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【第三部】甘い水が二つ
21.いいなあ、ビアガーデン
日奈子はビアガーデンへ向かう準備をしていた。
夏の夜に映えるようにと、クローゼットの奥から選んだ肌触りの良い、とろみのある生地のネイビーのワンピース。鏡の前でそれに袖を通すと、夫と二人だけで出掛けるときのような開放感があった。
リビングのソファでは、佐奈子がスマートフォンの画面に目を落としたまま、クッションを抱きしめている。
「いいなあ、ビアガーデン。あたしも行きたかったな。姉さんだけずるい」
その拗ねたような口調は、まるで幼い頃に戻ったかのようで、日奈子は思わず苦笑した。
「ごめんね、先生たちの集まりだから……。今度、三人で行こうね」
そう宥める声には、自分でも気づかないうちに、罪悪感の色が滲んでいた。
「翔太さんもいないし、今夜は一人で留守番なんて寂しいじゃん」
佐奈子が唇を尖らせる。日奈子は、彼女が離婚を決意したとき、二度とあの子を一人にしないと決意を固めたのを思い出し、少しだけ胸が痛んだ。
駅へ向かう道すがら、まとわりつくような夏の夜気が、日奈子の肌を撫でた。スマートフォンのディスプレイが光り、『翔太』の文字が浮かび上がる。雑踏の音の中で、仕事の合間と思われる優しい夫の声が耳に届いた。
「今どこ?」
「これから駅だよ。もうみんな集まってるみたい」
「そうか。たまにはゆっくり楽しんできて。無理に周りに合わせないでいいからね」
その気遣いが嬉しい。短い会話の後、翔太が思い出したように、少しだけ明るい声で言った。
「そういえば、さっきニュースサイトで見たんだけど、箱根新道の土砂崩れ現場、復旧作業がなんとか進んでるみたいだ。だから、この勤務体制も、来週中には落ち着くと思う。まだ、確定じゃないけど」
その言葉に、日奈子の心に張っていた細い糸が、ふっと緩んだ。
「本当!? よかった……。じゃあ、来週からはまた三人で、ゆっくり夜ご飯が食べられるね」
「ああ。だから今夜は、気にせず楽しんで」
電話の向こうで翔太も嬉しそうに頷く気配が伝わってくる。
ビアガーデンは、仕事の緊張感から解放された人々が吐き出す明るい熱気に包まれた。全員で乾杯したあと、料理を楽しむ。
周囲では、いくつものテーブルから立ち上る笑い声、威勢のいい乾杯の音、肉の焼ける香ばしい匂い、そして冷えたジョッキを伝う水滴の感触。これらの渾然一体となって、いつもの現実感を別の現実感に切り替えさせていく。
「二学期の運動会、またプログラム変更だってさ……」
「うちの旦那、私が夏休みだからって、家のこと何もしないのよ!」
同僚たちの会話に日奈子は相槌を打ちながら、ふと、少し離れた席で一人静かにしている後輩の姿に気づいた。音楽教師の坂本先生だ。
彼女は寡黙で、普段こういう場にはあまり顔を出さない。よく見ると少し顔が赤らんでいる。近づいてみると、「あ、大江先生。私、生中、飲んでます!」と、いつもの調子とは違う陽気さで話しかけてきた。
「あれ、ああ、坂本先生、アルコールは苦手だって聞いてましたけど」
坂本先生は、黒縁の眼鏡の奥の瞳を瞬かせた。
「なんだか今夜は、みんながすごく美味しそうに飲んでるのを見てたら、私も飲みたくなっちゃって。一杯だけ、と思って」
その言葉に、日奈子の心も少し軽くなる。
「大江先生も、どうですか? たまには」
勧められるままに、日奈子も小さなグラスビールを飲むことにした。佐奈子と同じでアルコールには弱い。その佐奈子が最近、どこかでもらったワインをチビチビ飲んでいるのに、意外に酔った様子を見ないので、もしかしたら年齢で体質が変わってくるのかもと根拠もなく思って、泡立つ黄金の飲み物をゴクゴクと飲み始めた。
坂本先生の目が丸くなる。
「すごい勢いですね、まるで麦茶を飲むみたいに」
「え? ビールってこうやって飲むんじゃないんです?」
ちょっと舌がもつれた気がした。
顔が熱くなり、特に理由もなく頭を揺らしたい気持ちになってきた。会話はできる。思考もできる。でも、心の箍が、ほんの少しだけ緩んだようだった。
「私も」そう言って坂本先生もジョッキに残っているビールを飲み干した。
