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【第8話】侵入経路を再確認していた
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彼女は僕から、距離を取った。
「……ここまでじゃ。これ以上は許可できぬ」
「え……? なんでだよ。君がこんなにしたんだよ」
「もちろん……妾のせいであろう。……じゃが……ならぬと言ったら、ならぬ!」
彼女の呼吸は、はあ、はあ、ふう、ふう、とこれまでにないほど乱れていたが、それを整えながら厳しい口調で言った。
「放出は……絶対にならぬ。断じてならぬじゃ」
「出しちゃいけないってこと?」
「左様。もし今、ここで生命の源を放出すれば……それは現世共同体の条例に、抵触する」
「……誰も見てない、私的な行為だよ」
「プライバシーやパブリックの問題などではない。事実として罪禍となるかどうかが問われることじゃ。妾の『器』が熟しておらぬのに……十八歳になっておらぬのに、どうして清らかな身を捨てられようか」
彼女の理屈は、やはり青少年保護育成条例のことだった。
快楽の刺激までは許しても、最後の一線──射精という「事実」の完了だけは、頑なに拒む。それが彼女なりの僕を犯罪者にしないための防衛線であり、彼女自身の清廉さを保つためのギリギリの妥協点でもあるらしかった。
「……生殺しだよ、そんなのは」
「秀一、そなたも耐えねば『浄化』にならぬ」
彼女は慈母のような微笑みを浮かべたが、その瞳には嗜虐的な光が宿っていた。背筋が凍った。
「試練を乗り越え、来るべき六月六日……妾の降誕祭まで待つことができたなら。その時は、一日中、そなたと共に過ごすこともできようが」
「……本当? その日が来たら、君は受け入れてくれるのかい?」
「造作もないこと。ここで約束しよう。その日、わがすべての封印を解くことを」
そんな約束をされてしまっては、頷くしかなかった。
僕は熱の篭った体を冷ますために立ち上がった。
「……トイレ、いいかな」
「許可する。浄化槽は廊下の突き当たりじゃ」
僕は自分の家の間取りを彼女に指導されて、洗面所で昂った神経を無理やり鎮めた。
そして、数分後──。
部屋に戻ると、露西亜は玄関の近くに立っていた。
何やらごそごそとしていたが、僕の姿を見ると、サッと手を後ろに隠した。
「……どうかした?」
「な、何でもない! ただ、敵の侵入経路を再確認していただけじゃ!」
彼女は露骨に挙動不審だった。
「そっか。異常なし?」
「うむ。異常なし! おかげで多くの法力がみなぎっておる……これで三日は持つだろう、ここで妾は撤収する」
彼女は逃げるように靴を履き、顔を真っ赤にして出て行った。
その時、僕は気がついていなかった。
僕の部屋の玄関に置いていた、スペアキーが一つなくなっていたのだ。
その夜に気がついたが、時すでに遅し。
間違いなく、彼女が無断で持ち帰ったのだ。
彼女は僕に条例違反をさせまいとしておきながら、自分は万引きをしたのだ。
彼女にはちょっとしたストーカーの気がある。
巫女姿で会う前、コンビニ付近で時々付けられていたのを思い出す。
そうして、僕の行動を観察し、僕が友人たちと話していた情報を何らかの形で拾い集め、あの日、神社でおみくじを引くことを見通して、待ち伏せしていたのだ。
きっと、これからますます僕のことを監視するつもりだろう。
──まあ、別に隠し事もないし、構わないや。
あの子がお金を泥棒するはずもないし、僕はこの部屋には彼女以外の女性を連れ込むようなことはしたことがない。
だから、何の問題もない。しばらくは、彼女の好きにさせてやろうと思った。
ただ──。
僕は再び熱を帯びてくる、下半身に眉を顰めた。
「その代わり、こいつも好きにさせてほしいよな」
「……ここまでじゃ。これ以上は許可できぬ」
「え……? なんでだよ。君がこんなにしたんだよ」
「もちろん……妾のせいであろう。……じゃが……ならぬと言ったら、ならぬ!」
彼女の呼吸は、はあ、はあ、ふう、ふう、とこれまでにないほど乱れていたが、それを整えながら厳しい口調で言った。
「放出は……絶対にならぬ。断じてならぬじゃ」
「出しちゃいけないってこと?」
「左様。もし今、ここで生命の源を放出すれば……それは現世共同体の条例に、抵触する」
「……誰も見てない、私的な行為だよ」
「プライバシーやパブリックの問題などではない。事実として罪禍となるかどうかが問われることじゃ。妾の『器』が熟しておらぬのに……十八歳になっておらぬのに、どうして清らかな身を捨てられようか」
彼女の理屈は、やはり青少年保護育成条例のことだった。
快楽の刺激までは許しても、最後の一線──射精という「事実」の完了だけは、頑なに拒む。それが彼女なりの僕を犯罪者にしないための防衛線であり、彼女自身の清廉さを保つためのギリギリの妥協点でもあるらしかった。
「……生殺しだよ、そんなのは」
「秀一、そなたも耐えねば『浄化』にならぬ」
彼女は慈母のような微笑みを浮かべたが、その瞳には嗜虐的な光が宿っていた。背筋が凍った。
「試練を乗り越え、来るべき六月六日……妾の降誕祭まで待つことができたなら。その時は、一日中、そなたと共に過ごすこともできようが」
「……本当? その日が来たら、君は受け入れてくれるのかい?」
「造作もないこと。ここで約束しよう。その日、わがすべての封印を解くことを」
そんな約束をされてしまっては、頷くしかなかった。
僕は熱の篭った体を冷ますために立ち上がった。
「……トイレ、いいかな」
「許可する。浄化槽は廊下の突き当たりじゃ」
僕は自分の家の間取りを彼女に指導されて、洗面所で昂った神経を無理やり鎮めた。
そして、数分後──。
部屋に戻ると、露西亜は玄関の近くに立っていた。
何やらごそごそとしていたが、僕の姿を見ると、サッと手を後ろに隠した。
「……どうかした?」
「な、何でもない! ただ、敵の侵入経路を再確認していただけじゃ!」
彼女は露骨に挙動不審だった。
「そっか。異常なし?」
「うむ。異常なし! おかげで多くの法力がみなぎっておる……これで三日は持つだろう、ここで妾は撤収する」
彼女は逃げるように靴を履き、顔を真っ赤にして出て行った。
その時、僕は気がついていなかった。
僕の部屋の玄関に置いていた、スペアキーが一つなくなっていたのだ。
その夜に気がついたが、時すでに遅し。
間違いなく、彼女が無断で持ち帰ったのだ。
彼女は僕に条例違反をさせまいとしておきながら、自分は万引きをしたのだ。
彼女にはちょっとしたストーカーの気がある。
巫女姿で会う前、コンビニ付近で時々付けられていたのを思い出す。
そうして、僕の行動を観察し、僕が友人たちと話していた情報を何らかの形で拾い集め、あの日、神社でおみくじを引くことを見通して、待ち伏せしていたのだ。
きっと、これからますます僕のことを監視するつもりだろう。
──まあ、別に隠し事もないし、構わないや。
あの子がお金を泥棒するはずもないし、僕はこの部屋には彼女以外の女性を連れ込むようなことはしたことがない。
だから、何の問題もない。しばらくは、彼女の好きにさせてやろうと思った。
ただ──。
僕は再び熱を帯びてくる、下半身に眉を顰めた。
「その代わり、こいつも好きにさせてほしいよな」
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