青年と母と娘、大凶の恋

羽翼綾人

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【第5話】ここが、我が根城

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 あの日、彼女が泣いて逃げ出してから、僕の送ったLINEには「既読」がつかなかった。
 ブロックされたのかもしれない。そう思って諦めかけていた三日後の夕方近く。
 突然、通知が鳴った。

『今すぐに参られよ』

 そこには、市内のバスターミナルの位置情報だけが添付されていた。
 僕は着の身着のままアパートを飛び出した。
 指定された場所に行くと、指定場所近くの信号機に、黒い影があった。その白い顔は、こちらをじっと凝視している。

「待ちくたびれたぞ」

 桐川露西亜は、不敵な笑みを浮かべていた。

「法力補填。今宵なら心配いらぬ。黙ってついてくるがいい」

 彼女は棒読みのように、感情のない口調で、余裕のない声でそういうと、僕の手を掴んだ。
 意外にも彼女と手を繋いで歩くのは、これが初めてだった。だが、その繋ぎ方に恋人らしさや、親密さは感じられない。
 その後、何度か声をかけたが、彼女はこちらをキッと睨むだけで、何も言葉を返してこない。
 彼女はただ前を向いて、僕を牽引していくだけだった。
 バス乗り場に着くと、ちょうどいいタイミングでバスが着いた。
 後部座席に並んで座る。
 車内は空いていたが、彼女は僕の手を離さなかった。
 その横顔は、何か重大な決意をしたように強張っていた。

「……怒ってないの?」

 僕が小声で尋ねると、彼女は小さく首を横に振った。

「怒る? 何を。……そなたは減退した妾の法力を注入しようとしたに過ぎぬ」

 そう言いながら彼女は自分の唇を舐めたが、そこでふと我に帰ったような顔をして、プイと顔を背けると、その後はずっと沈黙を保った。
 三十分ほど揺られ、バスは静かな住宅街に到着する。
 彼女に連れられて歩くこと数分。
 古いが手入れの行き届いた、立派な一軒家の前で足が止まった。表札に『桐川KIRIKAWA』とある。

「ここが、我が根城……じゃ」
「入っていいの? そろそろ門限だよね、お母さんは?」
「母上は不在じゃ。俗世の『残業』なるものがあって、戻らぬことになった。……ゆえに、結界を解除しても障りなし」

 彼女は鍵を開けると、僕を招き入れた。
 中に入ると、薄暗く、静まり返っていた。
 僕は「お邪魔します」と、小さな声で誰ともなく挨拶をして靴を脱ぎ、屋内に足を踏み入れた。
 露西亜が、先導する。
 生活感のある廊下だった。壁や柱には、子供が傷つけたような跡が見える。
 過去のデート中、彼女は一人っ子だと聞いている。だから、これは彼女が幼い時のものだ。
 彼女は迷わず二階へと上がり、一番奥の扉を開ける。
 そこが、彼女の部屋だった。
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