青年と母と娘、大凶の恋

羽翼綾人

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【第27話】堂々としたつきあいに変えて

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 彼女は、席に座る僕と桐子さんを交互に見て、探るような笑顔を浮かべた。
 何を話してたのか、彼女は聞かない。
 聞く勇気がないのだろう。
 けれど、僕が桐子さんに拒まれていないという事実だけで、彼女には十分な勝利だった。

「あの……母上、いや、お母さん」

 席に着いた露西亜が、意を決したように口を開いた。
 その瞳には、先ほどまでのような怯えではなく、確かな熱が宿っていた。

「私、もっと……小田原さんとお母さんと、三人でお話がしたいです。こういうお店ではなく……その、家で、お母さんとも。これからも時々」

 思い切ったことを言い出してきた。
 ここには、これまでの密会を、堂々としたつきあいに変えていきたいという意思が感じられる。
 そして、門限以外の時間、保護者と一緒でもいいから、僕と一緒にいたい気持ちもあるのだろう。

「……あなたが望むのなら、私は止めません。小田原さんは?」
「はい。お邪魔でなければ、僕からもお願いしたいです」

 露西亜の自立したい意思を支えようと思ってそう答えた。
 僕が二人の家庭に介入することで、親子の関係がよりソフトになるなら、それはそれで僕も気持ちがいい。
 実のところ、露西亜とコソコソ会うのは楽しかった。女性は人目に隠れて限られた時間に男性に接すると、かなり大胆になる。だから、その時間を手放すつもりはない。
 これからも桐子さんの目の届かないところで、それなりに楽しませてもらう。
 それとは別に、公然と桐子さんと顔を合わせられるようになるなら、それはとても嬉しい。彼女とは一度、男女の関係になったが、他の女性たちと違って、なぜかそこで興味が尽きない。とても好奇心を刺激させられている。

「では、私からスケジュールの相談をさせてもらってもいいですか? この子は未成年です。念のため、私たち二人で直接連絡が取れるようにしましょう。後で露西亜から、あなたの連絡先を教えてもらってもいいですか?」
「はい……ご配慮、ありがとうございます」

 露西亜の手前、二人がすでにLINEの連絡先を交換しあっていることは伏せなければならない。
 さっきは、露西亜の意思に合わせて、「桐川家にお邪魔したい」といい、今度は桐子さんに合わせて、連絡先をこれから教えてもらう形を演じる自分を、少しだけ奇妙に思った。

「……よかった! お母さん、ありがとうございます!」

 露西亜の顔が輝いた。
 彼女は、自分の世界に僕を招き入れる許可を、公式に勝ち取ったのだ。

「小田原さん。……ご迷惑でなければ、これからも娘をよろしくお願い申し上げます」

 桐子さんは、やわらかい微笑みを浮かべながら、よく通る事務的な口調で言った。

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 僕も微笑み返した。
 三人の笑顔が連帯感のような感覚を生み出す。
 だが、その微笑みの中にある感情は、きっと同じではない。
 店を出ると、夜風が少し冷たかった。

「では、ここで」

 バスの停留所で、二人と別れる。
 やがて、僕の横をバスが横切る。窓ガラスを見ると、そこに露西亜の白い顔が見えた。彼女も僕を目で探していたのか、こちらを凝視している。
 そして、通り抜ける際に、僕に向けてニカっと笑った。
 それは、いつもの勝ち誇ったようなドヤ顔だった。
 
 ──あれは、きっと母親の前では見せない笑顔だな。

 露西亜はここに成功体験を得たらしい。

 軽く手を振って、帰路につく。
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