坂本先生は、空になったジョッキを見つめながら、ぽつりと語り始めた。
「私、こういう賑やかな場所、少し苦手で……。色んな人の声や笑い声が、全部違う音階で鳴っているみたいに聞こえて、頭がくらくらするんです」
日奈子は、音楽の先生らしい表現と思いながら「みんな立てる音が違うから?」と尋ねると、彼女は続ける。
「そうです。目的の違う不規則さが合わなくて。でも、音楽って不思議なんですよ。全く違う音が重なり合って、一つの美しい和音になることもあれば、ほんの少しのズレが、どうしようもなく耳障りな不協和音になることもある。……ときにはその不協和音こそが、心を揺さぶる、忘れられないフレーズになったりもするんです」
彼女は日奈子の目を真っ直ぐ見て言った。「完璧な調和だけが、美しいわけじゃない。むしろ、少しだけ不安定で、危ういバランスの上に成り立つ音の方が、人の心に残るのかもしれないです」
その言葉が、アルコールで温まった日奈子の心に、染み込んでいった。主任の鈴木先生が近づいて、新しいビールグラスを二人の前に置いた。「お二人とも意外に飲めるんですね」
「大江先生は私より弱そうですけど、私はまだまだ飲めそうですね。成人式の日に背伸びして飲んだウィスキーで酷い目に遭ってから、警戒しすぎてたのかなって思いました」
「新しい自分を見つけられたなら、よかったです。もちろん無理をして周囲に合わせるのは厳禁ですよ。ところでさっきの坂本先生のお話、いいですね。不安定なバランスの上に立つ音」
「鈴木先生にそう言ってもらえると、誇らしい気持ちになりますよぉ」
「いや、私の本音です。生徒たちもそうですが、例えば夫婦や親子もお互い知らない部分があることを受け入れた上で、どう信じ続けるかってことなのかもしれないなと思うことがあるんですよ」
「知らないことを受け入れるって面白いですね」
「これは知らない自分を信じるってことでもある。多様性って言葉、よく聞くようになりましたね。はじめは私も何のことかわからずにいたんですが、別に新しい崇高な思想じゃなくて、日常の中で学べる自然の感覚だと考えると、当たり前にしていれば、その実現はできるかなって思うようになりました」
「鈴木先生、こんな場なのにまた堅苦しい話に」と別の教師が茶化すように言い、話題は別の雑談に移っていった。
ビアガーデンはお開きになり、日奈子は一人で駅に向かって夜道を歩く。アルコールで火照った頬に、夏の夜風が心地よかった。
ふと、先月の翔太との夜を思い出す。
ブラウスの下、今はもう跡のないキスマークがあった場所に、そっと指を滑らせた。誰も見ていない。大通りから一本入った、薄暗い道。
その事実に、これまでにない背徳的な気持ちが、彼女の背筋を駆け上がる。自分の身体が、あの「刺激」をはっきりと記憶し、求めていることに気づく。
「……もっと」
無意識に、そんな言葉が心に浮かび、日奈子自身がその欲望に驚愕した。
「もっと、翔太を喜ばせたい。もっと、彼を夢中にさせたい。でも、どうすれば……?」
鈴木先生と坂本先生の言葉がよぎる。「知らない部分」を抱えたままの、完璧じゃない「不協和音」。今の翔太と私の関係そのものではないかと思った。でも、このままだと、ただの耳障りなノイズで終わってしまう。
どうすれば、この危うい響きを、心を揺さぶる美しい音楽に変えられる? 私一人では、翔太の奏でる主旋律に、ただ合わせるだけで精一杯かもしれない。
そこに全く違う音色を、予測不能な旋律を加えてくれる存在。それが、この不協和音を、誰も聴いたことのない美しい三重奏に変えてくれるかもしれない。
その答えを探したとき、彼女の脳裏に、数日前の浴室での妹の姿が鮮明に浮かび上がった。
自分の知らない翔太の一面を指摘した、鋭い瞳。自分の弱さを指摘しながらも、その手を温かく握ってくれた、深い優しさ。自分にはない、常識やためらいを軽々と飛び越えていくような「自由」さと「大胆さ」。
この三重奏に必要な「第三の楽器」は、ただ刺激的な音色を出すだけのものではない。自分たちの痛みを理解し、それでもなお、新しいハーモニーを一緒に探してくれる存在でなければならない。それができるのは、世界でただ一人、佐奈子しかいない。
