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【第9話】この装備を何と見る?
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季節が冬から春へと移ろうとしても、僕たちの関係は奇妙な場所で足踏みを続けていた。
あの日、持ち去られたスペアキーによって、桐川露西亜は僕の部屋への侵入が可能になった。
だが、僕は気づかない顔をする。
二人はこれまで通り、外でデートをする。
しかし、彼女をラブホテルに連れていくことはできない。
僕は彼女に欲情しているし、彼女もそうだろうとは思うが、それはそれとして、僕はもともと彼女を安全圏から、愛でていくような付き合い方をしてきた。
だから、あちこちお出かけ先を考えて、そこへ彼女をリードしていくのが楽しかった。
しかし、彼女も生き物だった。
「人の目は、どこにでもある。法力を注入されねば、『浄化』が危うくなってくる。これでは、秀一の『大凶』を消去できぬではないか……っ」
生理的に満たされていないのだ。
そこから、また彼女は母親の残業の日を狙い、僕に急な呼び出し要請をする。
行っても欲求不満になるだけだが、あの子を一人であの家に置いておくことができなかった。
「おめー、最近、付き合い悪いよなあ。前の人妻とはどうなったんだ?」
「知らないよ。そんなのあったっけ」
「モテる男は羨ましいよ。忘れるほど女がいるんだから」
人聞きの悪いことをいう悪友の誘いを断って、駆けつける。
そうして、二人は薄暗い彼女の部屋で唇を重ねて、肌を合わせる。
いや、肌を合わせるという表現は、正確ではない。
「……秀一。法力充填の準備は整ったようだな。門外不出の儀をここに執り行おうぞ」
唇を離した露西亜が、僕の耳にいたずらっ子みたいな声で囁いた。
その日の露西亜は、近所の中学校の制服姿でいた。出身校のものらしい。いつもの軍服はクリーニングに出しているからとのことだった。
「露西亜、頼む……」
暗い部屋で僕が露出しようとすると、彼女は、「や」と甘い声で拒絶するかのように顔を背けて、両手でストップポーズを取った。
「尾籠なり、秀一。今は控えよ。妾はまだ、穢れなき巫女にして、まだ『器』の形を得ぬ身であるのだぞ。この装備を何と見る?」
そう言って、窮屈そうなセーラー服を指差した。
「そなたに、妾がまだ清らかな身の上であることを感得させるため、あえて聖なる衣を着たものぞ。かような優しき、わが心も読み取れぬというか」
そんなことを言われても、それは世間的にいうコスプレ遊びに近い。逆に僕を誘っているのだと思われても仕方がない格好じゃないかと思った。
「妾は、これよりわが法力増強のため、そしてそなたの『浄化』を加速するため、本来ならせぬことを恥を忍んで、受け入れようとするのじゃ。そなたは何もしてはならぬ」
そう言って、僕のズボンの上に彼女は手を伸ばした。
まるで危険な不発弾を扱うように、慎重な手つきで触れ始める。ぞくりと背中に鳥肌が立った。
「もちろん、そなたの精水を現世に流すことも許されておらぬ。なんとなれば、世俗共同体の条例がそなたを罪人とするがゆえ。さすれば、そなたは永遠に妾から切り離されて、『浄化』も叶わぬことになろう」
彼女は真剣な眼差しで、屹立したその部分で上下運動を開始する。
以前に比べると、その動きは、ちょっとしたプロのように洗練されていた。ネット動画か何かで熱心に研究したのだろう。
だが、それは表面的な動きだけで、一定のテンポで、ただ機械的に擦り上げるだけでしかない。
僕や男性の身体機能をよく理解しないまま、それらしく手を動かしているだけだ。
二人の顔が近い。キスを求めようと思ったが、彼女の顔はそれどころじゃなかった。
露西亜の額は、ひどく汗ばんでいた。真剣な目は、まるで手術室の執刀をする医師のように、まばたき一つしていなかった。
そこにあるのは、好奇心や欲情ではない、一種の義務感であるように思われた。
「秀一、気分はどうじゃ?」
「……とても、うまいです。このままだと、一時間後には絶頂に行きそうです」
これはもちろん、お世辞と事実だ。うまいどころか明らかに稚拙な動きだし、こんな弱い刺激を受け続けるだけでは、本当に一時間以上は、最後までいけそうにない。
この言葉を聞いた露西亜は、「左様か」と微笑みすら浮かべず、熱心に、丁寧に僕の下半身を撫で続けている。
「妾をどれほど『うまい』と思うか。いつもはどれほどの時間を要するのか。そなたは、どうしたら、我慢できる範囲で、妾の手技を堪能できるのか。すべて答えよ」
僕は湧き上がる欲求を抑えながら、努めて穏やかに素直な気持ちを伝えることにした。
「君はまだ不慣れだ。だから『うまい』と誉めたのも、他人と比較してのことじゃない。君の成長ぶりを誉めたんだ」
彼女の眉がぴくりと動いた。
「一人なら十五分ぐらい。……君が下手なんじゃない。一人の時は『処理』だから早い。でも今は違うだろ?」
すると、露西亜はポツリと「ほう……それはわがアカシックレコードの観測では得られなかった有益な情報だ」と呟いた。
「あとは最後の質問かな。悪いけどね、これ以上、君の手技を堪能することは、このやり方だと絶対にできないんだ」
