名目で訪れたこの部屋に、紗良の視線は何度も秀一の手元や表情へと吸い寄せられていた。
食事を終えると、娘が眠そうな顔に変わっていく。やがて船を漕ぐように頭が揺れだしたので、秀一は娘を抱きかかえて「そろそろ休もうか」と寝室へ連れていった。
リビングに残された紗良は、静寂の中で、自分の鼓動が少しずつ速くなっていくのを感じていた。
彼の生活の気配が、部屋の隅々に染み込んでいる。
その空気に触れているだけで、紗良の肌は、看護師としての無機質な感覚とは違う、柔らかな緊張に包まれていく。
戻ってきた秀一は、紗良の向かいに座り直した。
彼の瞳が、紗良の顔をそっと探るように見つめる。
「水野さん……何か、あったんですか」
その声は、思いやりと、微かな不安を含んでいた。
紗良は、笑おうとしたが、口元が震えてうまく笑えなかった。
その瞬間、秀一の表情が変わる。
彼はゆっくりと紗良の隣に移動し、何も言わずに肩に手を添えた。
「僕にできることがあったら、言ってください」
その手のひらの温度が、紗良の涙腺を一気に崩壊させる。
ぽろぽろと、大粒の涙が頬を伝い、テーブルに落ちる。
「……ごめんなさい……」
紗良は嗚咽混じりに言葉をこぼす。
夫への疑念、孤独、そして目の前の男への思慕。
すべてが混ざり合い、言葉にならない感情が溢れ出す。
秀一は、紗良の肩をそっと抱き寄せた。
その腕の中に顔を埋めると、夫にはもう求められない、女性としての安心感が紗良を包み込んでいく。
「……紗良さん」
初めて名前で呼ばれた。鼓膜が甘く震えそうだった。
彼の指が、涙の跡を優しくなぞっていった。
唇が、自然と近づいていく。そして、二人の唇が触れるだけの軽いキスがあった。
「秀一さん」
真顔で見つめた。再び唇が重なっていく。
今度は、強く唇を吸い合う口づけだった。舌が絡み合うと、互いの渇きをそこから伝え合っていく。
秀一は紗良を抱き上げて、寝室へと運ぶ。
いつもの不器用さは、もうなかった。あれは、ただこの時を避けるかのような遠慮だった。
ベッドに横たえられた瞬間、紗良の体は、無意識に彼の手を求めていた。
「……好きだって言っても、いいですか?」
その問いに、紗良は頷く。
声にならない承諾が、唇の震えに宿る。
秀一の手が、紗良のブラウスのボタンを一つひとつ外していく。
その指先が、布地をなぞるたびに、紗良の肌は微かに震えた。一年近く、女らしい夜を過ごしていなかった。
レースの下に現れた白い肌に、彼は息を呑む。
「とても綺麗だね……紗良さん」
その言葉が、紗良の中の「女」を呼び覚ます。灯りは消していなかった。
彼の唇が、鎖骨に触れる。
柔らかな感触が、皮膚の奥にまで染み込んでいく。
彼の首に腕を回し、肌着を脱がされていく。もう、二人は裸身だった。秀一が彼女の上に覆いかぶさり、ゆっくりと体を重ねる。
「……無理なことは言ってくださいよ」
その問いに、紗良は潤んだ瞳で頷いた。彼のそれは、予想より大きかった。圧迫感に、動物めいた声が漏れていく。それでも彼は押し入ってくる。
夫とのそれは、しばしば痛みを伴っていた。しかし、今はとめどなく蜜が溢れていて、摩擦はただ甘い痺れを伝えるばかりだった。
彼の律動が優しく始まっていく。
だが、紗良の体が自然と受け入れ、腰をわずかに揺らすと、秀一の呼吸が荒くなる。
「う……あっ……ん……」
彼の動きは、慎重さを保ちながらも、徐々に深く、確かになっていく。
紗良の体は、弓なりにしなり、快感の波が背骨を駆け上がる。
彼女の震える指先が、彼の腕を握りしめる。
彼の動きに合わせて、彼女の胸は波打つように揺れた。
やがて、秀一は動きを止め、紗良の体をそっと反転させる。
うつ伏せになった彼女の背に、彼の唇が触れた。
なぞるようなキスが、背筋を這っていく。
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