佐奈子に教えてもらいたい──。
その気持ちが、家路につく彼女の足取りを軽くしていく。
夏の夜に映えるようにと、クローゼットの奥から選んだ肌触りの良い、とろみのある生地のネイビーのワンピース。鏡の前でそれに袖を通すと、夫と二人だけで出掛けるときのような開放感があった。
リビングのソファでは、佐奈子がスマートフォンの画面に目を落としたまま、クッションを抱きしめている。
「いいなあ、ビアガーデン。あたしも行きたかったな。姉さんだけずるい」
その拗ねたような口調は、まるで幼い頃に戻ったかのようで、日奈子は思わず苦笑した。
「ごめんね、先生たちの集まりだから……。今度、三人で行こうね」
そう宥める声には、自分でも気づかないうちに、罪悪感の色が滲んでいた。
「翔太さんもいないし、今夜は一人で留守番なんて寂しいじゃん」
佐奈子が唇を尖らせる。日奈子は、彼女が離婚を決意したとき、二度とあの子を一人にしないと決意を固めたのを思い出し、少しだけ胸が痛んだ。
駅へ向かう道すがら、まとわりつくような夏の夜気が、日奈子の肌を撫でた。スマートフォンのディスプレイが光り、『翔太』の文字が浮かび上がる。雑踏の音の中で、仕事の合間と思われる優しい夫の声が耳に届いた。
「今どこ?」
「これから駅だよ。もうみんな集まってるみたい」
「そうか。たまにはゆっくり楽しんできて。無理に周りに合わせないでいいからね」
その気遣いが嬉しい。短い会話の後、翔太が思い出したように、少しだけ明るい声で言った。
「そういえば、さっきニュースサイトで見たんだけど、箱根新道の土砂崩れ現場、復旧作業がなんとか進んでるみたいだ。だから、この勤務体制も、来週中には落ち着くと思う。まだ、確定じゃないけど」
その言葉に、日奈子の心に張っていた細い糸が、ふっと緩んだ。
「本当!? よかった……。じゃあ、来週からはまた三人で、ゆっくり夜ご飯が食べられるね」
「ああ。だから今夜は、気にせず楽しんで」
電話の向こうで翔太も嬉しそうに頷く気配が伝わってくる。
ビアガーデンは、仕事の緊張感から解放された人々が吐き出す明るい熱気に包まれた。全員で乾杯したあと、料理を楽しむ。
周囲では、いくつものテーブルから立ち上る笑い声、威勢のいい乾杯の音、肉の焼ける香ばしい匂い、そして冷えたジョッキを伝う水滴の感触。これらの渾然一体となって、いつもの現実感を別の現実感に切り替えさせていく。
「二学期の運動会、またプログラム変更だってさ……」
「うちの旦那、私が夏休みだからって、家のこと何もしないのよ!」
同僚たちの会話に日奈子は相槌を打ちながら、ふと、少し離れた席で一人静かにしている後輩の姿に気づいた。音楽教師の坂本先生だ。
彼女は寡黙で、普段こういう場にはあまり顔を出さない。よく見ると少し顔が赤らんでいる。近づいてみると、「あ、大江先生。私、生中、飲んでます!」と、いつもの調子とは違う陽気さで話しかけてきた。
「あれ、ああ、坂本先生、アルコールは苦手だって聞いてましたけど」
坂本先生は、黒縁の眼鏡の奥の瞳を瞬かせた。
「なんだか今夜は、みんながすごく美味しそうに飲んでるのを見てたら、私も飲みたくなっちゃって。一杯だけ、と思って」
その言葉に、日奈子の心も少し軽くなる。
「大江先生も、どうですか? たまには」
勧められるままに、日奈子も小さなグラスビールを飲むことにした。佐奈子と同じでアルコールには弱い。その佐奈子が最近、どこかでもらったワインをチビチビ飲んでいるのに、意外に酔った様子を見ないので、もしかしたら年齢で体質が変わってくるのかもと根拠もなく思って、泡立つ黄金の飲み物をゴクゴクと飲み始めた。
坂本先生の目が丸くなる。
「すごい勢いですね、まるで麦茶を飲むみたいに」
「え? ビールってこうやって飲むんじゃないんです?」
ちょっと舌がもつれた気がした。
顔が熱くなり、特に理由もなく頭を揺らしたい気持ちになってきた。会話はできる。思考もできる。でも、心の箍が、ほんの少しだけ緩んだようだった。
「私も」そう言って坂本先生もジョッキに残っているビールを飲み干した。
坂本先生は、空になったジョッキを見つめながら、ぽつりと語り始めた。