「……絶対に、できない、と?」
露西亜は大きく首をかしげた。
あの日、持ち去られたスペアキーによって、桐川露西亜は僕の部屋への侵入が可能になった。
だが、僕は気づかない顔をする。
二人はこれまで通り、外でデートをする。
しかし、彼女をラブホテルに連れていくことはできない。
僕は彼女に欲情しているし、彼女もそうだろうとは思うが、それはそれとして、僕はもともと彼女を安全圏から、愛でていくような付き合い方をしてきた。
だから、あちこちお出かけ先を考えて、そこへ彼女をリードしていくのが楽しかった。
しかし、彼女も生き物だった。
「人の目は、どこにでもある。法力を注入されねば、『浄化』が危うくなってくる。これでは、秀一の『大凶』を消去できぬではないか……っ」
生理的に満たされていないのだ。
そこから、また彼女は母親の残業の日を狙い、僕に急な呼び出し要請をする。
行っても欲求不満になるだけだが、あの子を一人であの家に置いておくことができなかった。
「おめー、最近、付き合い悪いよなあ。前の人妻とはどうなったんだ?」
「知らないよ。そんなのあったっけ」
「モテる男は羨ましいよ。忘れるほど女がいるんだから」
人聞きの悪いことをいう悪友の誘いを断って、駆けつける。
そうして、二人は薄暗い彼女の部屋で唇を重ねて、肌を合わせる。
いや、肌を合わせるという表現は、正確ではない。
「……秀一。法力充填の準備は整ったようだな。門外不出の儀をここに執り行おうぞ」
唇を離した露西亜が、僕の耳にいたずらっ子みたいな声で囁いた。
その日の露西亜は、近所の中学校の制服姿でいた。出身校のものらしい。いつもの軍服はクリーニングに出しているからとのことだった。
「露西亜、頼む……」
暗い部屋で僕が露出しようとすると、彼女は、「や」と甘い声で拒絶するかのように顔を背けて、両手でストップポーズを取った。
「尾籠なり、秀一。今は控えよ。妾はまだ、穢れなき巫女にして、まだ『器』の形を得ぬ身であるのだぞ。この装備を何と見る?」
そう言って、窮屈そうなセーラー服を指差した。
「そなたに、妾がまだ清らかな身の上であることを感得させるため、あえて聖なる衣を着たものぞ。かような優しき、わが心も読み取れぬというか」
そんなことを言われても、それは世間的にいうコスプレ遊びに近い。逆に僕を誘っているのだと思われても仕方がない格好じゃないかと思った。
「妾は、これよりわが法力増強のため、そしてそなたの『浄化』を加速するため、本来ならせぬことを恥を忍んで、受け入れようとするのじゃ。そなたは何もしてはならぬ」
そう言って、僕のズボンの上に彼女は手を伸ばした。
まるで危険な不発弾を扱うように、慎重な手つきで触れ始める。ぞくりと背中に鳥肌が立った。
「もちろん、そなたの精水を現世に流すことも許されておらぬ。なんとなれば、世俗共同体の条例がそなたを罪人とするがゆえ。さすれば、そなたは永遠に妾から切り離されて、『浄化』も叶わぬことになろう」
彼女は真剣な眼差しで、屹立したその部分で上下運動を開始する。
以前に比べると、その動きは、ちょっとしたプロのように洗練されていた。ネット動画か何かで熱心に研究したのだろう。
だが、それは表面的な動きだけで、一定のテンポで、ただ機械的に擦り上げるだけでしかない。
僕や男性の身体機能をよく理解しないまま、それらしく手を動かしているだけだ。
二人の顔が近い。キスを求めようと思ったが、彼女の顔はそれどころじゃなかった。
露西亜の額は、ひどく汗ばんでいた。真剣な目は、まるで手術室の執刀をする医師のように、まばたき一つしていなかった。
そこにあるのは、好奇心や欲情ではない、一種の義務感であるように思われた。
「秀一、気分はどうじゃ?」
「……とても、うまいです。このままだと、一時間後には絶頂に行きそうです」
これはもちろん、お世辞と事実だ。うまいどころか明らかに稚拙な動きだし、こんな弱い刺激を受け続けるだけでは、本当に一時間以上は、最後までいけそうにない。
この言葉を聞いた露西亜は、「左様か」と微笑みすら浮かべず、熱心に、丁寧に僕の下半身を撫で続けている。
「妾をどれほど『うまい』と思うか。いつもはどれほどの時間を要するのか。そなたは、どうしたら、我慢できる範囲で、妾の手技を堪能できるのか。すべて答えよ」
僕は湧き上がる欲求を抑えながら、努めて穏やかに素直な気持ちを伝えることにした。
「君はまだ不慣れだ。だから『うまい』と誉めたのも、他人と比較してのことじゃない。君の成長ぶりを誉めたんだ」
彼女の眉がぴくりと動いた。
「一人なら十五分ぐらい。……君が下手なんじゃない。一人の時は『処理』だから早い。でも今は違うだろ?」
すると、露西亜はポツリと「ほう……それはわがアカシックレコードの観測では得られなかった有益な情報だ」と呟いた。
「あとは最後の質問かな。悪いけどね、これ以上、君の手技を堪能することは、このやり方だと絶対にできないんだ」
「……絶対に、できない、と?」
露西亜は大きく首をかしげた。
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