「私、こういう賑やかな場所、少し苦手で……。色んな人の声や笑い声が、全部違う音階で鳴っているみたいに聞こえて、頭がくらくらするんです」
日奈子は、音楽の先生らしい表現と思いながら「みんな立てる音が違うから?」と尋ねると、彼女は続ける。
「そうです。目的の違う不規則さが合わなくて。でも、音楽って不思議なんですよ。全く違う音が重なり合って、一つの美しい和音になることもあれば、ほんの少しのズレが、どうしようもなく耳障りな不協和音になることもある。……ときにはその不協和音こそが、心を揺さぶる、忘れられないフレーズになったりもするんです」
彼女は日奈子の目を真っ直ぐ見て言った。「完璧な調和だけが、美しいわけじゃない。むしろ、少しだけ不安定で、危ういバランスの上に成り立つ音の方が、人の心に残るのかもしれないです」
その言葉が、アルコールで温まった日奈子の心に、染み込んでいった。主任の鈴木先生が近づいて、新しいビールグラスを二人の前に置いた。「お二人とも意外に飲めるんですね」
「大江先生は私より弱そうですけど、私はまだまだ飲めそうですね。成人式の日に背伸びして飲んだウィスキーで酷い目に遭ってから、警戒しすぎてたのかなって思いました」
「新しい自分を見つけられたなら、よかったです。もちろん無理をして周囲に合わせるのは厳禁ですよ。ところでさっきの坂本先生のお話、いいですね。不安定なバランスの上に立つ音」
「鈴木先生にそう言ってもらえると、誇らしい気持ちになりますよぉ」
「いや、私の本音です。生徒たちもそうですが、例えば夫婦や親子もお互い知らない部分があることを受け入れた上で、どう信じ続けるかってことなのかもしれないなと思うことがあるんですよ」
「知らないことを受け入れるって面白いですね」
「これは知らない自分を信じるってことでもある。多様性って言葉、よく聞くようになりましたね。はじめは私も何のことかわからずにいたんですが、別に新しい崇高な思想じゃなくて、日常の中で学べる自然の感覚だと考えると、当たり前にしていれば、その実現はできるかなって思うようになりました」
「鈴木先生、こんな場なのにまた堅苦しい話に」と別の教師が茶化すように言い、話題は別の雑談に移っていった。
ビアガーデンはお開きになり、日奈子は一人で駅に向かって夜道を歩く。アルコールで火照った頬に、夏の夜風が心地よかった。
ふと、先月の翔太との夜を思い出す。
ブラウスの下、今はもう跡のないキスマークがあった場所に、そっと指を滑らせた。誰も見ていない。大通りから一本入った、薄暗い道。
その事実に、これまでにない背徳的な気持ちが、彼女の背筋を駆け上がる。自分の身体が、あの「刺激」をはっきりと記憶し、求めていることに気づく。
「……もっと」
無意識に、そんな言葉が心に浮かび、日奈子自身がその欲望に驚愕した。
「もっと、翔太を喜ばせたい。もっと、彼を夢中にさせたい。でも、どうすれば……?」
鈴木先生と坂本先生の言葉がよぎる。「知らない部分」を抱えたままの、完璧じゃない「不協和音」。今の翔太と私の関係そのものではないかと思った。でも、このままだと、ただの耳障りなノイズで終わってしまう。
どうすれば、この危うい響きを、心を揺さぶる美しい音楽に変えられる? 私一人では、翔太の奏でる主旋律に、ただ合わせるだけで精一杯かもしれない。
そこに全く違う音色を、予測不能な旋律を加えてくれる存在。それが、この不協和音を、誰も聴いたことのない美しい三重奏に変えてくれるかもしれない。
その答えを探したとき、彼女の脳裏に、数日前の浴室での妹の姿が鮮明に浮かび上がった。
自分の知らない翔太の一面を指摘した、鋭い瞳。自分の弱さを指摘しながらも、その手を温かく握ってくれた、深い優しさ。自分にはない、常識やためらいを軽々と飛び越えていくような「自由」さと「大胆さ」。
この三重奏に必要な「第三の楽器」は、ただ刺激的な音色を出すだけのものではない。自分たちの痛みを理解し、それでもなお、新しいハーモニーを一緒に探してくれる存在でなければならない。それができるのは、世界でただ一人、佐奈子しかいない。
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